あばただらけの顔に軍服、そして背の低さを隠すための厚底ブーツ。そんないでたちでアメリカを翻弄し、世界中を敵に回したのが「最凶の小男」と揶揄され、1980年代の中米パナマに君臨した軍事独裁者「ノリエガ将軍」こと、マヌエル・ノリエガだ。
そんなノリエガの権力の源泉は、アメリカCIAだった。この男、1950年代から情報の運び屋として重用され、CIA長官時代のブッシュ(父)とは昵懇の仲。アメリカの「裏庭」を監視する番犬として、大いに貢献したといわれる。
だがこの番犬は、あまりに欲が深かった。CIAから報酬を得る一方で、コロンビアの悪名高きメデジン・カルテルと結託。パナマを麻薬密輸のハブとして私物化し、さらにはリビアのカダフィ大佐やキューバのカストロ議長と裏取引を行うという、とんでもない二重三重の「裏切り」を常習化させていくのである。
1989年、突如として転機がやってくる。麻薬密輸とマネーロンダリングでアメリカ連邦大陪審に起訴されたノリエガは、選挙を力づくで無効化、独裁の牙をむき出しにすることに。
これに対し、かつての主人であるアメリカはブッシュ政権のもと、軍事侵攻を開始。パナマ国防軍は米軍の圧倒的物量になすすべもなく潰走した。
爆撃が響くパナマ市街を逃げ回ったノリエガが最後に逃げ込んだのは、教皇庁大使館だった。というのも、外交特権がある大使館内には米軍とて踏み込むことはできないからだ。
そこで米軍が編み出した奇妙な戦術が、大使館周辺でヘビメタを大音量で流し続けるという「嫌がらせ作戦」だった。繰り返し流された曲は、ヴァン・ヘイレンの「Panama」をはじめ、ガンズ・アンド・ローゼズの「Welcome to the Jungle」や「Paradise City」、AC/DCの「You Shook Me All Night Long」、ブラック・サバスの「Paranoid」等々。チョイスされた曲は全て、テーマや内容がノリエガの神経を逆なでする曲だったとされる。
麻薬まみれでアメリカの法廷へ引きずり出された
大使館を包囲したハンヴィー(高機動多目的車)の屋根に巨大なスピーカーを設置、これらの曲を24時間、大音量で流し続けたことで、睡眠妨害と精神的疲労により耐えられなくなったノリエガは投降。1990年、彼は麻薬まみれの独裁者として、マイアミの法廷へと引きずり出されることになった。
以降、アメリカでの懲役やフランスでのマネーロンダリング裁判、そして母国パナマへの送還を経て2011年、22年ぶりに祖国パナマへ帰還した。だがそこで待っていたのは、冷たい鉄格子で…。
晩年は高血圧や脳腫瘍に蝕まれ、かつての強権的な面影はすっかり消え失せていたノリエガ。2017年5月に83歳で死去したこの独裁者は世論だけでなく、神にも見放されたのだろう。孤独のまま、歴史の表舞台から消えていったのである。
(山川敦司)

