
社交不安が影響するのは、他人の表情や言葉の受け取り方だけではないようです。
韓国のカトリック大学校(CUK)の研究チームは、社交不安が強い人ほど、人がどちらへ歩いているのかという基本的な判断も「自分への接近」に偏りやすい可能性を示しました。
さらにこの傾向は、1人の歩行者だけでなく、10人分の歩行者からなる群衆を見た場合にも確認されています。
研究成果は2026年2月25日付で、学術誌『Cognition and Emotion』にオンライン掲載されました。
目次
- 社会不安が強いと「他者が自分に近づいてくる」と感じやすい
- 社会不安が強い人は「群衆全体がこちらに来る」と判断しやすい
社会不安が強いと「他者が自分に近づいてくる」と感じやすい
社交不安とは、人前で注目されたり、他人から否定的に評価されたりすることに強い不安を感じる傾向です。
これまでの研究では、社交不安が強い人ほど、相手の表情などを脅威のあるものとして受け取りやすいことが調べられてきました。
しかし外では、特に駅や歩道で人とすれ違うとき、私たちは相手の顔だけを見ているわけではありません。
体の向きや歩き方から、相手との距離や「こちらに来るのか」「自分の横を通るのか」を一瞬で判断しています。
そこで今回研究チームは、社交不安の強さが、人の歩く方向についての判断とも関係するのかを調べました。
実験に参加したのは、韓国の大学生147人です。
参加者には、頭、肩、腰、膝などの関節を光の点で表した「人の動きを表した映像」が提示されました。
これは顔や服装などの情報を取り除き、歩き方と進行方向に注目させるための映像です。
光点だけでも、動き始めると人間が歩いているように見えます。
そして最初の課題では、1人の歩行者が0.25秒だけ表示されました。
人物は真正面の0度から、最大24度まで横へ外れた方向に歩き、参加者は「自分に近づいているか」を答えました。
続く課題では、10人の歩行者を0.5秒間表示し、群衆全体が平均的に自分へ近づいているかを判断させました。
このとき群衆には、真正面へ進む人と、横へ外れて進む人が混ぜられていました。
また研究チームは質問票で社交不安を測るとともに、抑うつ症状も調べ、その影響を統計解析で考慮しました。
その結果、社交不安が強い人ほど、単独の歩行者と群衆のどちらについても、「自分へ近づいている」と判断しやすい傾向が確認されました。
では、群衆を見るときには、具体的にどのような違いが表れたのでしょうか。
より詳しい結果を次項で見ていきます。
社会不安が強い人は「群衆全体がこちらに来る」と判断しやすい
1人の歩行者を見る課題では、社交不安が強い人ほど、実際には少し横へ外れて進む人物まで「自分に向かっている」と判断しやすくなっていました。
つまり、相手の進路が曖昧なとき、「横を通る」と考えるよりも、「こちらに来る」と受け取りやすかったのです。
10人の群衆を見る課題でも、同じような偏りが確認されました。
群衆の中で真正面へ歩いている人が比較的少ない場合でも、社交不安が強い人は、集団全体が自分へ近づいていると判断しやすかったのです。
この群衆課題には、重要な工夫が施されていました。
横へ外れて歩く人物の角度は、最初の課題で調べた各参加者の判断の境界より、さらに6度外側に設定されていました。
つまり、もともとの方向判断の違いに合わせて、映像の難しさを一人ひとり調整していたのです。
それでも社交不安の強さによる違いが残ったことから、1人の進路を読み取る段階だけでなく、複数人の動きをまとめて判断する段階にも偏りが生じている可能性があります。
追加の分析では、この接近判断の偏りは、特に「他人から見られたり、評価されたりすることへの不安」と関係していました。
一方、人と会話したり交流したりすることへの不安とは、同じような明確な関係は確認されませんでした。
この研究は、社交不安が相手の表情や言葉だけでなく、「人が自分へ近づいているか」という素早い判断にも関係する可能性を示しました。
こうした接近の過大評価は、相手との距離を実際より近く感じさせ、主観的な危険感を強める要因になっている可能性があります。
その結果として、無意識に距離を取ろうとする身体的な回避行動や、姿勢の揺れといった反応につながっているのかもしれません。
今後、現実に近い環境でも同じ傾向が確かめられるなら、こうした自動的な視覚判断を踏まえた新しい身体的アプローチや曝露法の開発にもつながり、人混みで感じる負担を理解・軽減する手がかりになる可能性があります。
参考文献
New research reveals how social anxiety alters visual judgments of walking strangers
https://www.psypost.org/how-social-anxiety-warps-our-perception-of-nearing-crowds/
元論文
People are approaching me: biased ensemble perception of biological motion in social anxiety
https://doi.org/10.1080/02699931.2026.2634108
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

