
太陽よりはるかに重い星が、一生の最後に起こす「超新星爆発」。
その現場は、強烈な衝撃波やX線、高エネルギー粒子が飛び交う、宇宙でも指折りの過酷な場所です。
そんな環境の中で、新潟大学・岐阜大学・理化学研究所・京都大学らの共同研究チームは、生まれたばかりの星を包む「星のゆりかご」を2つ発見したと発表しました。
しかも、その内部には水に関係する分子や、生命関連物質の材料となりうる多様な有機分子が含まれていたとのこと。
超新星爆発の跡で、このような暖かい「星のゆりかご」が確認されたのは世界で初めてです。
研究の詳細は2026年7月1日付で、天文学誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。
目次
- 超新星爆発の残骸で見つかった「星のゆりかご」
- 過酷な環境でも「有機分子の豊かさ」が保たれていた
超新星爆発の残骸で見つかった「星のゆりかご」
今回、チームが観測したのは、地球から約3650光年離れた超新星残骸「RX J1713.7−3946」です。
超新星残骸とは、大質量星が爆発した後に残される、ガスや高エネルギー粒子の広がった領域です。
この天体は約1600年前に爆発したと考えられており、中国の古い記録にも対応する天体現象が残されています。
現在も周辺には、通常の星形成領域より10~100倍ほど強い宇宙線や、強烈なX線・ガンマ線、秒速数千キロメートル規模の衝撃波が存在します。
チームは南米チリのアルマ望遠鏡を使い、この領域にある分子雲を詳しく観測。
すると、2つの場所で、生まれたばかりの星を包む小さく暖かなガスの塊が見つかったのです。

このような領域は「ホットコア」と呼ばれます。
名前に「ホット」とありますが、宇宙空間としては暖かいという意味で、内部の温度はおよそマイナス150度から室温程度です。
星が生まれる前、分子雲の塵の表面にはさまざまな分子が氷として蓄積します。
やがて原始星が誕生して周囲を温めると、その氷が気体となって放出され、有機分子に富んだホットコアが形成されます。
今回の世界初の発見は「超新星爆発の痕跡である残骸の内部で、原始星を包むホットコアが見つかった」という点にあります。
ただし、この2つの原始星は超新星爆発によって新しく生まれたのではなく、爆発前からすでに存在していた可能性が高いと考えられています。
過酷な環境でも「有機分子の豊かさ」が保たれていた
さらに驚くべきことに、発見されたホットコアには多様な分子が含まれていました。
詳しく調べられた1天体からは、メタノールやギ酸メチル、ジメチルエーテル、アセトアルデヒドなど、複数の複雑な有機分子が検出されています。
水の同位体分子であるHDOも確認されました。
天文学では、6個以上の原子からなる有機分子を「複雑な有機分子」と呼びます。
これらは生命そのものではありませんが、生命関連物質の材料になりうる化学的な部品です。
チームが、それぞれの分子がどれほど含まれているかを通常のホットコアと比較したところ、組成は大きく変わっていませんでした。
つまり、超新星爆発の近くという過酷な環境にありながら、「星のゆりかご」の内部では、通常の星形成領域に近い化学的な豊かさが保たれていたのです。

なぜ有機分子が壊れずに残ったのでしょうか。
一つは、超新星爆発から約1600年しか経っておらず、分子が大きく破壊されるほど長い時間が経過していない可能性です。
もう一つは、衝撃波によって強められた磁場が、高エネルギー粒子の侵入を抑え、ホットコアを守っている可能性です。
ただし、磁場による保護が直接確認されたわけではなく、現時点では有力な仮説の一つです。
今回の結果は、超新星爆発の近くで形成される星や惑星にも、有機分子を豊富に含む材料が残りうることを示しています。
初期の太陽系も、近くの超新星爆発の影響を受けた環境で誕生した可能性が指摘されています。
そのため、この発見は、私たちの太陽系がどのような環境で生まれたのかを探る手がかりにもなるでしょう。
今後は、ほかの超新星残骸でも同様の「星のゆりかご」が見つかるのかを調べる必要があります。
また、電波望遠鏡や赤外線望遠鏡で、ガスだけでなく塵や氷、惑星が生まれる円盤まで詳しく観測できれば、超新星が星や惑星の材料をどのように変えるのかが、さらに明らかになるでしょう。
星の死が残した荒々しい現場で、次の世代の星を包む化学的に豊かなゆりかごが見つかりました。
今回の発見は、宇宙における星の終わりと始まりが、私たちの想像以上に近く結びついている可能性を示しています。
参考文献
星が爆発した現場において、生まれたばかりの星を包む多様な有機分子を含んだゆりかごを世界で初めて発見-宇宙における有機分子の多様性や太陽系形成環境への新たな知見が もたらされることを期待-
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2026/1170751/
元論文
Survival of Molecular Complexity under Recent Supernova Feedback: Detection of Hot Cores in RX J1713.7−3946
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae6fba
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

