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石坂智子『ありがとう』が映す“一億総中流”という1980年の幸福論【スージー鈴木の週刊歌謡実話第40回】

石坂智子『ありがとう』が映す“一億総中流”という1980年の幸福論【スージー鈴木の週刊歌謡実話第40回】

石坂智子『ありがとう』

【スージー鈴木の週刊歌謡実話第40回】
石坂智子『ありがとう』
作詞:伊藤薫
作曲:伊藤薫
編曲:大村雅朗 
1980年6月21日発売

思春期の耳を奪った一曲との出会い

令和8年、商業誌に石坂智子のコラムを書いている奴なんているのか。それどころか今、石坂智子『ありがとう』の話をしている奴は……私だよ。

天下の『週刊実話』の連載。ただ者じゃない同世代読者も多いはず。だから、あえて話したいのですよ、この名曲について。

シングル盤を持っています。ジャケットは、少々垢抜けない(失礼)写真の上に、こう書かれています。

「フジTV系列全国ネット放映テレビ・ドラマ『ただいま放課後』主題歌」。

男性がほとんどであろう同世代読者の中で、見ていた人は少ないドラマかも。だって1980年から’81年にかけて放送されていた「たのきんドラマ」だから。

あっ、「たのきんトリオ」は分かりますよね? ジャニーズ事務所(当時)所属で、当時人気が特大爆発していた田原俊彦、近藤真彦、野村義男の総称。

中2の思春期男子として、たのきんドラマを見る理由は私にもなかったのですが、それでも、この曲だけは大好きで、主題歌が流れるシーンだけを見ていた記憶があるのです。

話は変わりますが、歌謡曲を長く聴いていると、好きな作曲家というのが決まってきます。筒美京平や都倉俊一など、多作の大御所は別として、この曲を作った伊藤薫は、私にとって、まさにそういう作曲家なのでした。

一般的には、欧陽菲菲『ラヴ・イズ・オーヴァー』(’79年)で語られますが、この曲に加えて、甲斐智枝美『スタア』(’80年)杏里『コットン気分』(’81年)、香坂みゆき『レイラ』(’82年)と、大好きな曲が多い。

スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ


「ニューミュージック歌謡」という個性

そんな伊藤薫が作曲だけでなく作詞まで手掛けた『ありがとう』は、いってみれば「ニューミュージック歌謡」。キャピキャピしたアイドル臭のまるでない、ニューミュージック的、フォーク的な1曲で、そのあたりが背伸びしたい中2には、とてもよかったのです。

ラストの歌詞の締め方にしびれます――「♪この時代にありがとう」

「時代」と来たもんだ。「時代」を歌う中島みゆきはいても、『時代』を歌うアイドルはなかなかいないでしょう。でもいいんですよ。ニューミュージック歌謡なんだから。

「受験戦争が激しくて、そこから落ちこぼれた不良が校内暴力に向かっているけど、とりあえずは貧困も戦争もなく、一億総中流、何となーく豊かなこの時代にありがとう」という感じだったのかしら。

ちなみに・その1。編曲は、この年佐野元春『アンジェリーナ』を手掛け、3年後に松田聖子『SWEET MEMORIES』でレコード大賞編曲賞を受賞する大村雅朗。地味ながら、さすがの腕前を聴かせます。

ちなみに・その2。レコード会社は東芝EMI。また出た「EMアイドル」。アイドル王道レーベルのCBSソニーやビクターに比べて地味なんだよなぁ。でも地味だけど憎めないんだよなぁ。

「週刊実話」7月23日号より

スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
配信元: 週刊実話WEB

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