■「僕らはサイコ・ビディ映画に恋しています」(ダニー)
――『ブリング・ハー・バック』は、目の不自由な妹がいる、お2人の友人から発想を得て作ったそうですね。
ダニー「友人の妹は目が不自由ですが自立心が強く、一人でバスに乗って出かけたいと家族に訴えていて、彼女の家族は心配していました。そんな自立したい子どもと、それを止める保護者という関係性に興味を持ったんです。アンディのモデルは友人、パイパーのモデルはその妹です。撮影前には彼らにセットに来てもらい、“この局面では、どんな動きをするのか”を実際にやってもらいました。僕らはそれをカメラに収め、アンディを演じるビリー(・バラット)に見せて演技の参考にしてもらいました」

――アカデミー賞ノミネートの実力派女優サリー・ホーキンスが演じたローラのヒントは、発想のもとになったという『何がジェーンに起ったか?』(62)からでしょうか?
ダニー「そうです。僕らはこの手のサイコ・ビディ映画(注:僻地に住み、家族や来客を脅かす欲求不満の年配女性を描いた、ホラーのサブジャンル)に恋しています。『何がジェーンに起ったか?』のベティ・デイヴィスはそれまでドラマ作品に出演していましたが、この映画でいきなりホラーに転向して観客を驚かせました。このように、従来のイメージとは異なる役をサリーが演じてくれたらおもしろいと思ったのです」

――発想を得た作品の一つに、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03)も挙げておられましたが、これはどのような点でしょう?
マイケル「トーンを融合させ、かたちづくっていく手法です。例えば、『殺人の追憶』には陰鬱な場面であるにもかかわらず、同時に笑ってしまうような場面があります。そしてまた、この描写があるためにキャラクターへの共感も深まる。『殺人の追憶』に限らず、ポン・ジュノ監督はこのようなトーンの融合がとても巧いと思っています」
――冒頭のカルトな儀式の映像からして、かなり怖かったのですが、あの場面はどのようにつくっていったのですか?

ダニー「オカルトを信じている人々に話を訊きました。彼らが実際にしている儀式とはどういうもので、私たちはそれをどこまで参考にできるかを考えたんです」
マイケル「さすがにカルト教団には取材できませんでした(笑)」
ダニー「カルトではなく、“オカルト”を参考にしたんです(笑)」
■「ナイフは様々な素材のものを用意しました」(マイケル)

――もう一つ、ショッキングなシーンに子役のジョナ・レン・フィリップスがナイフをかじる場面があります。あのシーンの舞台裏について教えてください。
マイケル「ナイフはもちろん本物ではありません。様々な素材のものを用意しました。たとえば、発泡スチロール製のナイフは柔らかすぎたので箸を付けて補強しています。ジョナには折れる歯を装着してもらい、無事に撮影を終えることができました」
ダニー「ジョナがナイフを噛む時の音は、私が実際にナイフを噛んで、それを録音したものです」
――撮影時、お2人はどのように役割分担をしているのですか?

マイケル「基本的に撮影現場には一緒にいます。俳優とのコミュニケーションなどメインの部分はダニーが担っています。私は普段、脇からそれを観察し、“こうしたほうがいいんじゃないか?”という部分があれば、追加撮影を行います」
ダニー「私は撮影後の色調整やVFXにもかかわっています。とはいえ、編集は一緒に行っています。同じシーンの異なるバージョンを用意して、見比べたりしながら作業を進めている。編集担当もそこに加わるので、三者三様のバージョンを出し合い、すり合わせていきます」
■「ホラージャンルの最前線にいられることをうれしく思います」(ダニー)
――『罪人たち』『WEAPONS/ウェポンズ』(ともに25)と近年中身の濃いホラーが高い評価を受けています。その一端を担ってきた監督として、いまのホラーシーンをどう見ていますか?

マイケル「僕らはもともと、ホラーの中にドラマがある作品が大好きで、リスペクトしてきました。だから自分たちでホラーをつくるなら、やはりそういう作品を撮りたかったんです」
ダニー「『ローズマリーの赤ちゃん』のような中身の濃いホラー映画は昔からありましたが、決して多くはなかった。僕らが子どもだった2000年代、ホラーというジャンルは映画の中でもずっと下に見られていましたから。いま、その状況が多くの優れた作品によって改善され、その最前線にいられることをうれしく思います」
――母国オーストラリアに腰を据えて活動されていますが、オーストラリアのホラーも『ババドック ~暗闇の魔物~』(14)や『TOGETHER トゥギャザー』『デンジャラス・アニマルズ 絶望海域』(ともに25)など優れたホラーが増えていますね。それは刺激になっていますか?
マイケル「もちろんです。『ババドック~』では私はプロダクションランナーとして制作に携わり、ダニーも照明担当で現場にいましたが、すべてのショットに情熱を注ぎこむ監督のジェニファー・ケントの姿勢にはとても感銘を受けました。セットで見ていて、“彼女がこれほどまでに入れ込んでいるのだから、駄作になるはずがない”と初めて思えたんです。彼女の作品作りへの情熱は、私たちの中にも染み込んでいます」

戦慄を引き起こす描写はもちろん、キャラクターの感情に迫るエモーショナルな場面や、絵的な美しさにも唸らされる『ブリング・ハー・バック』。そこにはフィリッポウ兄弟の情熱が確かに刻み込まれている。怖い場面は徹底して怖い。しかし、それだけでは終わらず、観る者の心になにかを残すのが本作の魅力。その凄みを映画館の暗闇の中で、ドキドキしながら味わってほしい。
取材・文/相馬学
