
仕事や家事を終えた後、ソファに座ってテレビを眺める時間は、多くの人にとって手軽な休息です。
しかし、そうした時間が長年にわたって積み重なると、高齢期の脳の状態と関係してくるかもしれません。
アメリカ・南カリフォルニア大学(USC)の最新研究で、中年期にテレビを「非常によく見る」と答えた人は、約24年後に前頭葉や後頭葉などの体積が小さく、脳の白質に生じる病変も多い傾向が示されました。
研究の詳細は2026年7月10日付で学術誌『Alzheimer’s & Dementia』に掲載されています。
目次
- 中年期のテレビ習慣と、約24年後の脳を比較
- 同じ「座る」でも、デスクワークでは反対の傾向
中年期のテレビ習慣と、約24年後の脳を比較
研究チームは今回、米国で心血管系と脳の健康を長期追跡している「ARIC研究」のデータを使用。
分析対象となったのは、MRI撮影時に認知症と診断されていなかった成人1712人です。
参加者は1987年から1989年、平均53歳だった時点で、余暇にテレビを見る頻度と、仕事中に座る頻度を回答しました。
テレビ視聴については「まったく、またはめったに見ない」から「非常によく見る」までの段階で評価されています。
つまり、ここでいう「過度なテレビ視聴」とは、1日何時間以上という基準ではなく、本人が「非常によく見る」と回答した状態を指します。
それから20年以上が経過した2011年から2013年に、参加者の脳がMRIで撮影されました。
この時点で参加者の平均年齢は約76歳でした。
分析の結果、テレビを「非常によく見る」と答えていた人は、ほとんど見ない人と比べて、前頭葉と後頭葉の体積が小さい傾向を示しました。
さらに、記憶形成に重要な海馬などを含む、アルツハイマー病の初期に影響を受けやすい脳領域をまとめた指標でも、体積が小さくなっていました。
一方、脳の「白質高信号病変」の体積は大きくなっていました。
白質高信号病変とは、MRI画像上で白い斑点やモヤモヤして見える異常部分であり、脳の細い血管の障害や認知機能低下、脳卒中のリスクと関連する指標です。
年齢、肥満度、喫煙、飲酒、糖尿病、身体活動量などを考慮しても、主要な関連は残りました。
つまり、普段どの程度運動していたかだけでは説明しきれない違いが見つかったのです。
同じ「座る」でも、デスクワークでは反対の傾向
興味深いのは、座っていること自体が、一律に脳の小ささと結びついたわけではない点です。
仕事中に長く座っていると答えた人は、仕事でほとんど座らない人と比べて、前頭葉や後頭葉の体積が大きく、白質高信号病変が少ない傾向を示しました。
チームは、デスクワークに含まれる読解、記憶、計画、判断、問題解決などの知的刺激が関係している可能性を挙げています。
テレビ視聴は、座った状態で行われるだけでなく、情報を受け取ることが中心となる受け身の活動です。
一方、机に座る仕事は身体的には動かなくても、頭の中では複雑な処理を続けている場合があります。
この違いが、長期的な脳構造との関連を分けたのかもしれません。
ただし、研究では、それぞれの仕事内容が実際にどれほど知的刺激を含んでいたかを直接測定していません。
また、テレビ視聴と仕事中の座位は自己申告による頻度であり、1日に座っていた正確な時間は不明です。
さらに研究開始時の脳画像が存在しないため、約24年間で脳がどの程度変化したのかも測定できませんでした。
テレビ視聴によって脳の体積が小さくなった可能性だけでなく、もともとの脳や健康状態、生活環境などがテレビを見る習慣にも影響していた可能性が残ります。
座りすぎを避け、定期的に体を動かすことは、今後も大切です。
しかし脳の健康を考えるときには、座っている時間の長さだけでなく、その間に何をしているかにも目を向ける必要がありそうです。
長時間テレビを眺め続ける代わりに、読書や創作、学習など、少し頭を使う活動を取り入れることが、将来の脳を健やかに保つ習慣につながるかもしれません。
参考文献
Brain scans reveal the hidden neurological cost of passive TV watching
https://www.psypost.org/brain-scans-reveal-the-hidden-neurological-cost-of-passive-tv-watching/
Heavy TV watching associated with smaller brain structures, study finds
https://medicalxpress.com/news/2026-07-heavy-tv-smaller-brain.html
元論文
Associations of distinct sedentary behaviors with cortical, subcortical, and white matter hyperintensity volumes: Evidence from the ARIC study
https://doi.org/10.1002/alz.71582
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

