「ユビキタス」
鈴木光司・著(KADOKAWA/2035円)
作家の鈴木光司さんが、5月に68歳という若さでお亡くなりになった。ショックだった。
鈴木さんとは、ある小説の選考委員を一緒に務めていた。去年の12月にお会いし、応募小説を選考した。今年の3月に受賞者のパーティーがあったのだが、鈴木さんは欠席された。お忙しい方だからと気にもとめなかったのだが、届いたのは訃報だった。ヨットマンだから日焼けし、冬でも半袖で健康そのものだった。
鈴木さんは会うたびに「植物を主人公にした小説を書いているんだ」と話されていた。それが本書である。「ホラーの帝王」と言われているが、ご自分は「ホラーを書いているつもりはない」と言われていた。たしかに、この小説はいわゆる「ホラー」ではないが、環境を破壊し続ける、人類の破滅を予言する意味において、究極の「ホラー」と言えるかもしれない。
物語のキーは、殺害された中沢ゆかりが属していた「夢見るハーブの会」という信仰宗教、そしてゆかりを「島流し」にしたという「第六台場」という上陸禁止の無人島だ。15年前の新興宗教の集団死、南極の氷による不審死‥‥。これらはどのように結びつくのか。女探偵の前沢恵子らは、この謎を解くために「第六台場」に極秘上陸する。そこで見たものは‥‥。植物たちの人間への攻撃が、刻々と迫ってくる。
私は、本書に登場する第六台場、古文書、シアノバクテリア、血中ヘモグロビンなどをネットで調べながら本書を読んだ。著者の豊富な知識に圧倒され、その知識が生み出すリアリティに恐怖を覚えた。「植物は人類を滅ぼそうとしているのは事実だ」と実感したのだ。登場人物たちは、果たして人類を救えるのか。
「宇宙、地球生命、眼、言語‥‥この4つの発生メカニズムは基本的に同じである」という科学者の露木が会得した真理が、私たちに警告を発しているように思えてならない。
著者は「地球生命の歴史を、植物の視点で眺め直すと、世界が織りなす風景はどのように変わるだろうか」という着想から本書を執筆した。実際、本書を読めば、地球の王であるように振る舞う人間の愚かさが、わかってくる。
あとがきによると著者は、南極の氷でウイスキーの水割りを何杯も吞んだらしい。その結果、悪い兆候はなく、年齢を重ねるほどに筋肉量が増えているという。「未知の微生物が体細胞に寄生したおかげだろうか」と首を傾げている。
著者の死は、未知のウイルス、微生物によるものなのか? まさか! あとがきの最後の1行まで、ホラーの帝王を全うした著者の姿勢に感服する。今や、宇宙と一体となった著者は、どんな壮大な物語を構想しているのか。合掌。
江上剛(えがみ・ごう)1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年、旧第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、人事部や広報部を経て、支店長などを歴任。02年に『非情銀行』で作家デビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

