
気づけば、数分のつもりが何十分もショート動画を見続けていたという経験はないでしょうか。
中国の浙江大学(Zhejiang University)の研究チームは、こうした動画への没入中に、自己制御を支える脳領域がどのように反応するかを調べました。
その結果、最後まで視聴されたショート動画を見ている最中、行動の監視や注意の制御に関わる2つの脳領域の活動が基準状態より低下していました。
研究の詳細は、2026年1月14日付で科学誌『NeuroImage』にオンライン掲載されています。
目次
- ショート動画への没入中、自己制御を支える脳はどう動くのか
- 最後まで見たショート動画で認知制御領域が静かになった
ショート動画への没入中、自己制御を支える脳はどう動くのか
私たちは普段、誘惑を我慢したり、注意を保ったり、現在の行動が目的に合っているかを確かめたりしています。
こうした働きは「認知制御」と呼ばれ、自己制御を支える仕組みの1つです。
特に重要なのが、背側前帯状皮質(dACC)と背外側前頭前野(dlPFC)です。
dACCは行動上の間違いや葛藤を検出し、追加の注意や努力が必要かどうかを評価する働きに関わります。
dlPFCは、注意を維持し、衝動を抑え、目標に沿った行動を実行するときに働きます。
これまでの研究では、難しい問題や衝動を抑える課題を使い、これらの領域が活発になる様子が主に調べられてきました。
一方、楽しく受動的なショート動画を見ているときの反応は、十分に分かっていませんでした。
研究チームは若い成人66人を募集し、測定データの品質基準を満たした56人を分析しました。
参加者はまず、プロトン磁気共鳴分光法を使い、安静時のdACCに含まれるグルタミン酸とGABAの濃度を測定されました。
グルタミン酸は神経活動を促す方向に関わり、GABAは神経活動を抑えたり調整したりする物質です。
続いて参加者はfMRI装置の中で、複数のショート動画が流れる6分間のブロックを2回視聴しました。
興味がなければ、手元のボタンを押して次の動画へ移ることができます。
研究では、最後まで見た動画を「好まれた動画」、再生時間の半分より前に飛ばした動画を「好まれなかった動画」と分類しました。
これは本人による評価ではなく、視聴を続けたかどうかを好みの指標として使ったものです。
分析の結果、最後まで見た動画では、dACCとdlPFCの両方で活動が基準状態より有意に低下していました。
より詳しい脳活動の違いと、脳内物質との関係を次項で見ていきます。
最後まで見たショート動画で認知制御領域が静かになった
最後まで見た動画を視聴している間、dACCとdlPFCはいずれも明確な活動低下を示しました。
早い段階で飛ばした動画では、dACCの活動に基準状態との有意差は見られず、dlPFCでは活動低下が確認されました。
また、映像を処理する一次視覚野は、どちらの動画を見ているときにも活性化していました。
視覚情報の処理を続けながら、行動の監視や意識的な制御に関わる領域の活動が選択的に下がっていたと考えられます。
研究チームは、娯楽性の高い動画を受動的に見る場面では、難しい判断や葛藤を処理する必要性が比較的低いため、認知制御ネットワークへの要求が下がった可能性を指摘しています。
映画やゲームに夢中になり、時間の感覚や自分への意識が薄れる「フローに近い状態」とも整合する説明です。
今回の活動低下は、あまり力を使わずに動画に夢中になっているときに起こる、脳の働きの変化を表している可能性があります。
こうした結果から、ショート動画は自然と強く引き込まれやすく、その間は自己制御に関わる働きが一時的に弱まる可能性があるといえます。
さらに、安静時のdACCに含まれるグルタミン酸濃度が高い人ほど、動画視聴中のdACCの活動低下が弱い傾向も見つかりました。
一方、GABAとdACCまたはdlPFCの活動との間には、有意な関連が確認されていません。
今回の測定対象は動画を視聴している最中の脳活動です。
視聴後の集中力や長期的な自己制御への影響、問題的な利用との関係は、今後の検証課題として残されています。
それでも今回の結果は、人がショート動画へ没入するとき、認知制御を支える脳活動が一時的に低下することを示しました。
この脳内変化が、日常で感じるショート動画の「やめにくさ」とどう結び付くのか、さらなる研究が待たれます。
参考文献
Short-video viewing temporarily shuts down cognitive control networks, study finds
https://www.psypost.org/short-video-viewing-temporarily-shuts-down-cognitive-control-networks-study-finds/
元論文
Brain activity inhibition during Short Video Viewing: neurochemical insights
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2026.121722
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

