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ベリンガムはスターから、真のリーダーへ。「俺しかいないだろ?」とはもう言わない。だがイングランドが苦しめば、答えは同じ男のもとへ戻る【W杯】

ベリンガムはスターから、真のリーダーへ。「俺しかいないだろ?」とはもう言わない。だがイングランドが苦しめば、答えは同じ男のもとへ戻る【W杯】


 メキシコシティの高地でも、マイアミの灼熱と高湿度の中でも、イングランド代表が最も苦しい瞬間に現われたのは、ジュード・ベリンガムだった。

 北中米W杯のグループステージ初戦のクロアチア戦(4-2)で1得点。3節のパナマ戦(2-0)では均衡を破るゴールを挙げ、決勝トーナメントに入ると、ラウンド16のメキシコ戦(3-2)、準々決勝のノルウェー戦(2-1)でいずれも2得点。ここまで6ゴールを記録し、イングランドを準決勝まで引っ張ってきた。

 1大会の決勝トーナメントで、2試合続けて2得点以上を挙げたのは、1986年メキシコ大会のディエゴ・マラドーナ(元アルゼンチン代表)以来である。また、イングランド選手が1大会でPKを除いて6得点を挙げるのは、同じ86年大会のガリー・リネカー以来となった。

 左足、右足、ヘディング。ゴール前への力強い侵入から決める得点もあれば、ストライカーのようにこぼれ球へ反応するゴールもある。今大会でここまで左右両足と頭のすべてで得点しているのは、ベリンガムとノルウェー代表のアーリング・ハーランドだけだ。

 しかし、数字だけでは今大会のベリンガムの凄さを語り切れないだろう。試合が停滞し、イングランドが苦境へ追い込まれた時、流れそのものを強引に引き寄せてきたからだ。
 
 クロアチア戦では、2-2で迎えた後半早々に決勝弾となる貴重なゴールをマーク。ノルウェー戦では前半終了間際に同点弾を決め、延長戦で決勝点を奪った。

 英紙『タイムズ』は、ベリンガムについて「もしかすると、すでにイングランド史上最高の大舞台に強い選手かもしれない」と評した。英紙『デーリー・テレグラフ』も「プレッシャーが最高潮に達した時こそ、ベリンガムは結果を残す」と称賛し、「彼がいなかったら、イングランドはすでに帰国していただろう」とまで書いた。

 元イングランド代表DFのジェイミー・キャラガーも、「国際大会で、これほど大きな影響力を発揮したイングランド人選手を見たことがない」と舌を巻いた。1990年イタリア大会で国民を魅了したポール・ガスコインでさえ、得点は記録していない。ベリンガムは人々を熱狂させるだけでなく、試合の運命を変える結果まで残している。

 もともと、能力は極めて高かった。

 2022年カタール大会では19歳ながらイングランドの主力を務め、年齢に似つかわしくない落ち着きと大胆さを随所に示した。レアル・マドリー加入初年度には公式戦19得点を挙げ、リーグとチャンピオンズリーグの優勝を経験。一気に世界最高クラスの選手へ駆け上がった。

 ところが昨季は、肩やハムストリングの問題も重なり、持ち前の推進力や試合を支配する力を継続して発揮できなかった。イングランド代表でも活動を離れた時期があり、復帰してもすぐに中心選手へと戻されたわけではなかった。
 
 トーマス・トゥヘル監督は、ベリンガムほどのスターであっても特別扱いしなかった。怪我から戻ったばかりの時期には招集を見送り、代表へ復帰しても無理に起用しなかった。その間にモーガン・ロジャーズが評価を高め、英メディアでは「W杯でトップ下を務めるのはロジャーズではないか」という議論まで起きた。

 トゥヘル監督は、ベリンガムの名前や過去の実績ではなく、その時点の状態を見た。安易に先発を保証せず、ロジャーズとの競争にさらしたのだ。そのマネジメントが、試合に出て自分の力を証明したいというベリンガムの闘志を引き出したように映る。

 風向きを大きく変えたのは、W杯直前の強化試合、コスタリカ戦だ。

 トップ下で先発したベリンガムは、中盤でボールを引き出しながら、力強くゴール前へ侵入。ハリー・ケインとも滑らかに連係し、トップクラスのパフォーマンスを披露した。この一戦を境に、ロジャーズとの先発争いを巡る空気は一変し、ベリンガムがクロアチアとの初戦で先発するとの見方が強まった。その勢いを本大会へ持ち込み、今ではベリンガムを先発から外すという議論自体が信じ難く思える。
 
 もともとベリンガムは、アスリート色の強い攻撃的MFである。

 得点嗅覚に優れ、「ここぞ」という場面でゴール前へ顔を出してネットを揺らす。1対1では、相手の重心を瞬時に見極め、逆方向へ鋭くステップを踏んで間合いを外す。

 そして、強靱なフィジカルと圧倒的な推進力で一気に局面を打開する。ボールを前へ運ぶキャリー能力、優れたオフ・ザ・ボールの動き、そして大舞台で結果を残す勝負強さ。すべてが高いレベルにある選手だが、とりわけこれらの要素こそが、ベリンガムという選手を形作っている。

 それでも、今大会のベリンガムは、選手としてさらに一段階上のレベルへ到達した印象がある。まさに、もう一皮むけたと言っていい。

 得点力だけではない。10番と8番の役割を行き来し、中盤で攻撃を組み立て、必要ならば守備にも戻る。メキシコ戦では、自陣ゴール前まで走って決定的な守備を見せた。

 ケインとの関係も、以前より極めて自然に機能している。ケインが中盤へ下がれば、ベリンガムがその先のスペースへ飛び出す。ベリンガムがボールを運べば、ケインが相手DFを引きつける。個々の能力に依存している面は否定できないが、2人の連係はイングランド最大の武器となった。
 
 そして、変化はプレーだけにとどまらない。

 EURO2024当時、ベリンガムはレアル・マドリーで成功を収めた「ガラクティコ」として大会に臨んだ。自身のドキュメンタリーシリーズを撮影する一方で、他の選手が担っていたイングランド国内メディアへの対応を免除されていたことには、驚きの声も上がった。

 決勝でスペインに敗れた直後には、チームメイトから離れて1人で過ごしていた姿も関係者の目に留まった。スロバキア戦で劇的なオーバーヘッド弾を決めた際には、サポーターに向かって「Who else?(俺しかいないだろ?)」とアピールした。圧倒的な自信を象徴する一方で、自らを「物語の主人公」として強く打ち出す姿にも映った。

 しかし今回のW杯では、発言や振る舞いが明らかに変わっている。

 プレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞しても、自分の活躍を誇るのではなく、チーム全体の献身性や結束を強調する。対戦相手を称賛し、受け取った個人賞の1つを相手チームへ贈ろうとさえした。「ゴールを決めるより、アシストする方が好きだ」とも語る。

 自信や孤高の雰囲気が消えたわけではない。ノルウェー戦後には、パフォーマンスを厳しく批判したトゥヘル監督に対し、「まあ、好きに言えばいい」と反論し、過酷な条件で戦った仲間たちを擁護した。
 
 強烈な自負は変わらないが、その力を、自分自身を際立たせるためではなく、仲間を守り、チームを勝利へ導くために使うようになった。分かりやすく言えば、「自分が何でもやる」から「チームが勝つために何でもやる」へと力の向かう先が変わった。

 2024年には「Who else?」と自らを前面に出した。だが2026年のベリンガムは、以前よりもさらに試合を決めているにもかかわらず、自分よりチームを語っている。

 ノルウェー戦後、ベリンガムはゴール裏へ歩み寄った。するとイングランドサポーターは、一斉にビートルズの名曲「Hey Jude」を歌い始める。彼のファーストネームの「Jude」に掛けた、この若きエースだけに贈られるチャントだ。ベリンガムは感慨深そうな表情でスタンドを見つめ、ゆっくりと拍手を送った。

 スターから、真のリーダーへ。

 英BBC放送は、「W杯では、時として1人の選手が大会全体の主役となり、その勢いのまま優勝へチームを導いてしまうことがある」と伝える。1986年のマラドーナ、2002年のロナウド、2022年のリオネル・メッシを例に挙げた。ベリンガムをすでに彼らと並べるのは早い。それでも今大会のイングランドを動かし始めているという意味では、その道を歩み始めている。

 次は、メッシ率いるアルゼンチンとの準決勝だ。

 ベリンガムは今大会、「Who else?」という言葉を口にしていない。それでもイングランドが最も苦しい瞬間を迎えるたび、答えは同じ男のもとへ戻っている。

文●田嶋コウスケ

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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