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【現地発コラム】前例がないほど非イタリア的な「新生ミラン」、アメリカ的な機能分散型の組織形態、新監督アモリム招聘の舞台裏――クラブ要職を刷新した名門の行く末は

【現地発コラム】前例がないほど非イタリア的な「新生ミラン」、アメリカ的な機能分散型の組織形態、新監督アモリム招聘の舞台裏――クラブ要職を刷新した名門の行く末は

ワールドカップが佳境に入るのを横目で見ながら、ヨーロッパのクラブは2026-27シーズンに向けた体制作りとチーム編成を進めている。イタリア・セリエAにおいて、その観点から見て最も大きな変革があったのは、経営トップのCEOから監督までクラブの要職を総入れ替えし、実質ゼロから再スタートしようとしているミラノの名門、ACミランだろう。

 昨シーズンの結末は苦いものだった。新たに招聘したマッシミリアーノ・アッレーグリ監督の下で、シーズン後半の3月まで優勝争いに踏み止まりながら、ラスト8試合でわずか2勝しかできず、2位から5位に転落してシーズン終了。スクデットどころか、クラブにとって最低ノルマだったはずのチャンピオンズリーグ出場権にすら、8位に終わった前年(24-25)に続いて手が届かずに終わった。

 残り2試合でCL出場権が微妙になるという状況を受けて、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューに応じたオーナーのアメリカ人投資家ジェリー・カルディナーレは「優勝できないことは落胆でしかないが、CLに出られないのは破綻だ」と語っていた。

 アッレーグリという結果至上主義の指揮官を迎え、ある意味ではなりふり構わず目先の結果に全振りしたにもかかわらず、最低ノルマすら達成できなかったという結果が、ミランの経営にはもちろん、カルディナーレのイメージとプライドにも大きなダメージを与えたことは明らかだ。

 これを受けたカルディナーレは、シーズンが終了して間もない5月25日、クラブの実質的な経営トップだったジョルジョ・フルラーニCEOを筆頭に、テクニカルダイレクターのジョフロワ・モンカダ、1年前にスポーツダイレクターに就任したイグリ・ターレ、そしてアッレーグリ監督と、クラブ運営にかかわる要職に就く幹部を丸ごと解任するという、きわめて強い決断を下す。

 フルラーニやモンカダ(とりわけ前者)は、サポーターの間では近年の不成績の「元凶」とみなされ抗議の対象となっていたため、解任そのものは驚きではなかった。しかし問題は、そのフルラーニから現場のトップであるアッレーグリまでを文字通り「一掃」した結果、クラブのマネジメントが一時的にとはいえ完全に空洞化したことだった。

 それからの数週間、他のライバルクラブがすでに新シーズンに向けたチーム強化に動いている中、ミランはクラブとしてほとんど機能停止した状態で、オーナーが新たな経営陣、スポーツ部門の統括責任者、そして監督を選ぶのを待つ以外になかった。

 スポーツビジネスに特化したファンド「レッドバード・キャピタル」を率いて大きな成功を収めてきたカルディナーレだが、本質的には銀行家、投資家であり、プロサッカークラブの経営、チームの編成強化、監督の仕事などについて深い知見を持つわけではない。

 レッドバードにはシニア・アドバイザーという肩書きでズラタン・イブラヒモビッチが迎えられているが、そのイブラはW杯期間中を通じてアメリカTV局のコメンテーターとして大活躍中であり、ミランの再構築に中心的に関わっているようには見えなかった。

  カルディナーレが片腕として頼りにし、結果的にCEOの座に就けてミランの経営を委ねることになったキーパーソンは、元プロテニスプレーヤーのマッシモ・カルベッリ。ATPランキング最高255位というキャリアを持ち、引退後はナイキ、ウィルソン、アメアスポーツというスポーツ用品メーカーの要職を経て、2020年から2025年まで男子プロテニス協会のCEOを務めるなど、スポーツマネジメントの分野でキャリアを築いたイタリア人だ。その職を辞した昨年にレッドバード入りして、すぐにカルディナーレに重用されるようになった。

 そのカルベッリとカルディナーレが進めたミランの新体制を担う人選は、しかし順調には進まなかった。

 スポーツ部門全体を統括するテクニカルダイレクター(TD)、現場でトップチームを率いる監督という2つのポストについて、それぞれ複数の候補をリストアップ。「面接」するというプロセスの中で、当初TDの有力候補として浮かび上がったのは、現オーストリア代表監督のラルフ・ラングニックだった。

 ゲーゲンプレッシングを「発明」して、ユルゲン・クロップからオリバー・グラスナー、ロジャー・シュミットまで数多くの監督に戦術的影響を与え、2000年代末からテクニカルダイレクターに転身して、現在は大宮アルディージャも傘下に収めるレッドブルグループのフットボールモデルをほぼゼロから築き上げた名伯楽だ。

 だが、そのラングニックが自身の哲学に従ってスポーツ部門にかかわる全権(トップチームからアカデミーまでの総合的戦略、予算執行権、人事権まで)を要求したのに対し、レッドバード側はそれを受け容れることができずに交渉が停滞、話はワールドカップ開始を前に破談となる。

 ただしその時点では、ラングニックの下での監督候補として名前が挙がっていたオリバー・グラスナー、マティアス・ヤイスレという2人のドイツ人はリストに残っており、彼らの起用を前提としたTD候補として、新たにマルクス・クレーシェ(フランクフルトSD)の名前も浮上した。

 一方、TDの人選とは別に進められていた監督候補のリサーチでは、ウォルバーハンプトンで好成績を残したアンドニ・イラオラの名前も挙がっており、カルディナーレやカルベッリとコンタクトがあったと伝えられていた。しかしこちらも、イラオラが複数のオファーの中からリバプール行きを選んだことで消滅。そうした中で有力候補として浮かび上がってきたのが、当初からリストには挙がっていたルベン・アモリムだった。

 スポルティング・リスボンで大きな成功を収めて、マンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれたものの、結果を残せず昨シーズン途中で解任されていたアモリムは、マルセロ・ビエルサやジャン・ピエロ・ガスペリーニの影響を受けたマンツーマン志向の強い3-3-3システムに強いこだわりを持つ指揮官。

 ラングニック一派が奉ずる4-4-2/4-2-3-1のゾーナルプレッシングとは、そもそもの戦術的な方向性として大きく異なるタイプである。だが、ラングニックとの交渉がまとまらなかったことで「ドイツ路線」が行き詰まり、時間だけが過ぎていく中で、ミランに残された選択肢は多くはなかった。

  こうして6月16日、ミランはアモリムの監督就任を発表する。この時点でTDへの就任が濃厚と見られていたクレーシェもこの選択を支持しているというのが、マスコミの報道だった。しかしそれから間もなく、フランクフルトが契約解除に難色を示したため、クレーシェのミラン入りは不可能になったというニュースが流れる。

 これによって、本来ならば監督人事やチーム編成を含めたスポーツ部門全体の戦略と運営を司るべきTDが空席のまま、監督だけが決まるというちぐはぐな状況が生まれてしまった。

 この状況がようやく解決され、新シーズンに向けたミランの組織体制が明確になったのは、それからさらに1週間を経た後のこと。意外なことに最終的に選ばれたのは、これまでイタリアのクラブではほとんど見られなかった、アメリカ的な機能分散型の組織形態だった。

 スポーツ部門を統括するTD、移籍交渉を担うSDというオーソドックスな役職を置かず、それらすべての意思決定権をCEOのカルベッリに集約したうえで、トップチーム監督、移籍交渉、データ、スカウティング、アカデミーという各分野の責任者をその下に置く次のような構成だ。

ルベン・アモリム(トップチーム監督)
ヘンドリク・アルムスタッド(プレーヤートレーディング・ダイレクター)
ボビー・ガーディナー(フットボールインテリジェンス・ダイレクター)
ドナート・ロモンテ(ヘッド・オブ・スカウティング)
ヨバン・キロフスキ(ミラン・フトゥーロ=U23チーム統括)
ヴィンチェンツォ・ヴェルジネ(アカデミー統括)

 最も気になるチーム強化と編成に関しては、トップチームを率いるアモリムの構想に基づいてCEOが強化戦略を定め、それを受ける形でスカウティング部門とデータ(フットボールインテリジェンス)部門がリストを絞り込み、プレーヤートレーディングを担当するアルムスタッドが具体的な移籍交渉を行なうという形になることが想定される。

 アルムスタッドとガーディナーは、2019年に当時のCEOイバン・ガジディスがプレミアリーグからスカウトしてきた人材で、データを活用したチーム、選手のパフォーマンス分析とスカウティング、リクルーティングのエキスパート。ともにプロレベルでのプレー経験はなく、バックエンドのオフィスワークでキャリアを積み重ねてきたタイプだ。

 唯一ロモンテだけは、UEFA-Bのコーチングライセンスを保持しており、アマチュアクラブ監督、セリエBクラブのアシスタントコーチとしての現場キャリアを経て、2017年からミランのスカウト部門で仕事をしてきた。

 ここから明らかなのは、カルディナーレは、イタリアをはじめヨーロッパで一般的なガバナンスモデル(チームの強化・運営のエキスパートであるTDやSDという専門職に意思決定を含む全権を委ね、自らは一歩引いたところでオーナーとして振る舞う)を排し、オーナーと直結したCEOに全権を集中させ、チーム強化や運営の仕事もマーケティングや財務と同様に複数の部門に再編・分業化する英米型のガバナンスモデルに移行する決断を下したということ。

 スポーツ部門の総括責任者として全権(いわば自治権)を握ることをTD就任の条件としたラングニックと折り合わなかったのは、まさにその点だったと見ることができる。

  カルディナーレは元々、「マネーボール」の主人公のモデルとして知られるビリー・ビーンと親密な関係にあるなど、スカウティングや移籍オペレーションにもデータ分析を積極的に導入するべきだという考え方の持ち主。TDやSDの「目利き」に頼らずとも、高度なデータ分析を駆使したスカウティング手法によってチーム強化に必要な戦力の特定やリクルーティングは可能だという立場ゆえに、その領域の意思決定権や人事権を手放すことを嫌ったことは、容易に想像がつくところだ。

 この「新しいミラン」はおそらく、セリエAではこれまでに例がないほど非イタリア的、かつ「データドリブン」な組織になるだろう。少なくとも、カルディナーレの意向がそこにあることは間違いないところ。それが、アモリム新監督を迎えて陣容も大きく入れ替わることが予想されている今夏のチーム編成において、どのように働き、どのような陣容を完成させるのかは、非常に興味深いところだ。

 ただ、移籍市場(カルチョメルカート)は、データ分析だけではとても割り切れない、魑魅魍魎が渦巻く面妖な世界であることも確か。高度なデータ分析によりチーム強化にとって最適なターゲットの特定に成功したとしても、そのターゲットとの交渉を成功裏に運び契約にまでこぎ着けることができるかは、また別の話だ。

 その観点から見た時、移籍交渉の責任者が、ファイナンス畑の出身でデータの扱いに長けてはいても、移籍交渉の現場における実績には乏しいアルムスタッド(アストン・ビラのSDを務めた15-16にはチームが降格している)だというのは気になるところではある。

 すでにミランは、今夏の補強の第一弾として、ポルトガル代表FWゴンサロ・ラモス(パリSG)の獲得に成功している。しかしこれは、アモリムともつながる大物代理人ジョルジュ・メンデスの手引きによるもので、投じた移籍金7400万ユーロも本来の「相場」からすれば明らかに割高な金額だ。

 さらに、もうひとつの補強ポイントであるセンターバックにも、やはりメンデスの顧客であるポルトガル代表アントニオ・シウバの名前が挙がっているなど、今のところミランの移籍オペレーションは「データドリブン」というよりも「エージェントドリブン」と言った方がいいほど、メンデスへの依存度が高いのが実情のように見える。

 経営陣から監督までクラブの要職を総入れ替えするという思い切った決断が、2年に渡って迷走を続けてきたミランをどこに連れて行くのかは、現時点ではまだ想像することすら難しい。当面はアモリム新監督の下でどのような移籍オペレーションが行なわれ、どのようなチームが構築されるのかを見守っていくしかない。

文●片野道郎

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配信元: THE DIGEST

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