合流から1週間弱で大舞台に出て、上位国を倒した。
ラグビー日本代表の齋藤直人は、攻めの起点のスクラムハーフとして存在感を示した。
高い弾道、転がす球筋のキックを続けて首尾よくエリアを取ったり、適宜リズムを変えながらシャープにパスをさばいたり、身長165センチ、体重73キロと小柄も防御ライン上で身体を張ったり。
7月4日、東京・秩父宮ラグビー場で新設ラグビーチャンピオンシップ初戦に出た。その頃の世界ランクで2つ上回っていたイタリア代表を27―10で制した。
11日にはオーストラリアのマクドナルドジョーンズ・スタジアムで、同3位も一部の主力を出さなかったアイルランド代表に20―37と屈している。その痛い黒星を喫した日とて、向こうの反則を引き出すなど爪痕を残した。リーダーのひとりとして述べる。
「初戦で勝ってスタートできたところは、チームの(よい)雰囲気に繋がったと思います。オーストラリアに移動しての対アイルランド代表戦は結果として負けてしまったんですけど、もう引きずることはなく、今週、いい準備ができていると思います」
見据えるのは「今週」の18日。ゆかりの国に挑む。世界ランクを11位に引き上げてぶつかる大会3戦目の相手は、同4位のフランス代表だ。
齋藤は、今度の来日までの約2年間、フランスの名門トゥールーズで腕を磨いてきた。次戦の相手方でベンチ入りのポール・グラウ、何より23年フランス大会で開催国主将のアントワーヌ・デュポンらと定位置を争いながら、プロリーグのトップ14で加入前からの通算4連覇を達成した。
今回は知見を仲間と共有し、勝ち筋を見出す。
「何回も対戦した選手がいて、個々の特徴がわかる部分もある。自分が知っている情報は、(仲間に)話すようにはしていますね。クラブで試合をする時に相手を分析するなかで知った知識、選手の癖みたいなものを、聞いたり覚えたりしている範囲で」
対するファビアン・ガルティエヘッドコーチが都内で公の場に出たのは16日。決戦2日前、メンバー発表会見を催した。
立ったまま行なうプレゼンテーションで身振り、手振りを重ねる。日本人記者に日本代表について問われれば、勤勉さで鳴らす齋藤を引き合いに語る。
「ポゼッションが多く、テリトリーを取ってくる。それが当日何になるのかはわかりませんが、こちらの弱点を見つけて突いてくるとも。齋藤直人のような努力家から感じる日本の文明、美徳、謙虚さが、日本のラグビーを作っています」
来年のワールドカップオーストラリア大会で予選同組でもあるフランス代表について、齋藤はこう印象を語る。
「独特で、形がないと言えばない。それぞれがグラウンド上で判断してボールをつなぐ」
伝え聞いたガルティエは、ニヒルに微笑む。
「齋藤選手がそのように分析されているのは興味深いですが、こちらの戦術についてはあまり話すことはできません」
今度のガルティエは容赦ない。司令塔のスタンドオフにロマン・ンタマック、最後尾のフルバックにマチュー・ジャリベールといった常連の名手を並べる。陣営は、秋まである大会を制するべく勝つだけでなく得失点差も広げたい。
メンバー発表に先んじ、フランス代表のキーマンを聞かれたのは齋藤。「たくさん、いるんじゃないですか」と切り出す。「誰が出るかはわからないですが」としながら、自身の対面でゲーム主将のマキシム・リュキュ、ンタマックのコンビを警戒するという。
日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、難敵撃破へ賭けに出た。
スクラムハーフの控えを置かず、齋藤のフル出場を前提に据えた。有事には、スタンドオフの伊藤龍之介がその穴を埋める。伊藤は年代別代表などの活動、さらにこの時期の代表のトレーニングで、スクラムハーフとしての練習もこなす。
いずれにせよ、専門職の趣が強い位置の選手にあっては珍しい措置だ。いまのジャパンで齋藤が絶対的であるのが伝わる。
そういえば、トゥールーズから代表への途中合流は今回が3度目だ。初回は昨夏。当時を本人はこう述懐した。
「(代表の)コーチとは、毎日ではないですが(在仏中から)連絡を取り、(日本への)帰りの飛行機では代表のプレーブックで(使う)コールを覚えるように。去年の7月、自分がチームに適応できなかった感覚があったので、同じことを繰り返さないように…と。あの時もしっかり準備して臨んだつもりだったんですけど、さらに準備の量を増やしたと思います」
経験を無駄にしない人格で、周りから信頼される。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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