新世の「黙示録」
集英社シリーズ・コモン/1870円
ベストセラー「人新世の『資本論』」で知られる東大准教授の斎藤幸平氏は「人類は破滅の崖のふちに立っている」と警鐘を鳴らす。はたして、この危機にどう立ち向かえばいいのか。気鋭の経済思想家である斎藤氏が“人類破滅”を回避するための方策を指南する。
「「人新世の『資本論』」では、19世紀の思想家・カール・マルクスの思想の再考を訴え、気候問題を乗り越えるために脱成長型の社会に切り替えていくべきだと述べました。しかし、24年に世界の平均気温がパリ協定目標の1.5度超えを記録しました。さらに今世紀末には、平均気温が3度上昇する可能性もあり、もはや気候変動を止められない事態に直面しています。今後、自然災害や飢餓が頻繁に起きるようになり、食料生産は滞って経済は停滞。世界は混沌とした状況に陥る危険があります」
斎藤氏は気候変動によって土地や水、食料など、限られた資源が欠乏していく社会では一段とインフレが加速していくと予想する。
「庶民の生活はさらに厳しくなっていき、まともな生活を営むことも不可能になる可能性が高い。生活不安に駆られた人々は、強いリーダーを求めるようになります」
これが「気候ファシズム」の正体だと示す。AIなどのテクノロジーを使えば、この危機を乗り越えられるという議論もあるが、「現実は違う」と断言する。
「ITやAIのテック業界のエリートたちは、もはや人類全員を救う道など、とっくに諦めています。一部の人たちを見捨てることで自分たちだけ生き延びようとしているように見えます。むしろ、この気候変動を利用し、ドローンやロボットといったテクノロジーによって、人々の振る舞いを管理する監視社会が加速していく懸念があります。これは『テクノファシズム』と呼ばれる体制です」
選ばれた人たちだけが限られた資源を独占できる未来がすぐそこに迫っている中で、我々庶民はどう対処すればいいのか。斎藤氏が提唱するのが「暗黒社会主義」という道だ。
「『未来は暗黒』という認識自体は受け入れつつ、終末ファシズムではなく、皆でこれからをどう生きるかを問う概念です。そのためには、希少資源を必要な人々に割り振る『計画経済』の力を取り入れていくことが必要です。市場に任せるとお金持ちが独占するため、民主的な計画経済の導入が求められます。計画経済というとソ連の失敗がイメージされますが、今はテクノロジーも発達しました。テクノロジーを社会が管理して使えば、ソ連ができなかったこともできる。世界的に見ると、コロンビアのペトロ大統領や、ニューヨークのマムダニ市長のような新しい社会主義のリーダーが現れていますが、残念ながら日本ではまだ動きがありません」
最後に、迫りくる危機を前にした庶民へのメッセージを送る。
「このままいくと、我々は切り捨てられる側になってしまいます。この問題は移民とか高齢者とか偽の敵を叩いても解決しません。本当の敵は何なのか。1つは我々が引き起こしている『気候変動』。もう1つはアメリカの『テクノファシズム』です。そのことを認識して、何とか一緒に生き延びましょう」
〈宇田川しい〉
斎藤幸平(さいとう・こうへい)1987年生まれ。経済思想家。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx's Ecosocialism: Capitalism, Nature, and the Unfinished Critique ofPolitical Economyにより「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。『人新世の「資本論」』で「新書大賞2021」を受賞。

