
フランスに何もさせない90分。スペインは1人のスターに依存するチームではない。個々の才能を最大限に引き出す組織があり、全員が走り、考え、犠牲を惜しまない【W杯】
北中米ワールドカップの準決勝で、スペインはフランスを2-0で破り、決勝進出を決めた。その内容は、世界最高峰の攻防を制圧したと言っていいものだった。
ここまで8得点・3アシストのキリアン・エムバペを筆頭に、ウスマンヌ・デンベレ、ブラッドレー・バルコラ、マイケル・オリーセという高水準のスピードと個人能力を誇るアタッカーを擁するフランスを相手に、スペインは90分を通して主導権を握り続けた。
試合後、スペイン代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、選手たちへ送った言葉を明かしている。「今日、対戦するのは、おそらく世界最高の代表チームの1つだ。しかし、その前に立ちはだかるのは『世界最高のチーム』だと話した」。
その言葉は決して強がりではなかった。この日のスペインは、戦術的な秩序、バランス、犠牲心、そして卓越した技術を見事に融合させ、フランスの長所をことごとく消し去ったのだ。
第一の勝因は、スペインの強みである中盤の支配だった。アンカーのロドリを中心に、ファビアン・ルイス、ダニ・オルモが絶妙な距離感を保ちながらボールを動かし続けた。
スペインは単にボールを保持したのではない。フランスが最も得意とするカウンターの起点となる縦パスや前進のルートを、ポジショニングと読みで封じ続けた。
フランスのディディエ・デシャン監督も「スペインはゲームを読む能力とパスをインターセプトする能力がずば抜けていた。我々の連係を封じられた」と脱帽したように、中盤で試合の流れを完全に握られたことが敗因だった。
守備でもスペインは徹底していた。相手のスピードを警戒し、必要以上に最終ラインを押し上げることはしない。全体の立ち位置を巧みにコントロールし、エムバペらが最も威力を発揮する背後のスペースをあらかじめ消してしまった。
その結果、エムバペ、デンベレ、バルコラ、オリーセという「4本の矢」は前を向いて走る機会を失い、個の能力を発揮する前に孤立した。
フランスは最後まで自分たちのテンポを掴めず、スピードを活かした攻撃や流れるようなコンビネーションはほとんど見られなかった。
さらにスペインの強さを際立たせたのが、ボールを失った直後のカウンタープレスだった。攻撃が終わった瞬間に複数人で一斉にボールホルダーを囲み、自由を与えない。フランスはボールを奪っても顔を上げる時間すらなく、前線へ効果的なボールを供給できなかった。
前線から守備を完結させるこのスタイルこそ、現在のスペインを象徴する最大の武器と言えるだろう。
22分の先制点は、スペインの集中力と判断力が凝縮されていた。左サイドからのマルク・ククレジャのクロスボールが高くバウンドしたことで、リュカ・ディーニュが浮き球の処理に気を取られた隙をラミネ・ヤマルが見逃さなかった。
背後から一気に身体を入れ替えると、慌てたディーニュが足を引っかけてPKを献上。ミケル・オジャルサバルが大会5点目となるゴールを落ち着いて決め、スペインが試合を動かした。
そして、現在のスペインを象徴するゴールとなったのが58分の追加点だった。左サイドでアレックス・バエナのシュートがブロックされても攻撃は終わらない。こぼれ球をロドリが回収し、一度、クリアされたセカンドボールを今度はファビアンが拾う。そこからロドリとの短いパス交換を経て、右サイドの高い位置にいたペドロ・ポロへ展開した。
ポロは中央のダニ・オルモへ鋭い縦パスを差し込む。ダヨ・ウパメカノを背負ったダニ・オルモは激しいコンタクトを受けながらも、右足ワンタッチで絶妙な落としを選択。パスを出した後も走り続けていたポロがボールを受けて、エリア内へ侵入。GKマイク・メニャンとの1対1を冷静に制した。
セカンドボールを回収する中盤、パスを出して終わらないサイドバック、ワンタッチでスペースを生み出すトップ下。11人が連動した、まさにスペインらしいゴールだった。
デ・ラ・フエンテ監督も「ダニ・オルモはライン間では天才的な選手だ。しかし、彼の成長はチームの成長と結びついている。一番重要なのはチームであり、彼自身もそれを理解している」と語っている。
ロドリについても「彼を疑問視する声は、知性に対する侮辱だ。彼は我々の戦術モデルを象徴する存在であり、少ないタッチでゲームを支配し、守備では完璧なバランスをもたらしてくれる」と最大級の賛辞を送った。この試合でもロドリは攻守両面で中心となり、スペインのリズムを最後まで支え続けた。
今大会は19歳のヤマルに注目が集まっていた。もちろん、彼の持ち味も随所に出ているが、この準決勝で世界に示されたのは、デ・ラ・フエンテ監督が築き上げたチームとしての完成度だった。
個々の能力でも世界屈指のフランスを相手に、戦術、組織力、ポジショニング、そして献身性で上回る。個を組織で消し、組織で個を輝かせる。現地メディアが「フランスの個の力を完全に粉砕した」と評価したのも決して大げさではない。
デ・ラ・フエンテ監督は「このチームは試合ごと、大会ごとにバージョンアップしている。それは偶然ではない。才能、ハードワーク、犠牲、努力、そして困難を乗り越えてきた結果だ」と胸を張った。
さらに「決勝は勝つためにあるという言葉は好きではない。決勝とは戦うためにある。そこへたどり着くこと自体が非常に難しく、その場所に立てることを誇りに思う」と、自らの哲学も語っている。
スペインは1人のスター選手に依存するチームではない。それぞれの才能を最大限に引き出す組織があり、その組織のために全員が走り、考え、犠牲を惜しまない。その積み重ねが、世界最高クラスのフランスに何もさせない90分を生み出した。
決勝という最高の舞台は残っているが、デ・ラ・フエンテ監督が言う「世界最高のチーム」が、その言葉にふさわしいフットボールを準決勝の舞台で証明したことは間違いない。
取材・文●河治良幸
【美女サポ画像】北中米W杯を華やかに彩る各国ファンを一挙公開!
【画像】メッシ、エムバペ、ネイマールも! 世界のスター選手はどんなポーズ? FIFA公式ポートレートの厳選ショットを一挙公開!
【記事】「果たして前進しているのか」ブラジル戦で露呈した限界…森保ジャパンが築き切れなかった"勝利の構造"とは?【W杯総括】
