
ノルウェー戦前「負けたら明日、帰らなきゃ」。若いイングランド人の彼は3位になる瞬間を見届けられただろうか。様々な出会いがあった今大会も、あと1試合【W杯戦記】
ワールドカップ決勝を翌日に控えたニューヨークは、午前中から断続的に雨が降り続く、あいにくの天気だった。時折、雷をともなって雨脚が強まることもあり、夜に予定されていたMLBのヤンキース対ドジャースの試合も、翌日に延期となっている。
そんな雨模様の一日にあって、悪天候などお構いなしに意気盛んだったのは、アルゼンチンサポーターである。
大挙して決戦の地に押し寄せたファンは、観光名所であるタイムズスクエアに集結。旗を振り、歌い、飛び跳ね、翌日の試合に向けて、これ以上ない盛り上がりを見せていた。
警察も周辺の通行を制限するなど、それなりの対応に追われてはいた。だが、ファンの行為を制止しようとするなどのにらみ合いはなく、ニューヨークポリスたちも“前夜祭”を温かい目で見守っているかのようだった。
ちょうど同じ頃、ニューヨークからおよそ1700キロ離れたマイアミでは、3位決定戦が行なわれていた。ともに準決勝で敗れたフランスとイングランドの対戦は、派手な点の取り合いの末、イングランドが6-4で制している。
実は準決勝進出の4か国が出揃った時点で、個人的にはイングランドが優勝するのではないか、と予想していた。
近年、同じヨーロッパのフランス、ドイツ、スペインが、アンダー世代での成果をA代表のワールドカップ優勝につなげているにもかかわらず、イングランドだけが、アンダー世代では成果を挙げても、EUROも含めたビッグタイトル獲得にはなかなか届かずにいるからだ。
つまりは、「そろそろイングランドの番では?」というわけである。
結局、予想は外れ、60年ぶりの優勝はならなかったが、3位決定戦での勝利は、イングランドが高い攻撃力を備えた好チームであることを改めて証明した格好だ。
そういえば、マイアミで行なわれた準々決勝、イングランド対ノルウェーの試合前に、こんなことがあった。
筆者が記者席に向かおうとスタジアムのエスカレーターに乗っていると、目の前に立っていたイングランドの若い男性サポーターに声をかけられた。彼はこちらの首にかかった取材パスに気がついたようだった。
「いつから、アメリカに来てるの?」
「大会の開幕からだね」
「じゃあ、もう1か月もいるんだ。凄いね!」
聞けば、彼は前日にアメリカに着いたばかり。ワールドカップにやってきたワクワクを抑えられず、誰かと話したくて仕方がない、といった様子だった。
「今日の試合に勝てば、次の試合も見るけど、負けたら明日、帰らなきゃいけない。そうなったら、滞在わずか2日だよ」
彼は、そう言って笑っていた。
エスカレーターといっても、巨大スタジアムの地上から3階スタンドまで続く代物。けっこう時間がかかり、それなりに話もできる。
「日本は最後、どことやったんだっけ?」
そう尋ねてきた彼に「ブラジルだよ」と返すと、彼の表情には一瞬、「?」が浮かんだが、すぐに「あー、終了間際の!」。日本の試合もチェックしてくれていたようである。
「良い試合だったのに、残念だったね」
彼とはそんな話をしながら、エスカレーターを降りたところで握手をして別れた。
勝てば次の試合も見ると言っていたのだから、彼はアトランタでの悔しい準決勝を見ていたはず。だが、その後、再びマイアミに戻り、イングランドが3位になる瞬間も見届けられただろうか。
様々な出会いがあったワールドカップも、あと1試合。決勝戦を残すのみである。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)
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