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北中米W杯で見えた最新トレンド。「戦術的な柔軟性」と「対応力」が世界最高峰のスタンダードに

北中米W杯で見えた最新トレンド。「戦術的な柔軟性」と「対応力」が世界最高峰のスタンダードに


 北中米ワールドカップは、世界のサッカーの現在地を映し出す大会となった。48か国に出場枠が拡大されたことで、実力差がそのまま結果に反映された試合も少なくなく、従来以上に戦力差を感じさせるゲームも見られた。

 一方で、カーボベルデやDRコンゴのように、組織力と戦術を武器に強豪を苦しめたチームもあった。カーボベルデはアルゼンチンを相手に最後まで互角の戦いを演じ、DRコンゴもイングランドを追い詰めた。大会全体から見れば少数派ではあったものの、戦術の成熟によって世界との差を縮められることも示された。

 しかし、ノックアウトステージが進むにつれて、やはり総合力の差は明確になった。ベスト4に勝ち上がったのはスペイン、アルゼンチン、フランス、イングランド。現在の世界サッカーをけん引する4か国が順当に顔を揃えた。

 前回カタール大会ではモロッコがアフリカ勢初のベスト4入りを果たし、ルカ・モドリッチを擁するクロアチアはロシア大会の準優勝に続き、3位と好成績を収めた。近年はダークホースが上位へ進出するケースが続いていたが、今回は世界最高峰の実力を持つチームが、それを結果で証明した大会だったと言える。

 では、彼らは何が優れていたのか。今大会の最大のトレンドとして挙げられるのは、「自分たちのスタイルを持ちながら、それに固執しない」という戦術的な柔軟性だった。

 スペインはボール保持をベースに試合の主導権を握ったが、ポゼッションそのものが目的ではなかった。相手が前線から圧力を掛ければ背後を使い、引いて守れば辛抱強くボールを動かす。

 ビルドアップではサイドバックが中盤へ入り、センターバックが前進するなど、局面ごとに立ち位置を変えながら数的優位を生み出し、自分たちに有利な状況を作り続けた。
 
 リオネル・メッシという絶対的なエースを擁するアルゼンチンもまた、1つの戦い方に縛られなかった。前線から積極的にボールを奪いに行く時間帯もあれば、ミドルブロックを敷いて相手を誘い、そこから鋭いカウンターを繰り出す時間帯もある。

 ショートパスを主体としながらも、必要であればロングボールも選択するなど、試合展開に応じて最適な手段を選び続けた。

 フランスやイングランドも同様だった。キリアン・エムバペやジュード・ベリンガムなど、高い個の能力を土台としながら、守備ではマンツーマン気味に圧力を掛ける場面とブロックを固める場面を使い分け、攻撃でも相手の守備配置に応じてビルドアップや前進方法を変化させる。

 試合開始から終了まで同じテンポで戦うのではなく、90分の中で何度もゲームの表情を変えることができた。

 かつては「ポゼッションかカウンターか」「ハイプレスかリトリートか」といった二項対立で戦術が語られることも多かった。しかし今大会で勝ち残ったチームは、そのどちらかを選ぶのではなく、局面ごとに最適解を選択していた。

 攻守のシステムを可変させることも珍しくなくなり、相手のマンツーマン守備をどう攻略するか、あるいは自分たちがどのタイミングでプレッシャーを掛けるかなど、試合中の修正力が勝敗を左右する場面が数多く見られた。

 優勝したスペインは、その象徴的な存在だった。初戦ではカーボベルデの組織的な守備に苦しみ、スコアレスドローに終わったものの、自分たちの方向性を見失うことはなかった。対戦相手ごとに立ち位置や攻撃のテンポ、守備の強度を細かく調整しながらも、ボールを保持して主導権を握るという軸は最後まで崩さなかった。スタイルを貫くことと、相手に応じて変化すること。その両立が世界一につながった。
 
 試合運びという点でも変化が見られた。5人交代制が完全に定着したことで、先発11人だけではなく、ベンチメンバーを含めた20人前後で試合を設計する考え方がより重要になった。

 延長戦まで含めた120分を想定したゲームマネジメントや、交代後も戦術の質を落とさない選手層の厚さは、上位進出国に共通する強みだった。

 さらに印象的だったのが、暑熱環境への対応である。アトランタ、ダラス、ヒューストンなど開閉式スタジアムでは空調設備が機能し、高いインテンシティの試合が実現した。また、ハイドレーションブレイクも給水だけでなく、戦術確認やコンディションを調整する時間として機能し、90分間のパフォーマンス維持に一定の効果をもたらしたように映った。
 
 伝統的なサッカー観からは賛否が分かれる制度ではあるが、その価値は今後も現場のフィードバックを踏まえて検証されていくべきだろう。

 北中米ワールドカップは、新興国の戦術レベルが着実に向上していることを示す一方で、世界一を争うためには総合力が不可欠であることも改めて証明した大会だった。そして、その総合力とは優れた選手を揃えることだけではない。確固たるプレーモデルを持ち、それを土台にしながら相手や試合展開、さらには環境に応じて最適な戦い方へと変化できる柔軟性である。

 スペインを頂点とした今大会は、「戦術的な柔軟性」と「対応力」が世界最高峰のスタンダードになったことを示すワールドカップだった。

取材・文●河治良幸

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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