「human safari(人間狩り)」
アメリカのAP通信が現地取材で報じたところによれば、ウクライナ南部ヘルソンの住民たちは、自分たちの街が狙われる現状を、この不気味な言葉で呼んでいるという。
標的にされてきたのは、兵士だけではない。朝の通勤バス、自転車、買い物に出た住民、そして救急車。ミサイルによる大規模な破壊ではなく、上空から静かに追跡し、頭上で爆発する1機の小型ドローン。都市の生活圏そのものが「狩り場」に変えられている。
象徴的な事件が起きたのは、7月1日午前7時頃。ヘルソン州ヘルソン市中心部で通勤客を乗せたミニバスを、ロシア軍のドローンが直撃したのだ。州当局の発表をもとに複数の現地メディアが報じたところでは、2人が死亡し、9人が負傷。死者の中には、大学入学の書類手続きに向かう途中だった18歳の女性が含まれ、母親の目の前で命を落としたという。
ヘルソン州のプロクジン知事は「操縦者には、仕事に向かう人々を乗せた民間の交通機関だとはっきり見えていた。それでもこのテロリストは攻撃を選んだ」と猛烈に非難した。
ヘルソンは2022年11月にウクライナ軍が奪還した街だ。だがドニプロ川を挟んだ対岸には今もロシア軍が陣取り、街まで数キロという至近距離から小型ドローンを飛ばすことができる。解放されたはずの街が、空からの監視と攻撃にさらされ続けているのだ。
ロシア軍が飛ばしたFPV(一人称視点)ドローンは遠方から発射するミサイルと違い、操縦者がゴーグル越しのライブ映像で、最後の瞬間まで標的を追い続けられる。目の前の相手が兵士か、買い物袋を提げた住民かは、画面上で判別できる距離感だ。
国連の独立調査委員会は殺人にあたると結論づけた
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2025年6月の報告書で、2024年6月以降にロシア軍が手榴弾などを搭載した小型ドローンで歩行者や公共交通、救急車、救助隊員を攻撃してきたとして、少なくとも45件を文書化した。
国連の独立調査委員会も2025年、ヘルソン州でのドローン攻撃を広範かつ組織的なものと認定し、人道に対する罪としての殺人にあたると結論づけている。
一方、ロシア側は一貫して、民間人を標的にしていることを認めていない。操縦者は映像で標的を確認できる。それでも民間人と分かる相手が狙われた事例は、あとを絶たない。「誤爆」だけでは説明がつかないと問題視されるのは当然だ。
「狩り」は今なお続いている。7月6日朝にもヘルソン市中心部で民間車がドローン攻撃を受け、男性2人が死亡、女性2人が負傷した。同じ地区では別の車両も攻撃され、22歳の男性と42歳の女性医療従事者が負傷している。
地元メディア「MOST」は、州内の集落に1週間で約4400機のドローンが飛来し、うち93%はウクライナ側の防衛活動などで目標に到達しなかった、と伝えている。飽和的な攻撃が日常化している実態がうかがえるのだ。
安価な民生技術が、通勤バスの乗客を追う兵器へと変わった。ヘルソンで起きているのは遠い国の特殊な残虐行為ではなく、都市の生活圏そのものが標的になりうる「次の戦争」の姿なのである。
(ケン高田)

