
誰よりも痛感している。ハーランドの脅威を。イングランドにとって知らない相手ではない。問題は、知っていれば止められる相手ではないことだ【W杯】
イングランド代表にとって、北中米W杯の準々決勝・ノルウェー戦における最大の問題は分かり切っている。アーリング・ハーランドをいかに抑えるか、である。
もちろん、ノルウェーはハーランドだけのチームではない。マーティン・ウーデゴーが中盤で攻撃のタクトを振り、両サイドにはボールを前へ運べるアタッカーがいる。守備も組織されており、ベスト16でブラジルを破ったのは決して偶然ではない。
それでも、イングランドが最も神経を使う相手は、やはりハーランドだろう。厄介なのは、ハーランドの脅威が常に目に見える形で続くわけではないことだ。
英BBC放送は、ノルウェーのラウンド32のコートジボワール戦後、ハーランドについて「試合に深く関わらない時間が長くても、最後には決勝点を決める選手」と評した。
ハーランドは1-1で迎えた86分に決勝点を挙げた。英紙『デーリー・テレグラフ』は「86分間は目立たなかった彼が、たった一度の好機を逃さなかった」と注目している。これこそが、ハーランドの強みだ。
90分間、ボールを触り続けるタイプではない。味方の攻撃に絡まない時間もあるし、簡単に見えるシュートを外すこともある。それでも、勝負を決める場面になると突然、ゴール前に現われる。相手DFにとっては、そこが最も怖い。
長い時間、うまく抑えていたはずなのに、たった一度のクロス、たった一度のこぼれ球、たった一度の抜け出しで、すべてを持っていかれる。この点において、ハーランドほど厄介なストライカーはいない。
ブラジル戦の2ゴールは、彼の恐ろしさを改めて示した。
注目されたのは、アーセナルに所属するブラジル代表CBガブリエウ・マガリャンイスとのマッチアップだった。プレミアリーグでも何度も身体をぶつけ合ってきた2人。そのガブリエウを相手に、ハーランドは先制点の場面で前へ入り、空中戦を制した。
クロスに合わせたヘディングは、195センチの長身と強靱な身体、ゴール前での位置取りがすべて詰まった一撃だ。さらに2点目は、ペナルティエリアのわずかに外から左足を振り抜いた強烈なシュートで決めた。
武器はヘディングだけではない。ディフェンスラインの背後へ抜ければ、スピードで相手を置き去りにできる。左足を振らせれば、距離があってもGKにとっては危険なシュートになる。高さ、速さ、パワー、そして決め切る力。ゴールを奪うために必要な能力を、ハーランドは高いレベルで備えている。
イングランド代表の選手たちは、その事実を誰よりも深く知っている。
ハーランドはマンチェスター・シティに加入した2022年以降、38試合制のプレミアリーグで36得点、27得点、22得点、27得点と文字通りゴールを量産してきた。イングランドではリーグ20得点を超えれば一流ストライカーと見なされるが、ハーランドはそれを4シーズン、続けて上回っている。
しかもプレミアリーグ在籍4年で、得点王に輝いたのは3回。唯一ゴールデンブーツを逃したのは、リバプールがリーグ優勝を果たし、モハメド・サラーが得点王となった2024-25シーズンだけだ。
もちろん、相手チームが「ハーランド対策」をしていないわけではない。というより、これほど研究されているストライカーもいないだろう。それでも得点数は劇的に落ちない。
シティのようなチームでプレーしているから簡単に点が取れる、という見方もできるかもしれないが、プレミアリーグのDFは彼を止めるために身体を激しく寄せ、ラインを調整し、クロスの出どころを消そうとしてきた。それでも、ハーランドは毎年、20点以上を積み上げてきた。
今回のイングランド代表にも、プレミアリーグでハーランドと対戦してきた選手は多い。CBのジョン・ストーンズはシティで長くチームメイトだった。今年1月にクリスタル・パレスからシティに加入したCBマーク・ゲイも、現在はクラブでもハーランドと日々トレーニングを重ねる間柄だ。
CBエズリ・コンサやMFデクラン・ライスは、所属クラブでハーランドの怖さを味わってきた側の選手である。彼らからすれば、知らない相手ではない。問題は、知っていれば止められる相手ではないことだろう。
今回の準々決勝をより興味深くする縁もある。
ハーランドは2000年に、英国のリーズで生まれた。当時、父アルフ=インゲ・ハーランドはリーズ・ユナイテッドでプレーし、後にシティでもプレー。シティ退団後、ハーランド少年は3歳の時に家族とともにノルウェーへ移り住んだ。
そして年月を経て、ハーランドはシティのエースとなり、プレミアリーグを代表するストライカーになった。今度はノルウェー代表のユニホームを着て、イングランドの前に立ちはだかる。これほど縁の深い対決もあまりない。
ピッチ外の姿も独特だ。乳牛から搾ったままの生乳を好んで飲み、自宅では赤色光療法(レッドライトセラピー)を取り入れる。
生乳は地元農場から直接調達し、朝食時に2杯飲む。本人は「スーパーフード。飲むと身体の調子が良いんだ」と笑う。また、赤色光療法については、疲労回復や睡眠の質の向上を目的としているという。
どこまで科学的に証明されているかは別として、ハーランドが自分の身体と日常を細かく整えようとしていることは分かる。ゴールを奪うために、自分の生活まで作り込んでいるのである。
では、イングランド代表はどう守るべきか。
試合中、イングランドはハーランドだけを警戒していれば済むわけではない。ノルウェーはウーデゴーからのパス、サイドからのクロス、背後へのボールでハーランドを活かそうとする。ブラジル戦でも、ノルウェーはハーフタイムの交代でサイドの質を変え、ゴール前へより良いボールを届けた。イングランドに必要なのは、ハーランドとの直接対決に勝つことだけでなく、彼に良い形でボールを入れさせないことだろう。
ラインを下げすぎれば、クロスに対して勢いを持って入られる。逆に高く保てば、背後を突かれる。セットプレーでは最初の競り合いに勝たなければならない。ペナルティエリア周辺で左足を振らせるのも危険だ。
元イングランド代表DFのガリー・ネビルはこう指摘する。「90分、あるいは延長を含めた120分間、ハーランドを完全に封じるのは難しい」。だからこそ、彼に訪れる決定機の数をどれだけ減らせるかが勝負になる。
イングランドは、ハーランドを完全に消すことはできないかもしれないが、自由にさせれば、代償はあまりにも大きくなる。もちろん、プレミアリーグで彼の怖さを何度も見てきた選手たちは、誰よりも分かっているはずだ。
準々決勝の行方は、ハーランドにゴール前で何度、仕事をさせてしまうかにかかっている。
文●田嶋コウスケ
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