
ブラジル相手に「ボールを保持したいと考えていた」。ノルウェー指揮官の明確な狙い。プランを象徴したハーフタイムの“二枚替え”【W杯】
北中米W杯のラウンド16でブラジルを2-1で破り、初のベスト8進出を果たしたノルウェー。最大の立役者は2ゴールを決めたアーリング・ハーランドだろう。世界最高クラスのストライカーが勝負どころで決定力を発揮した。しかし、この歴史的勝利をそれだけで片付けるべきではない。
勝因は、ストーレ・ソルバッケン監督が描いたブラジル攻略のゲームプランを、チーム全員が90分を通して遂行したことにあった。ソルバッケン監督は「この試合に勝つためには、ボールを保持し続ける必要がありました。時間をかけた攻撃を続けながら、好機が訪れるのを待つことが大切だった」と明かした。
この言葉は、多くの人が抱いていた試合のイメージとは違っていたかもしれない。ノルウェーの武器は鋭いカウンター。一方のブラジルは、イタリア人のカルロ・アンチェロッティ監督が率いていると言っても、伝統的にはボールを握りながらアタッキングサードで高い個人能力やコンビネーションを発揮するスタイルだ。
だからこそ、ノルウェーは守備を固めて速攻を狙うと予想されていた。ところが実際は、ノルウェーが67%という高いボール保持率を記録した。これについて監督は「驚きはなかった」と言い切る。
「最初からボールを保持したいと考えていた。密集地帯からボールを逃がし、時間をかけたビルドアップをしたかった」
ソルバッケン監督の狙いは、ブラジルの攻撃を手堅く防ぐより、彼らが攻める時間そのものを減らすことだったのだ。ボールを保持し続ければ、ブラジルが得意とするトランジションは生まれない。クロス攻撃や、カゼミーロが後方から飛び込んでくる形も封じられる。
「ブラジルの守備エリアでボールを保持し、相手を疲れ果てるまで走らせる。そして最後に仕留める」。それこそがソルバッケン監督の狙いだった。
このプランを象徴したのが、ハーフタイムの“二枚替え”だ。オスカー・ボブとアンドレアス・シェルデルップを投入した理由について、ソルバッケン監督は「狭いスペースでボールを失わず、攻撃を長く続けられる選手だから」と説明する。
相手を突破するためではない。ボールを失わないための交代だった。その結果、ノルウェーはサイドで三角形を作りながらブラジルを揺さぶり続け、終盤になるにつれて相手の運動量を奪っていく。
試合終盤に差し掛かる79分、シェルデルップのクロスに、ハーランドが豪快に頭で合わせてノルウェーが先制。そして終了間際には、再びハーランドが左足の強烈なシュートで勝負を決めた。
どちらもハーランドの決定力が際立ったゴールだったが、その前提には80分近くかけてブラジルを走らせ続けたチーム全体の積み重ねがあった。
もちろん、ブラジルに決定機を作られることはあった。前半にはPKをGKエルヤン・ニーランが阻止し、後半アディショナルタイムにはカゼミーロが獲得したPKをネイマールに決められた。それでも90分を通して、ノルウェーのプランがしっかり反映された結果の勝利と言える。
それを可能にしたのは、監督が試合前に描いたプランを選手たちが信じ抜いたことだった。「時には自分のやっていることを信じる必要がある。直感に従うべき時もある」とソルバッケン監督。さらに印象的だったのは、「試合は一つのメンバーで始まり、別のメンバーで終わる。試合を締めくくる11人は、先発と同じくらい重要だ」という言葉だ。ハーフタイムの“二枚替え”は、指揮官の哲学を体現する采配だった。
その交代策の背景には、ブラジルの特徴を徹底的に分析し、「ボールを持つことで相手の長所を消す」という明確な戦術プランがあったのだ。最後に監督は、「アーリングがマッチウィナーになった。しかし、試合に出場した全員に満足している。ノルウェーサッカー史上最高の夜に、全員で掴み取った勝利だ」と締めくくった。
歴史に残るのは、ハーランドの2ゴールかもしれない。その2ゴールは、ブラジル相手にボールを保持するプランをやり続けたことで生まれた。ノルウェー初のベスト8進出は、1人のスーパースターだけではなく、ソルバッケン監督が築き上げた組織力でもたらされた。
取材・文●河治良幸
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