
このドラマティックな秀作の醍醐味は、最近まで王だった若者と田舎の村民たちの出会いから生じるカルチャーギャップ的なおもしろさが挙げられる。かつて一国の王だった高貴な身分の男と、大自然に囲まれた寧越で牧歌的に暮らす民たちが出会うことで、それぞれの価値観や生活観の違いからギャップが生じ、お互いにまるで別の生き物であるかのような反応を示すが、時間をかけて理解し合うことで、次第に心を通わせていく。特に端宗がいずれ処刑される立場にあることを知りながらも、村長オム・フンドは身分や地位の壁を越えて端宗との絆を深めていく。

『破墓/パミョ』(24)や「コンフィデンシャル」シリーズのユ・ヘジン演じるフンドは、村の復興のために責任感を持って行動を取るが、素の彼は人情味あふれるユニークでチャーミングな人物であり、コミカルでエモーショナルなドラマ作品を力強く牽引。喜怒哀楽をナチュラルに体現するユ・ヘジンの一世一代の名演を堪能することができる。本作は彼の俳優人生の1つの到達点といってもいいだろう。

端宗を演じたのはK-POPグループWana Oneの元メンバーで、「弱いヒーロー」シリーズ、「隠し味にはロマンス」などに出演したパク・ジフン。実際の端宗に比べ年齢的には大人だが、この脚色は特に気になることもなく、不遇な立場に置かれながらも最後まで必死に、誠実に生きる端宗の姿を爽やかに、巧みに演じている。
首陽大君の側近であり策士、ハン・ミョンフェを貫禄たっぷりに演じているのが『オールド・ボーイ』(03)のユ・ジテ。役作りのためにひたすら食べ続け、体重を20kg増量したという。また、寧越郡の郡守役で出演する パク・ジファン にとっては、本作が『犯罪都市 THE ROUNDUP』(22)、『犯罪都市 PUNISHMENT』(24)に続く3作目の韓国1000万人動員映画となった。さらに、端宗と、「賢い医師生活」シリーズのチョン・ミド演じる宮女メファとの間に育まれる信頼関係と強い絆にも心を揺さぶられる。

本作の魅力は、こうしたベテランキャスト陣が織りなす重厚な人間ドラマや、王座を追われた端宗の悲劇的な運命だけにとどまらない。流刑地・寧越での暮らしを通じて、少しずつ生きる希望を取り戻していく姿が温かなユーモアとともに描かれている。
流刑地の寧越へ送られた端宗は、生きる気力を失い、自暴自棄な日々を送っていた。しかし、フンドとともに巨大な虎に遭遇し、生死の境をさまようような体験を経たことで、少しずつ心境に変化が生まれる。やがて端宗は自身の運命を受け入れ、村人たちとの交流を通じて、寧越での暮らしに新たな意味を見出していく。

彼と村人との交流をユーモラスかつハートウォーミングに結びつけるのが、“食事”である。地元の山菜などを使用した豪華な食事の数々は、調理している光景も含め視覚的にも美しく壮観で、見るものの胃と心を鷲づかみにする。韓国映画やドラマでは食事を通じて家族や友人同士が心を通わすシーンがよく見られるが、この映画の食を巡るシーンは心躍るものがあり、特に印象深い。端宗は、寧越の特産であるセリ科の植物ハナウドを好んでいたという言い伝えが残されている。現在でも寧越の郷土料理店では、この貴重な山菜を使った料理を味わうことができるそうで、本作を観ると一度食べてみたくなる。
映画の大ヒットを受けて、作品の舞台となった寧越郡清冷浦(チョンリョンポ)には観光客が殺到し、端宗の足跡を巡る旅を楽しんでいるという。同地には端宗が眠る王陵・莊陵(チャンヌン)をはじめ、彼が最期の日々を過ごしたと伝わる建物や史跡が点在しており、その生涯を身近に感じることができる。豊かな自然に囲まれた風光明媚な土地としても知られ、首都ソウルから電車で約2時間とアクセスも良好。本作を観たあとには、端宗ゆかりの地を実際に訪ねてみたくなる人も多いのではないだろうか。

韓国で社会現象級のヒットを記録し、多くの観客を魅了した理由は、歴史劇としての重厚さだけでなく、人と人とのつながりを描く普遍的な物語にあるのだろう。若き王と村人たちの交流を温かなユーモアとともに描きながら、歴史に翻弄された1人の人間の再生の物語としても深い余韻を残す『王と生きる男』。『記憶の夜』(17)、『リバウンド』(23)のチャン・ハンジュンがメガホンを取った本作は、KADOKAWA Kプラスが日本版権を獲得したことも発表されており、日本の観客と出会う日が待ち遠しい。
文/小林真里
