
タレント揃うイングランドは、本当にW杯の優勝候補だったのか。66年以来最高成績の3位から見える成果と疑問
北中米W杯でフランスとの3位決定戦は、今大会のイングランドを測る試合としては扱いが難しい。互いに準決勝敗退から間もなく、寄せの強度も低かった。試合はどこかプレシーズンマッチのようだった。
6-4という派手なスコアで勝利し、優勝した1966年の自国大会以来、最高成績の3位を確定させた。その成果は決して小さくないが、この一戦をもって準決勝までに見えた課題を帳消しにすることもできない。
英BBC放送のチーフ・フットボールライター、フィル・マクナルティは、今大会を「イングランドにとって過去60年で最高のW杯」と認めながら、良くても最低限の結果、悪く言えば失敗だったと評した。一見、矛盾した評価だが、実態をよく表わしている。
トーマス・トゥヘル監督は、スベン・ゴラン・エリクソン、ファビオ・カペッロに続く、イングランド代表史上3人目の外国人監督として大会に臨んだ。ドイツ人指揮官に託された仕事は、チームを前進させることでも、ベスト4へ導くことでもなかった。1966年以来となる「優勝」だった。そう考えれば、アルゼンチンに敗れて決勝進出を逃した今大会は、目標に照らせば失敗である。
では、イングランドは本当に優勝候補だったのか?
初戦のクロアチア戦を見た限り、その評価に疑問を挟む理由はなかったように思う。トゥヘル監督が重視したのは、彼自身が伝統的なイングランドの美徳と考えるものだった。
フィジカル、強度、セットプレー、縦への速さ、そしてスピードと高さ。4-2でクロアチアを退けた試合では、守備の脆さという危うさも見えたが、勢いを伴ってイングランドの持ち味が機能した。『タイムズ』がこのクロアチア戦と、3-2で競り勝ったラウンド16のメキシコ戦を、今大会における最高の勝利の2つに数えたのも理解できる。
ただ、クロアチア戦後は優勝候補としての輪郭が少しずつボヤけていった。
ガーナ戦ではボールを持ちながら0-0。守備を固める相手に対し、攻撃の速度を上げられなかった。パナマには2-0で勝利したものの、力関係ほどの圧倒感はなかった。ラウンド32のDRコンゴ戦も、試合終盤のハリー・ケインの2得点で2-1と勝ち切ったが、試合そのものを自在に動かしていたわけではなく、苦戦を強いられた。
もちろん、イングランドには勝負強さがあった。ただし、世界一になるチームとしての完成度が十分だったとは言い難い。
スペインやアルゼンチンの試合を見ると、その差はより鮮明になった。たとえば、ビルドアップだ。
両国は最終ラインからサイドへボールを出し、相手が人数を集めて密集地帯を作っていても、その場所で攻撃を止めなかった。短いパスを細かく交換し、周囲が適切な距離で出口を作る。そして、プレスを1つ外した瞬間、攻撃のギアを一気に上げて前進した。個人技と組織力、状況判断力、そしてチーム全体の共通理解が、狭い局面の中で結びついていた。
イングランドにも後方からつなぐ意思はあったが、サイドで囲まれたり、相手のプレスに追い詰められたりすると、そこから連続したパス交換で前進する場面は少なかった。苦しくなれば、GKやCBから前線への長いボール、セカンドボール、ウイングの突破、セットプレーに出口を求める。フィジカルと縦への速さは武器になったが、スペインやアルゼンチンには、それらに加えて、自分たちで局面をほどき、試合の流れを作り直す方法があった。
ラウンド16のメキシコ戦は、そうした疑念を一度、揺さぶった。
アステカという事実上の完全アウェー、高地と暑熱、さらに退場者を出した状況で3-2と勝利した。今大会最大の難所を越えたことで、優勝への期待は再び膨らんだ。準々決勝のノルウェー戦も内容では苦しみながら、ジュード・ベリンガムの2得点で延長戦の末に2-1で勝利。美しくはなくても、倒れない力はあった。
一方で、組み合わせに恵まれた面も否定できない。ラウンド32はDRコンゴ、準々決勝はノルウェーだった。ノルウェーはブラジルを破った実力国だが、イングランドがスペインやフランス、アルゼンチン級の相手を連破して準決勝へ進んだわけではない。真剣勝負の準決勝でフランスと戦っていれば、本当に勝てたのか。大会を通して見せた完成度からは、スペインを上回る姿も想像しにくかった。
それでも、ケインとベリンガムをともに活かした点は、トゥヘル監督の確かな功績である。ケインは準々決勝までに6得点。ベリンガムは試合を重ねるごとに存在感を増し、最終的に7得点を記録した。BBC放送は、今大会の総括記事でケインに8.5点、ベリンガムに9点の高評価を与えた。もともとケインを中心としたチームに、ベリンガムが大会中に並ぶほどの重要性を持つようになったことは、大きな収穫だ。
ただし、その周囲では誤算も続いた。アキレス腱痛を抱えて大会入りしたブカヨ・サカは序盤に先発を外れ、終盤にようやく本来の勢いを取り戻した。代役として右サイドに入ったノニ・マドゥエケは攻撃を加速させられず、右からの迫力を弱めた。マーカス・ラッシュフォードにも大会を変えるほどの爆発はなかった。
例外はアンソニー・ゴードンだった。本人も認めた通り、序盤はスロースタートだったが、DRコンゴ戦で途中出場から2アシスト、メキシコ戦では決勝点につながるPKを獲得し、ノルウェー戦で同点弾を演出。アルゼンチン戦では先制点を決めた。大会が進むほど評価を高めた数少ないウイングだった。
中盤のデクラン・ライスも誤算の1つだ。腰痛とハムストリング痛を抱え、ノルウェー戦前には体調不良で3日間、寝込んでいた。アーセナルで見せていた最高水準には届かなかった。選手名だけを見れば世界屈指の陣容だったが、最高の状態で大会を戦えた主力は、想定よりも少なかった。
そして迎えた準決勝のアルゼンチン戦。イングランドはゴードンの得点で先制し、決勝まで残り15分ほどに迫った。しかし、トゥヘル監督はエズリ・コンサを投入して5バックへ移行。アルゼンチンにボールと主導権を明け渡し、終盤に1-2と逆転された。
この敗戦に、英メディアの批判は厳しかった。BBC放送は「主導権を放棄した」と指摘し、『タイムズ』は「勝ち切れないガレス・サウスゲイト前政権を思わせた」と論じた。『デーリー・テレグラフ』も「トゥヘルの交代策とシステム変更」を敗因に挙げた。
ただ、これはトゥヘルという監督の限界が露呈したのではなく、最重要局面で一手を大きく誤った敗戦と見るべきだろう。
メキシコ戦とノルウェー戦を経た疲労、ライスの状態を考えれば、守備を強化した意図は理解できなくもない。それでも、守備者を増やせば安全になるわけではない。あの戦術変更で、イングランドには、奪ったボールを保持し、相手の圧力を外して試合を落ち着かせる術がなくなった。
イングランドは優勝候補の一角ではあった。だが、スペインやアルゼンチン、フランスと並ぶ最有力候補ではなかった。個の力やフィジカル、勝負強さは世界一を狙える水準にある。一方で、たとえば、プレッシャーを受けてもボールを前へ運び、試合の流れを自ら作り直す柔軟性は乏しかった。
W杯3位は到達点ではない。イングランドが本物の優勝候補になるために、なお埋めなければならない距離を示した結果だった。
文●田嶋コウスケ
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