
スライドは、最初からすべての情報を見せた方が親切だと思っていないでしょうか。
しかし、完成版のスライドには、まだ説明されていない図や文章まで並んでいるため、学習者は「いま見るべき場所」を自分で探さなければなりません。
東京理科大学の研究チームは、説明に合わせて情報を小出しにする方が、視線を重要な箇所へ導き、学習後のテスト成績も高めることを明らかにしました。
研究成果は2026年6月25日付で、国際学術誌『Journal of Computer Assisted Learning』にオンライン掲載されています。
目次
- 授業で使用する「スライド」は、「累積提示」と「一斉提示」のどちらが効果的?
- スライドの情報を段階的に追加すると、テスト成績が良くなる
授業で使用する「スライド」は、「累積提示」と「一斉提示」のどちらが効果的?
スライドを使った授業では、学習者は教員の話を耳で聞きながら、画面上の文章や図、グラフを目で追わなければなりません。
ところが、完成したスライドを最初から表示すると、まだ説明されていない情報まで画面に並びます。
たとえば複数の線が描かれたグラフでは、学習者は内容を理解する前に、「先生がいま話しているのはどの線か」を探す必要があります。
探している間に説明が先へ進めば、音声と図の対応を見失い、重要な情報を十分に処理できない可能性もあるでしょう。
そこで東京理科大学の研究チームは、スライドの情報を説明に合わせて段階的に追加する「累積提示法」に注目しました。
研究には日本人大学生40名が参加し、累積提示法で学ぶグループと、完成版を最初から見せる「一斉提示法」のグループへ、20名ずつ無作為に分けられました。
参加者は事前テストを受けた後、生物の「個体群間の相互作用」を扱う20分24秒の授業動画を視聴しました。
授業は7枚のPowerPointスライドで構成され、教員の音声や説明内容は両グループで共通です。
異なっていたのは、図や文章を説明に合わせて順番に出すか、完成版を最初から表示するかという点だけでした。
授業後には20点満点のテストを行い、授業中の視線も専用装置で記録。
テスト成績は40名全員、視線データは十分な記録が得られなかった4名を除く36名分が分析されています。
その結果、累積提示法のグループは授業後のテスト成績が高く、説明に関係する箇所へ、より早く視線を向け、より長く見ていました。
スライドの見せ方で違いが出たのです。より詳しい結果を次項で見ていきましょう。
スライドの情報を段階的に追加すると、テスト成績が良くなる
授業前のテストでは、一斉提示法グループと累積提示法グループの結果に有意差は認められませんでした。
一方,授業後のテストでは、累積提示法グループの方が有意に高い成績を示しました。
さらに大きな違いが表れたのが、授業中の視線です。
教員の説明に対応する箇所への合計注視時間は、累積提示法で約442秒、一斉提示法で約326秒でした。
累積提示法では、説明に関係する図やグラフへの合計注視時間が、約116秒長くなっていたのです。
また、説明が始まってから対応する箇所へ初めて視線が向くまでの時間は、累積提示法で平均1.00秒だったのに対し、一斉提示法では5.75秒でした。
完成版が最初から見えていると、学習者は多くの情報の中から説明対象を探さなければなりません。
一方、累積提示法では、新しく現れた図や文字そのものが「いま見る場所」を知らせる目印になるのです。
なお、画面全体を見ていた時間には、両グループで有意な差がありませんでした。
つまり、累積提示法の学生が単に画面を長く見ていたのではなく、同じように画面を見ながら、説明に関係する場所へ効率よく注意を向けていたのです。
研究者らは、この結果を、内容を細かく区切ること、重要な部分に目を向けやすくする工夫、音声と図を同時に提示することという三つの考え方が組み合わさった効果として説明しています。
また、授業やテストの難しさ、授業の分かりやすさに関する主観評価には、提示方法による有意な差がありませんでした。
つまり、学習者が「楽になった」と感じていなくても、成績や視線の動きには違いが表れる可能性があります。
今回の研究は、特別な教材を新しく作らなくても、説明に合わせて情報を段階的に表示する工夫だけで、学習者の注意と成績を改善できることを示しました。
学びやすいスライドを作るには、「何を見せるか」だけでなく、「いつ見せるか」も重要なのかもしれません。
参考文献
説明に合わせたスライド表示で学習効果が向上 ~視線計測により、学習者が重要箇所を早く・長く見ることを確認~
https://www.tus.ac.jp/today/archive/20260709_1132.html
元論文
Cumulative Presentation Enhances Learning Outcomes by Directing Learners’ Visual Attention
https://doi.org/10.1002/jcal.70286
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

