ドラマ「夫婦別姓刑事」で夫婦役を演じた佐藤二朗と橋本愛をめぐるフジテレビのハラスメント対応が大炎上している。
橋本は約10年前、ある舞台での性的ハラスメント被害がトラウマとなり、男性との接触に制限があるという、2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」で蔦谷重三郎の妻ていを演じた際には、最終回で横浜流星の肩を抱くシーンがあった。
「べらぼう」には遊郭が登場し、性的表現が多い。ほぼ全裸で演技する女優たちの精神的負担を考慮して、監督や演出家との調整役となるインティマシー・コーディネーターを起用。視聴者は老舗書店の跡取り娘と成り上がりの蔦重という身分違いの夫婦が徐々に親密になっていく2人の演技にぐいぐい引き込まれたが、コーディネーターの存在が大きかったのかもしれない。
フジテレビの発表によると「夫婦別姓刑事」では企画段階で橋本の所属事務所から「過去のハラスメント被害によるトラウマがあり、ベッドシーンやキスシーンの制約が出る可能性がある」との話が出ていたという。にもかかわらず、フジテレビは「インティマシー・コーディネーターを現場に入れる必要はない」と判断し、導入しなかった。さらに橋本のトラウマについて、夫役の佐藤には伝えない判断をした。
その佐藤も2024年に自身の公式Xアカウントで、子供の頃からの強迫性障害をカミングアウトしている。強迫性障害とは、いったん何かが気になると、頭では大丈夫だとわかっていながら、どうしても確認作業を止められなくなってしまう心の障害だ。
佐藤が自身の経験を映画にした「memo」では、忘れてはいけないという強い不安から、日常のあらゆることをメモに残さないと気が済まなくなり、メモを取り続ける苦悩が描かれていた。
フジテレビは心に闇を抱える2人をダブル主演にキャスティングしたのに、インティマシー・コーディネーターを導入せず、車を運転している橋本の肩を佐藤が叩くシーンなど、ストーリー上は必要と思えないボディータッチシーンを盛り込んだ。たび重なるボディータッチの演出で橋本の苦痛が我慢の限界に達したのは理解できるし、一方の佐藤が限界を感じて降板を申し出たにもかかわらず、それも認められなかった。
ここで思い出すのは、中居正広による女性アナウンサーへの性加害案件だ。第三者委員会は性加害を事実と認定した上で、女性アナウンサーが性被害を受けてPTSDを発症したことを軽視し、適切な調査や人権救済を行わず、加害者を番組に出演させ続けたと認定。組織を守るために隠蔽に近い対応をとったことが、女性アナウンサーの復職への希望を断ち切り、精神的な苦痛をさらに深める「二次加害(セカンドレイプ)」になったと断罪している。
当事者の心の病を軽視する点は「中居案件」と同じ
今回もフジテレビは橋本からはハラスメント被害、佐藤からは「我慢の限界だからドラマを降板させて。そして全ての事実を公にするべき」と申し出があったのに、番組打ち切りやキャスティング変更などの対応を取ることはなかった。組織の保身を優先し、当事者の心の病を軽視する点は、中居案件と同じ構図なのだ。
中居案件後に局内に発足したフジテレビ人権委員会の人選にも、疑義が出ている。同委員会の副委員長に任命された寺原真希子弁護士は日本国内で同性婚(婚姻の平等)の法制化を推し進めている一般社団法人「Marriage For All Japan(マリッジ・フォー・オール・ジャパン)」代表理事で、国内LGBTQ+権利運動の先駆者だ。
国を相手に「同性婚が認められないのは憲法違反である」として、全国で訴訟を起こしている。特定の社会運動家がテレビ局を監視する要職に就くのは「報道や番組の公平性に影響し、番組の制作内容や現場のルールに圧力がかかるのではないか」と懸念されてきた。
その懸念は当たり、人権委員会は「佐藤さん(男性俳優)が、橋本さん(女性俳優)が演技上の制約(過去のトラウマ)を持っていることを知りながら発した言葉や行動は、配慮を著しく欠いており問題である」と断じて、佐藤に厳重注意したという。
「夫婦別姓」という政治的ワードも、橋本のトラウマの原因となった性加害者ではなく事情を知らなかった佐藤が悪者に仕立てられるのも、このハラスメント案件は実にウサン臭い。俳優2人の心の病を軽視して何の対応もとらなかった制作サイドに厳重注意をしないとは、人権委員会は誰のためにあるのか…。
(那須優子)

