
宇宙飛行中に骨折や肺の異常が疑われたとき、地上の病院のようにレントゲン写真を撮ることはできるのでしょうか。
これまで、軌道上で実用的に使える医療画像装置は、ほぼ超音波装置に限られてきました。
しかし今回、民間宇宙飛行ミッションに参加した乗員が、宇宙空間で初めて人体のX線画像を撮影し、診断に利用できる品質を得ることに成功しました。
研究の詳細は、米国メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)により、2026年7月14日付で医学誌『Radiology』に掲載されています。
目次
- 浮かび続ける宇宙で、どうやって身体を撮影するのか
- 宇宙でレントゲン写真の撮影に成功!
浮かび続ける宇宙で、どうやって身体を撮影するのか
X線撮影では、X線を出す装置と画像を受け取る検出器の間に、撮影する身体の部位を正確に置く必要があります。
しかも撮影の間、装置と身体を動かさずに保たなければなりません。
地上では当たり前に思えるこの作業も、人体や機器が浮かぶ微小重力環境では難題になります。
そのため宇宙では、探触子(たんしょくし、超音波を発信・受信するセンサー)を身体に直接当てられる超音波検査が、40年以上にわたって主要な画像診断法として使われてきました。
ただし超音波検査は撮影者の技量に左右されやすく、画像の取得と解釈にも訓練が必要です。
そこで研究チームは、市販の超小型デジタルX線発生装置と平面型検出器を、スペースXの民間宇宙飛行ミッション「Fram2」に持ち込みました。
Fram2は2025年3月31日に打ち上げられ、約3日半にわたって地球の極軌道を飛行したミッションです。
研究には4人の乗員のうち3人が参加。
乗員は医療従事者ではなく、装置の操作や身体の位置合わせについて受けた訓練は合計4時間だけでした。
軌道上では地上からのリアルタイム支援を受けず、静止画と文章による手順書を頼りに撮影しました。
宇宙でレントゲン写真の撮影に成功!
乗員は飛行前と飛行中に、手、前腕、胸部、腹部、骨盤などを撮影しました。
運用時間の制約により、実際に軌道上で身体を撮影されたのは2人でしたが、比較に用いられた人体画像は飛行前7枚、飛行中7枚となりました。
3人の放射線科医が、画像が地上と宇宙のどちらで撮影されたかを知らされない状態で評価したところ、すべての画像が診断に利用できる基準を満たしていました。

全体的な画像品質、細かな構造を見分ける空間分解能、濃淡を見分けるコントラスト分解能には、飛行前と飛行中で明確な差がありませんでした。
一方で、胸部、腹部、骨盤では、宇宙で撮影した画像の位置合わせが地上より悪化していました。
つまり、最大の障害はX線装置そのものではなく、浮かぶ患者、X線源、検出器を一直線に並べて固定することだったのです。
研究で推定された装置由来の被ばく量は、参加者1人あたり0.3~2.7ミリシーベルトで、地上の一般的な臨床撮影を超える水準ではないと評価されました。
さらに乗員はスマートウォッチも撮影し、内部部品を1ミリメートル未満の細かさで確認しました。
将来は人体の診断だけでなく、宇宙服や電子機器を分解せずに点検する「非破壊検査」にも使える可能性があります。

帰還時には装置の外装に軽微な損傷が生じましたが、X線出力や内部機器は正常に機能していました。
ただし今回の研究は、健康な少人数の乗員を対象とした実現可能性試験です。
実際の骨折や病気を宇宙で診断したわけではなく、痛みで動けない患者を撮影できるか、地球と即時通信できない月や火星で画像を判断できるかも未検証です。
それでも、わずかな訓練を受けた非医療従事者が、微小重力下で診断可能な人体X線画像を得られた意味は小さくありません。
装置の固定方法や耐久性、AIによる撮影支援などが整えば、レントゲン装置は将来の月・火星ミッションを支える基本的な医療機器になるかもしれません。
参考文献
Astronauts Have Taken The First Human X‑Rays in Space
https://www.sciencealert.com/astronauts-have-taken-the-first-human-x-rays-in-space-and-they-actually-worked
Astronauts take first X-rays in space
https://www.popsci.com/science/astronauts-take-first-x-rays-in-space/
元論文
SpaceXray: Feasibility and Diagnostic Capabilities of On-Orbit Medical Radiography
https://doi.org/10.1148/radiol.260258
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

