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5秒制限やクォーター制――北中米W杯の“新ルール”はサッカーをどう変えた? 確かに魅力はあったが…【分析コラム】

5秒制限やクォーター制――北中米W杯の“新ルール”はサッカーをどう変えた? 確かに魅力はあったが…【分析コラム】


 北中米ワールドカップは、様々な新ルールが導入された。3分間のハイドレーションブレイク、スローインやゴールキックの5秒制限、選手交代の10秒制限、VARの適用拡大(2枚目の警告や誤ったCKにも適用)などが代表的だが、それらはサッカーという競技をどのように変えたのか。

 前後半の半ばに設けられたハイドレーションブレイクは、観戦者や視聴者を含め、かなり大きなインパクトがあった。

 ブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督や、イングランドのトーマス・トゥヘル監督など多くの監督は、ブレイク中の戦術やシステムの修正効果を認めている。選手がピッチサイドに集まり、ホワイトボードを持ったコーチや監督の熱弁を円になって聞く姿は一見、バスケットボールのようでもあり、サッカーが実質クォーター制になっていることを実感した。

 さらに身体的な疲労や劣勢のストレスを、一旦リセットする意味でも、この3分間の影響は大きい。試合の流れを表現するマッチモメンタムの波形グラフを各試合でチェックしてきたが、ハイドレーションブレイクの前後で山崩れして勢いが小さくなったり、あるいは沈下して逆チーム側の山が隆起するなど、変化が起きるケースは目についた。

 元々ブレイクがあろうとなかろうと、サッカーはこうしたモメンタムの変化が自然と起きるスポーツだ。それが最大の魅力でもある。今大会はその流れ=モメンタムを、人為的に操作する余地が増えたと言える。
 
 それ以外で新ルールによる明確な変化が起きたのは、ゴールキックだった。今大会はゴールキックを意図的に遅らせていると主審が判断した場合、5秒のカウントが実行される。
 
 面白いのは、ゴールキックをGKが蹴らないケースが急増したことだ。FIFAの技術研究グループ『TSG』の分析によれば、2018年ロシア大会では100%、2022年カタール大会では91%のゴールキックがGKによって当然のように蹴られてきたが、北中米大会のグループステージでゴールキックをGKが蹴ったのは、わずか52%にとどまった。

 CBが短いパスを出し、GKを含めて数的優位を作りながら相手のプレスを引き込み、ビルドアップしたり、あるいは引き込んで空けた前線のスペースにロングフィードを蹴ったりと、CBからゴールキックが始まるケースが激増している。

 これは2019年のルール改正に端を発する。かつてはゴールキック時、ペナルティエリア内でパスを受けることはルール上許されなかったが、この規制が撤廃され、ゴールキックをショートパスから始めやすくなった。とはいえ、それでも2022年のカタール大会の時点ではまだ、91%が従来通りにGKからゴールキックを行なった。これは自陣でショートパスをつなぎやすいことは必ずしもメリットではなく、逆にハイプレスの餌食になるリスクがあったからだ。

 しかし、その間にクラブレベルでは、自陣深くに相手のハイプレスを引き込み、食いつかせてロングフィードで打開する戦術が浸透していく。2025年のクラブワールドカップを例に取ると、ゴールキックをGKから始めるケースは70%にまで下がっていた。そして今回の北中米W杯では52%と、より一層低下している。
 
 クラブと代表のサッカーを直接比較するのが、雑な試みであることは承知しているが、一般的に代表チームの国際大会はリスクを嫌う保守的なスタイルが多く、戦術の先進性はクラブよりも低い。それにもかかわらず、今回の北中米W杯ではGKがゴールキックを行なうケースが52%と、より一層の変革を示したのは、5秒制限ルールの影響が大きいと見ている。

 従来のように味方を押し上げて集結させ、ロングキックを行なう。こうした時間を要するゴールキックが今大会、特にスコアリードした状況では、時間制限の対象になる可能性がある。慌てて蹴らされるくらいなら、いっそクイックリスタートして相手を動かし、蹴ったほうが利益は大きい。近年のサッカー界で進んでいた戦術的なトレンドを、5秒制限の新ルールが後押しし、W杯への浸透を加速させたのではないか、と推測する。

 また、こうしたゴールキック等の時間制限ルールは、戦術の変化だけでなく、従来のサッカーに存在した時間稼ぎを減らし、終盤まで試合がスムーズに流れるように、サッカーを変えた。その影響があるのか、今大会は終盤に試合が動くケースが目立つ。得点数自体も、今大会はグループステージで1試合平均2.95ゴールと、ここ数十年のW杯では最も多い。

 ただし、今大会は48か国への拡大による実力差の乖離など、レギュレーション上の変更点が多岐にわたるため、こうした因果関係を一つに断定することが特に難しい。スローインやゴールキックの時間制限などは、恒久ルールとして来季から世界各国のサッカーに導入されるので、新ルールによる変化を改めて見極めたいところだ。
 
 ハイドレーションブレイク、そして時間制限。

 それらの新ルールが導入されたサッカーには、確かに魅力があった。質が落ちない。テンポが落ちない。小気味よい。しかし一方で、今大会のサッカーにはやや機械的な印象も受けている。時間を使うことが許されないので、試合が一定の、一本調子のハイテンポで進んでいく。

 上でも書いたが、サッカーの試合に存在する流れ、モメンタムは元々、自然に任せるものだった。一つのプレーやゴール、アクシデント、選手の振る舞い、あるいはメッセージを込めた交代などがきっかけになり、試合の流れは予想できないタイミングで動いていく。

 その要素が消えたとは思わないが、今大会のハイドレーションブレイクの存在は、それらのモメンタムをリセットしたり、コントロールしたりと、ある程度の整理を可能にした。

 従来のサッカーでは、一度キックオフの笛が吹かれたら、45分経つまで監督はわずかな指示と交代以外では、ピッチ内の選手に任せて見守ることしかできなかったが、今大会は違う。試合に何らかの変化が起きるなら、おそらくハイドレーションブレイク時だろうと、見ているこちらも予測できる。

 ほかのスポーツと比べて、数字で測れないのがサッカーの面白いところだと思ってきた。だが、北中米W杯のサッカーは良くも悪くも、数字で測れない部分が少し減ったように感じている。

文●清水英斗(サッカーライター)

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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