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商業化への疑念を抱かせる「給水タイム」は、勝敗を左右する新たな戦術要素にも。90分を“4クオーター”で準備。強豪国はすでに順応している【W杯】

商業化への疑念を抱かせる「給水タイム」は、勝敗を左右する新たな戦術要素にも。90分を“4クオーター”で準備。強豪国はすでに順応している【W杯】


 今回の北中米W杯で導入された給水タイムに対して、ファンの反応は必ずしも好意的ではない。各ハーフの途中に3分間ずつ設けられるこの中断に、スタジアムではブーイングが起きている。特に空調の効いた会場でさえ試合が止められることに対し、「本当に必要なのか?」「広告収入のためではないか?」という疑念が広がっている。

 英国メディアでも、こうした批判は繰り返し報じられている。論点は大きく2つある。1つは、給水タイムの商業利用への不信感だ。

 開催国の米国をはじめ、一部の国では給水タイム中にCMが流されており、「選手保護」を掲げながら、実際には新たな広告枠になっているとの批判も出ている。

 もっとも、英国では事情が異なる。BBCは公共放送のためCMがなく、民放のITVも広告時間に厳しい規制があることから、給水タイムを新たな広告枠として活用していない。それでも英国メディアが問題視するのは、W杯という世界大会を通じて、サッカーそのものがさらに商業化へ向かっていく流れである。

 もう1つは、サッカーが「前後半制」から、アメリカンスポーツのような「4クオーター制」に近づくことへの違和感である。

 この懸念を最も鋭く表現したのが、ウルグアイ代表のマルセロ・ビエルサ監督だった。彼は「試合を2つの時間帯ではなく4つの時間帯に分けることは、人々が長年、培ってきたサッカーの捉え方そのものを変えてしまう」と語った。ビエルサ監督らしい言い方をすれば、サッカーの魅力は「流れの連続性」にある。だからこそ、人工的な中断はサッカーの醍醐味を変えかねない、というわけだ。

 この指摘はよく分かる。サッカーは本来、試合の流れが途切れにくいスポーツだ。バスケットボールやアメリカンフットボールのように、タイムアウトで細かく流れを切る競技ではない。だからファンが給水タイムに違和感を抱くのは当然だろう。
 
 ただし、ここで見落としてはいけないのは、今大会ではすでに給水タイムが「試合の一部」になっていることだ。制度への賛否とは別に、ルールとして存在する以上、監督や選手がそれを最大限に利用しようとするのは当然だ。そして実際、給水タイムは単なる水分補給だけでなく、試合の流れや戦術を左右する新たなポイントになっている。

 識者の間でも、この点はハッキリと語られている。元イングランド代表FWのガリー・リネカーが「今大会にはウォーター・ブレイク――いや、スポンサー的に言う『ハイドレーション・ブレイク』があります」と皮肉を込めて切り出すと、元同代表MFのジョー・コールは戦術的価値をこう説明した。

「試合の流れが悪い時、どんな名将でもタッチラインで腕を振ることしかできない時間がある。でも本当は、選手たちは『一度、試合を止めてくれ。監督に“君はこうしろ、ここを改善しろ”と言ってほしい』と思っているものなんだ。そうすれば試合の流れは変わる」

 米国女子代表監督のエマ・ヘイズも同じ見方を示した。

 現代サッカーでは、分析担当がリアルタイムで映像クリップを送り、修正点を伝える。給水タイムは、「それを選手に見せながら説明できる貴重な時間になる」という。「コーチにとっては貴重な時間なんです」と彼女は言った。
 
 一方で、流れが自分たちに来ている時なら、給水タイムなど欲しくないとも付け加えた。彼女が別の場面でこれを「モメンタム・ブレイク」、つまり「試合の流れを断ち切る時間」と表現したのは象徴的である。押している側には邪魔であり、押されている側には救いになる時間なのだ。

 実際の試合でも、それは明確に見えた。ラウンド16のイングランド対メキシコ戦。メキシコは立ち上がりから勢いよく入り、イングランドは苦しい時間帯を強いられた。だが、トーマス・トゥヘル監督のアシスタントであるアンソニー・バリーは、ハーフタイムのテレビインタビューで極めて率直に語っている。

「試合前から選手たちには、『最初の給水タイムまでは非常に厳しい戦いになる。苦しまなければならない』と伝えていた。メキシコはいつも立ち上がりが非常に速いチーム。そのため、苦戦は予想通りだった。前半の給水タイムを0-0で迎えられたことは、私たちにとって理想的だった」

 この言葉は重要だろう。

 イングランドは、給水タイムを「ただの水分補給の時間」として捉えていたのではない。最初の区切りまで耐えることを、あらかじめ試合運びの基準に設定していたのである。実際、給水タイム後にイングランドは少しずつ盛り返し、36分にカウンターから先制。さらに98秒後に追加点を奪った。
 
 もちろん、すべてを給水タイムの効果と断定することはできないが、少なくとも、バリーの言葉からは、現場がこの中断を「戦術的な節目」として計算に入れていることが分かる。

 かつてなら「前半45分をどう耐えるか」だったものが、今大会では「最初の23分をどう耐えるか」に変わっている。裏を返せば、メキシコも給水タイムを一つの節目と位置付け、最初の約23分間は高い強度でプレッシャーをかけ続けるゲームプランだったと考えられる。

 こうした傾向はイングランドだけではない。ブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督も、給水タイムの利点について「選手たちに問題点を説明し、戦術的な修正を加えることができる。それは非常に大きなメリットだ」と語っている。

 フランスのディディエ・デシャン監督も「これはもう前後半ではない。4クオーターだ」と認めたうえで、「そういう大会になった以上、選手も監督も、新しい現実へ適応していくしかない」と話した。

 スポーツ医学の観点からも、給水タイムには一定の合理性があるという。心拍数を下げ、体温を調整し、水分や電解質を補給できれば、運動強度や判断力の低下を抑えられる。暑熱環境の中で選手を守るというFIFAの説明にも、まったく根拠がないわけではない。

 しかし今大会を見ていると、給水タイムはもはや健康管理だけの時間ではない。監督が試合に介入する時間であり、劣勢のチームが呼吸を整える時間であり、優勢のチームにとっては勢いを断ち切られる危険な時間でもある。つまり、給水タイムは水分を補給する休憩だけでなく、試合を作り替えるための区切りにもなっている。

 だからこそ議論は起きる。サッカーの本質そのものを変えるのではないかというビエルサ監督の懸念は正しい。一方で、そういう大会になった以上、監督たちがそれを利用するのもまた当然だ。

 W杯の給水タイムは、商業化への疑念を抱かせる存在であると同時に、勝敗を左右する新しい戦術要素にもなっている。前後半の90分だったサッカーは、少なくとも今大会においては、4つの時間帯で考える競技へと変わっている。その変化をどう評価するかは別として、強豪国の現場はすでに順応している。

文●田嶋コウスケ

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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