
ハリウッドの名優トム・ハンクスが、7月9日に70歳の誕生日を迎えた。役者としての活躍はもちろんのこと、テレビドラマシリーズの製作総指揮でも活躍。アメリカテレビ界のアカデミー賞ともいわれるエミー賞も受賞している。そんな彼が30年にわたって声を務めているディズニー&ピクサー映画「トイ・ストーリー」シリーズの最新作が、7月3日に日本でも公開された。そこで、あらためてハンクスの俳優としてのキャリアの変遷をたどる。(以下、出演作のネタバレを含みます)
■アカデミー賞主演男優賞を2年連続受賞の快挙
1980年公開のホラー作品「血ぬられた花嫁」で映画デビューしたハンクス。すぐさまキャリアアップというわけにはいかなかったが、1984年公開の主演映画「スプラッシュ」と「独身SaYoNaRa!バチェラー・パーティ」が相次いでヒットし、コミカルな演技が評判に。人気のコメディーバラエティー番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演すると、一気に注目された。
もちろん一概に言えるものではないのだが、演技の中でもコメディーは難しいとしばしば聞く。視聴者として感じるのは、笑わせようと気負っているのが伝わるとシラけてしまうことがあるし、間合いがズレると笑うタイミングを逃すこともある。そんなコメディー演技をハンクスは得意とし、映画「ビッグ」(1988年)、「ターナー&フーチ すてきな相棒」、ホラーコメディーの「メイフィールドの怪人たち」(ともに1989年)など、出演作をヒットに導いていった。
ヒットの立役者として揺るぎない地位を確立していく中で、大きな転機といえるのが1993年の映画だ。ラブコメ「めぐり逢えたら」で、“黄金コンビ”と称されたメグ・ライアンとロマンチックな瞬間を紡ぎ出した一方、「フィラデルフィア」では同性愛者であり、エイズ患者の弁護士という主人公に扮(ふん)し、病で痩せ細っていく姿を体現しながら、差別、偏見と闘う強さを表現。「フィラデルフィア」での息をのむほどの迫真の演技は、第66回アカデミー賞で主演男優賞に輝いた。
ただ、驚くことに、その翌年の「フォレスト・ガンプ/一期一会」でもアカデミー賞主演男優賞を受賞する快挙を果たした。ハンクスが演じたタイトルロールの“フォレスト・ガンプ”は、知能指数は人より劣るが、俊足と純真な心を持った青年。「フィラデルフィア」とは全く違うキャラクターを成立させ、「ガンプはハンクス以外考えられない」と後年になっても言われるほどの代表作となった。
■軍隊の大尉、無人島で生きる男性…キャラクターを際立たせる演技
名実ともにハリウッドを代表する俳優となったハンクス。ここからはアカデミー賞受賞後の出演作から、印象的なシーンをピックアップして、彼の演技を深掘りしてみたい。46年にわたり第一線で活躍しているだけに、あまりに作品数があるため、もちろん限定的となるが…。
スティーヴン・スピルバーグ監督とタッグを組んだ「プライベート・ライアン」(1998年)では、第二次世界大戦時、フランスのノルマンディー上陸作戦で行方不明になった兵士の救出に向かう部隊の大尉ジョン・H・ミラーを演じた。過酷な状況の中で、頼れるリーダーとして部隊を率いていくのだが、何度か手が震える様子が映し出される。
はっきりと明示はされず、見る人によって考える余地のある場面だが、ミラーの心理を表すようでもあり、スピルバーグ監督の演出に応える細やかな演技が光った。盛大なネタバレとなるが、ミラーが亡くなるシーン。体が傷つき、動けない中で、息も絶え絶えに言葉を発していたところから、視線が少し落ちたと思いきや、そのまま“生気”が感じられなくなった。まさに死の瞬間を見せたハンクスは圧巻だった。
「フォレスト・ガンプ 一期一会」のロバート・ゼメキス監督との2作目「キャスト・アウェイ」(2000年)は、飛行機が墜落し、無人島にたどり着いた男性の物語。無人島で4年間生き抜くということで、ハンクスのほぼ1人芝居により物語は進み、彼の実力をたっぷりと堪能できる作品だ。セリフが通常よりも少ない中で、“相棒”としたあるものに語り掛けるシーンは大きなポイントに。観客はその“相棒”に「まさか泣かされるなんて」と感想が出るほどに感情移入。ハンクスの演技によって没入感が高まった証と言えるだろう。
スピルバーグ監督と再タッグを組んだ「ターミナル」(2004年)は、祖国で起きたクーデターによりパスポートが無効状態になって入国を拒否され、アメリカの空港ターミナルに閉じ込められてしまう男性が描かれる。英語もろくに話せず、何が起きているのか分からなかったのが、留め置かれたターミナルにあったテレビ画面で祖国のニュースが流れ、涙を流して悟る冒頭のシーンで一気に引き込まれる。
「プライベート・ライアン」でもそうだったが、一瞬の表情だけで感情を伝える演技力が見事だ。その後は、ターミナル内のスタッフたちと交流し、ロマンスも。コメディーを得意とするハンクスのチャーミングさが存分に感じられる。
その他、クリント・イーストウッドが監督し、飛行機事故の実話を基にした「ハドソン川の奇跡」(2016年)では、乗客を守ったベテラン機長が英雄として称えられながら、追い詰められてもいることを表情に浮かび上がらせた。
「オットーという男」(2022年)では、親しみやすさが持ち味でもあるハンクスが町内一の嫌われ者の偏屈な老人役。それでもだんだん変化していくのに加え、心の奥底に潜む不器用さを感じさせ、奥行きのあるキャラクターにした。
さらにスピルバーグ監督と製作総指揮という形でタッグを組んだドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」(2001年)や「ザ・パシフィック」(2010年)では、エミー賞も受賞するなど、クリエーターとしても一流の才能を見せている。
■子どもたちにも大人気の「トイ・ストーリー」でハンクスが命を吹き込む
目や手という細部にまで神経を行き渡らせ、全身で演技して、いくつもの代表作を持つハンクスだが、声だけの演技で彼のキャリアで突出した人気を誇るキャラクターがいる。それが「トイ・ストーリー」シリーズのウッディだ。
第1作が全米公開されたのは1995年。世界で初めての長編フルCGデジタルアニメーションという記念すべき一作でもある。ディズニー&ピクサー映画が生み出し続けている“もしもの世界”の始まりで、「もしも、あなたが見ていないときにおもちゃたちが動いていたら?」を物語にした。
ハンクスが声を担当するウッディは、アンディという少年の一番のお気に入りだった保安官のカウボーイ人形。おもちゃたちのリーダー的存在で、仲間のことは絶対に見捨てないかっこいいヤツ。ハンクスの中低音で落ち着きと温かみのある声質は、ウッディのキャラにぴったりだ。
この役に起用された時期はというと、アカデミー賞を受賞した頃と時を同じくする。確かな演技力は声だけにも宿り、コミカルな間合いもバッチリで、特に相棒となるスペース・レンジャーフィギュアのバズ・ライトイヤー(CV:ティム・アレン)との呼吸の合わせ方はうなる。
時にシリアスに、また時にはホロリとさせるといった感情を揺さぶる演技を披露。おもちゃたちの大冒険という物語そのものの力とともに、「トイ・ストーリー」を30年にわたる人気シリーズに押し上げた。なお、全米では6月19日から劇場公開中の最新作「トイ・ストーリー5」でも、ウッディは重要な立場で作品を盛り上げている。
ハンクスが長いキャリアの半分以上の年月で携わり、命を吹き込んできたキャラクター。アメリカの今の子どもたちにとっては、トム・ハンクスというとウッディを思い浮かべることのほうが多いかもしれない。
一方、日本では人気俳優の唐沢寿明が同役の吹き替えを担当し、子どもたちとともに大人も吹き替え版で親しんでいるほうが多いかもしれない。この機会にオリジナル音声で、ハンクスの声の演技も堪能してみてほしい。
ちなみに、ディズニー映画で言えば実写版「ピノキオ」(2022年)でハンクスは木製のあやつり人形“ピノキオ”を作るゼペットじいさんを演じているのだが、ゼペットの家に飾られた鳩時計の一つがウッディという遊び心も。ハンクスの静かなる名演と共に、にくい“共演”も楽しんでみては。
「トイ・ストーリー5」は劇場公開中。「トイ・ストーリー」シリーズ過去作は、ディズニープラスにて配信中。
◆文=ザテレビジョンシネマ部

