オーバーツーリズムと聞けば、まず京都を思い浮かべる人は多いのではないか。観光客で超満員の市バスに地元住民が乗れず、祇園では私有地への立ち入りや無断撮影などの悪質なマナーが問題となるなど、たびたび「住民が住み続けられない街」とまで言われてきた。ワイドショーや情報番組などで、京都の観光公害の実態はたびたび取り上げられてきたので、記憶にあることだろう。
そんな京都の隣、インバウンドでにぎわう大阪も、観光客増加の影響と無縁ではない。とはいえ、オーバーツーリズムといえば道頓堀や心斎橋などミナミ周辺ばかりがクローズアップされ、大阪市内の他の地域で起きている住民への負担はあまり語られていない。
だが実際には、観光客の増加による「被害」を肌で感じるエリアは少しずつ広がっている。
代表例が生野区の大阪コリアタウン周辺だ。韓国グルメやK-POP人気を背景に国内外から観光客が集まり、休日は歩くのも大変なほど混雑する。
この一帯はもともと観光地というより、商店街と住宅が隣り合う生活圏。少し路地に入れば住宅や学校、マンションが並ぶ。地元住民が嘆く。
「商店街だけじゃなくて、周りの生活道路にも人が流れ込んできて、路上で飲食したりポイ捨てしたり、違法駐車があったりと、いろいろ大変な問題が出ているんです」
意外なのが、北区の中崎町だ。古民家カフェやレトロな街並みがSNSで人気となり、今や若者や外国人観光客が散策する定番スポットになった。ただ、ここも本来は住宅地の色合いが濃いエリア。細い路地の多くは住民の生活道路で、長屋や戸建てが並ぶ静かな街並みが広がっている。
「写真を撮るために立ち止まる人や、ずっと住宅の前にいる人も。静かな街が観光地みたいになってきています。これからトラブルが拡大していくだろうと…」(地元飲食店店員)
京都と大阪の違いは「問題の表れ方」にある
そうした観光地化と同時に住民を悩ませているのが、これまで様々に報じられてきた無法民泊の実態だ。浪速区や西成区、中央区の一部では特区民泊が増え、住宅街に旅行者が出入りする光景が日常になった。深夜にスーツケースを引く音や、ゴミ出しルールを守らない宿泊客、マンション共用部でのマナー違反など、観光スポットではなく「暮らしの場」で大きな摩擦が生まれている。
京都と大阪の違いは、問題の表れ方にある。京都では寺社仏閣や歴史的景観の周囲に住宅地が広がり、観光客が生活空間へ直に入り込む。一方、大阪は道頓堀や心斎橋、梅田といった商業エリアに人が集中するため、都市全体としては混雑を吸収しやすい。そのため「大阪は大丈夫」という印象を持たれがちだが、実は住宅街では海外からの観光客だけでなく国内客や民泊利用者との距離が急速に縮まり、住民の生活環境は激変しつつある。
派手なニュースにはなりにくいものの、「静かなオーバーツーリズム」は確実に進行しているのだ。
京都ばかりが社会問題化する一方で、「大阪に問題はない」と考えるのは早計だ。見えにくい場所で起きている住民生活への影響に、そろそろ目を向ける時期に来ている。
(旅羽翼)

