
明らかに暑さの種類が違う。決勝が行なわれるのは東海岸のニューヨーク。選手、観客、大会に関わるすべての人の身の安全を願う【W杯戦記】
前回、アメリカ西海岸の思わぬ寒さを伝えたばかりだが、東海岸にやってくると一転、とんでもない暑さが待っていた。
今回のワールドカップ取材では、まず日本が2試合を戦うダラスに入り、チュニジア戦が行なわれたメキシコ・モンテレイへの移動を挟んで、計およそ2週間を過ごした。
ダラスも暑かったのは確かだ。しかし、それでも日陰に入ると、しのぎやすく、風でも吹けば、意外なほど涼しかった。
ところが、フィラデルフィアにやってくると、明らかに暑さの種類が違う。東海岸を熱波が襲っていると聞いてはいたが、日本の暑さを経験しているのだからと、少々甘く見ていたかもしれない。
湿気をともない、空気そのものが熱せられているとでも言おうか、日陰に入ってもほとんど暑さはやわらがない。スタジアムへ向かうさなか、歩道に面した銀行に設置された温度計を見ると、「100°」を表示していた。
華氏100度を摂氏に置き換えると、およそ37、38度といったところだが、温度表示が三桁に達するインパクトは凄まじい。目から入る情報で、暑さが一層増してくるようだ。
命にかかわる危険な暑さ。そんな表現は決して大げさではない。実際、この日の気温は、体感温度では42、43度に達するという予報もあったほどである。
こうなると、心配になるのが、試合をする選手たちだ。
この日、フィラデルフィアで行なわれた試合は、ラウンド16のパラグアイ対フランス。現地17時キックオフだが、まだ日は高く、試合開始時点ではピッチ上のほぼ全面を太陽が照らしていた。
それまで圧倒的な強さを見せてきたフランスが、PKによる1点を奪って辛うじて勝利したのは、狡猾なパラグアイの術中にはまったことばかりが理由ではないだろう。
だが、厳しい暑さは、スタンドで試合を見守る観客にとっても同じことだ。
幸いにして記者席があるメインスタンド側は、試合前も含め、常に日陰になっていたが、バックスタンド側は激しい直射日光に照りつけられていた。
日陰のスタンドにただ座っているだけでも、Tシャツの内側で汗が肌を伝っていくのが分かるほどなのだから、向かい側の観戦環境たるや、想像するのも怖くなる。
ハーフタイムになると、メインスタンド側でも冷たい飲み物を買いに行く観客は多かったが、それでもスタンドにとどまる人のほうが数は多い。
しかしながら、バックスタンドに目をやると、客席はほとんどもぬけの殻。観客が席についていれば見えなくなるはずの、スタンドに描かれたフィラデルフィア・イーグルスのマークまで見えてしまっていた。
何か冷たいものも欲しかっただろうが、何より日の当たらないところに逃げたい、との思いが強かったからに違いない。
かつて、2022年ワールドカップがカタールで開かれることが決まった時、当時はあくまでも6、7月の開催が前提だったため、いくらスタジアム内は空調設備をつけると言っても、移動する観客はどうするんだ、入場を待つ間や、シャトルバスを待つ間は灼熱にさらされることになる、そんな批判の声が上がっていた。
だが、そのような問題は、もはや中東だけに限った話ではなくなっている。
今大会の決勝が行なわれるのは、東海岸のニューヨーク。キックオフ時間は18時。もちろん、その日の気象条件次第だが、厳しい暑さの中で試合が行なわれる可能性は高い。選手、観客、そして大会に関わるすべての人の身の安全を願いたい。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)
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