北中米ワールドカップでは激闘の数々の末に、ベスト8が出揃い、現地9日からは準々決勝がスタート。その中で前回王者アルゼンチン代表は、連覇へ向けて準備に余念がない。
その歩みはサッカーファンの注目を大いに引き付けた。グループステージでは大エースのリオネル・メッシがいきなり得点力を爆発させ、「アルビ・セレステ」は安定した戦いで3戦全勝を飾り首位通過。決勝トーナメントでは一転して、カーボベルデ、エジプト相手にいずれも苦しい場面を迎えたものの、それぞれ3-2の劇的勝利を収め、準々決勝へ駒を進めた。
しかし、その快進撃の裏では、一部の判定を巡って「アルゼンチンが優遇されているのではないか?」との声が噴出している。特にエジプト戦では、VARを巡る複数の判定が結果的にアルゼンチンに有利なものとなったとして、エジプト側がFIFA(国際サッカー連盟)へ正式に抗議。大会全体を巻き込む大きな議論へと発展している。
各国メディアはこの問題に注目し、英国公共放送「BBC」はまず、エジプト側のホッサム・ハッサン監督の「我々は不当な扱いを受け、不正義を味わった。FIFAは世界王者を大会に残したかったのかもしれない。メッシを勝ち残らせたかったのかもしれない」とまで踏み込んで主張したことを伝え、「エジプトは、重大な審判のミスや『ダブルスタンダード』が敗因になったと訴えた」と綴った。
続いて、物議を醸している判定それぞれに言及したが、エジプトが取り消しを不服としたモスタファ・ジーコのゴールについて、冷静に「その時点でエジプトは1-0でリードしており、その後2点目も奪っている。ゴールが認められていれば、試合結果が変わっていたと証明することはできない」と指摘。さらに、アルゼンチンの決勝点直前のモハメド・サラーが倒されたと訴えたプレーについても、「議論の余地はある。しかし、それだけで陰謀を証明できるとは到底言えない」と結論付けている。
もっとも同メディアは、大会を通じた判定傾向にも着目し、メッシが初戦のアルジェリア戦で退場を免れ、その後に得点を積み重ねたことや、アルゼンチンの警告数が反則数に比べて少ないことを紹介。「アルゼンチンはイングランドより多くの反則を犯しているにもかかわらず、警告は半分しか受けていない」とデータを提示し、「反則数との比較では、アルゼンチンは有利な判定を受けているようにも見える」と分析している。
また、記事では大会運営そのものにも疑問が投げかけられ、準々決勝のフランス対モロッコ戦で、主審、副審、第4審判、リザーブまで全員がアルゼンチン人となる“異例”の審判団が組まれたことを紹介し、「これほど重要な試合でアルゼンチン人審判団を起用するのは、見た目として決して良い印象ではない」と訴えて、「実際に不正があるかどうかとは別に、疑念を招く人選である」と論じた。
さらに大会前を振り返り、FIFAがトーナメント表を変更し、FIFAランキング上位4か国を別々の山へ配置したことにも触れ、「アルゼンチンは優勝候補の中でも、比較的恵まれた組み合わせとなった」と指摘。また、前回カタール大会で史上最多となる5本、今大会もここまで最多の3本のPKを彼らが獲得していることなども挙げ、「偶然とは言い切れない材料が積み重なっている」としつつも、改めて「それだけで陰謀論を裏付ける証拠にはならない」との姿勢を貫いている。
一方、イタリアのスポーツ紙『La Gazzetta dello Sport』は、判定そのものよりも「“疑心暗鬼”が大会全体を覆い始めている」との懸念を示し、「サッカーのルールという神聖さは失われ、危険な疑念の扉が開かれてしまった」と指摘。その発端となったのが、アメリカ代表FWフォラリン・バロガンの退場処分を巡る騒動だったとした。
ドナルド・トランプ米大統領がジャンニ・インファンティーノFIFA会長に働きかけた結果、バロガンの出場停止処分が先送りされたことで、「今ではあらゆる判定が疑惑や陰謀というレンズを通して見られるようになった」と批判。「フェイクニュースやAIが溢れる時代だけに、その土壌はより危険なものになっている」と警鐘を鳴らしている。
そしてエジプト戦についても、「アフリカ全体が怒りに包まれた」と報じ、ハッサン監督の「我々は騙された」「世界王者とメッシを大会に残したい者たちがいる」との発言や、ジーコが「大会は八百長だ」とまで言い切ったことを伝えた。
一方で同メディアは、「インファンティーノ会長がエジプトのゴールに落胆している」というSNS上で拡散された映像はフェイクだったことにも言及。「確かに会長がアルゼンチンに対して好意的に見える場面は、過去にもあった。しかし、それと今回の騒動を結び付けるのは、すでに集団的なパラノイア(妄想)の域に達している」との冷静な見方も示している。
もっとも、エジプト戦の判定については“陰謀”どころか、正当なものだったと主張する声も少なくなく、アルゼンチンのスポーツ紙『Ole』は、エジプト側からの批判を受けて、FIFA審判委員長を務めるピエルルイジ・コッリーナ氏が異例とも言える形で説明に乗り出したことを詳しく報じた。
日本でもお馴染みだったイタリア人元審判は、取り消されたエジプトのゴールについて、ルールを示しながら「ゴールが決まった後、VARは攻撃の一連のプレー全体を確認する。ゴールに繋がる過程で反則があり、それが得点に影響したと判断されれば、オンフィールドレビューを勧告する。ゴールまでの距離や時間に明確な制限は存在しない。この場面では、マルワン・アティアがリサンドロ・マルティネスの足を明確に踏んでいた」と指摘している。
さらに、決勝点直前にサラーが倒された場面についても、「ボールへ先に触れた守備側が、その後に通常の接触をした場合はファウルにはならない。審判団とVARは、サラーとアルバレスの接触を通常の競り合いと判断した」として、VARの判定は競技規則に沿ったものだったと強調した。
同様の見方を示したのが、アメリカのスポーツ専門サイト『The Athletic』だ。同メディアは、元プレミアリーグ主審グラハム・スコット氏の分析を紹介し、「『陰謀』という話はナンセンスだ」と断言している。
スコット氏は、エジプトだけが不利を被ったわけでなく、アルゼンチンも同様だったと指摘。その例として、取り消されたゴール後にジーコがユニホームを脱いだ場面を挙げ、「大半の者が気付かなかったもうひとつのレフェリングミスだ。本来ならイエローカードが掲げられる行為だが、主審は状況を踏まえ、あえて警告を出さなかった。規則通りに処理していれば、逆に批判されていただろう。人々は一貫性を求めるが、それを実際に目にすると、受け入れないこともある」と語った。
さらに、「審判は、時にミスを犯す。そして、それが強豪国に有利となることもあれば、格下に利益をもたらすこともある。今大会でも、スコットランド、セネガル、パラグアイなどが恩恵を受けた判定はあった。そうした事実を無視して、『陰謀論』だけを語るべきではない」と持論を展開している。
構成●THE DIGEST編集部
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