史上初の48か国制で開催されている北中米ワールドカップはこれまでに100試合以上を消化し、数々の名勝負を生み出しているが、その熱戦の最中に飛び出したジャンニ・インファンティーノFIFA(国際サッカー連盟)会長による発言が、新たな議論を呼んでいる。
スイスメディア『Blue Sport』のインタビューで、会長は2030年大会から出場国を現在の48からさらに64へ拡大する可能性について、「今大会終了後に関係委員会で検討・議論されるだろう」と明言。「W杯は欧州や南米だけの大会ではなく、世界全体のための大会であるべきだ。小さな国々にも出場する夢を与えなければ、成長の動機を失ってしまう。世界中で代表チームのレベルは着実に向上している」と、その理由を語った。
この構想に対しては、各国メディアからは懐疑的な声も少なくない。そもそも今大会で導入された48か国制自体が各方面から多くの批判を受けている状態であり、選手の心身両面への負担の増加を懸念する声や、これ以上の拡大が「大会の価値」を損なうことになるのではないかという指摘が相次いでいる。
そんな中、英国の日刊紙『The Guardian』は、同国らしい皮肉たっぷりの論調で、この話題を取り上げており、「W杯は史上初めて6週間目へ突入した。次はもっと長くなるのだろうか?」と切り出し、「不都合な話題から世間の目を逸らすためだったと言う者もいるかもしれないが、額面通り受け取るなら、FIFAは本気で64か国制を検討しているようだ」と報じた。
ただ、このアイデアを全て否定するのではなく、「64か国制にも意外な利点がある」として、48か国制ではグループステージが4か国による12組で行なわれ、各組3位のうち成績上位8チームも決勝トーナメントへ進出できるという複雑な方式が採用されたのが、64か国制なら(全16組の)各組上位2チームが勝ち抜くという従来に近いフォーマットへ戻せる点を評価している。
さらに、「新しい国々が増えることは歓迎すべきことだ」とも主張。記事では、「さらに16チーム増えれば、新たな物語が数多く生まれる」と期待を寄せ、「2030年には、マドリードでスペイン対インド戦、リスボンでマダガスカル対コロンビア戦、ラバトで中国対フランス戦、ブエノスアイレスでアルゼンチン対ニューカレドニア戦……そんな1日が実現するかもしれない」と、世界規模の祭典ならではの魅力をユーモラスに描いている。
それでも最後は、「もっと深読みすべきなのかもしれない。FIFAでは“多ければ多いほど良い”のだから、そのうち211の加盟協会全てが出場する本当の意味での『世界大会』になるかもしれない。その時には、少なくとも(3大会連続大陸予選敗退を喫している)イタリアも出場できるだろう」と、辛辣なジョークで記事を締め括った。
一方で、アメリカの大手経済誌『Forbes』は感情論に走ることなく、64か国制の「メリット」と「デメリット」を冷静に分析。まずプラスと捉えたのは、『The Guardian』紙同様にグループステージが16組になることでより分かりやすくなる他、「第1ラウンドの全試合に、より大きな緊張感が生まれる可能性がある」という点だ。
また同メディアは、「競技レベルが大きく下がるとは限らない」とも指摘。データ分析で知られるネイト・シルバー氏の試算では、今大会がもし64か国制だった場合、追加で出場したと考えられる16か国のうちの7か国は、当時のFIFAランキングで出場48か国以内に位置しており、また11チームは、今大会で躍進したカーボベルデよりも高い順位だったという。加えて、「本大会の参加国が増えれば、大陸予選を短縮できる可能性もある」とし、むしろ過密日程の緩和に繋がる余地にも触れている。 対して、最大の問題として挙げられたのは「試合数の増加」。64か国制になれば、グループステージだけで96試合となり、大会全体では128試合に達する。「今大会ですら、北米4つのタイムゾーンを跨ぐ日程に『消化しきれない』と感じる日もあったが、それ以上の試合数となれば、世界中の放送時間や観戦環境への影響は避けられない」との見解を示した。
「ブランド価値の低下」についても同メディアは可能性の低下を否定せず、「インファンティーノ会長は『より多くの国に夢を与えたい』と語ったが、一方で元イラン代表のカルロス・ケイロス監督らは、『出場そのものが大きな達成であるという価値は維持されるべきだ』と主張している。大会は1982年(16→24)、1998年(24→32)、2026年(32→48)と拡大を続けながら権威を保ってきたものの、どこかには限界がある」と警鐘を鳴らしている。
さらに、「20以上のスタジアムを必要とする64か国制では、単独開催がほぼ不可能となり、複数国共催が常態化する可能性がある」とも指摘し、「W杯の姿そのものが大きく変わる転換点になるかもしれない」との見解も示された。
一方で別の角度から異論を唱えたのが、イタリアのスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』であり、「問題は64か国制ではない。欧州の出場枠が少なすぎることだ」と主張。今大会はフランス、スペイン、イングランドの3か国がベスト4入りを果たしたが、同メディアは、歴代大会でも準決勝進出チームの約7割を欧州勢が占めてきた事実を紹介し、「競技レベルを考えれば、現在の16枠では明らかに不足している。2030年大会では、少なくとも18枠へ拡大すべきだ」と訴えている。
さらに、新たな欧州予選が現行以上に過酷になる可能性にも触れ、「南米では、比較的余裕を持って本大会へ進める国がある一方、欧州では、強豪同士が潰し合う状況が続いている」と指摘。「UEFA(欧州サッカー連盟)は、FIFAへ正式に増枠を求めるべきだ」と強く主張した。
構成●THE DIGEST編集部
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