試合を象徴するプレーは開始早々にあった。それもふたつ続けてだ。
7月18日、東京は国立競技場。湿気の強い空間で約5万人のファンに見守られ、ラグビー日本代表がフランス代表のキックオフを受け取る。自陣22メートル付近左中間のラックから、スクラムハーフの齋藤直人が高い弾道を蹴る。
追っ手がボールの再獲得を狙う類のキックだったが、それを抱え込んだのは対するウイングのテオ・アティソベだ。ジャンプして、落ちてくる球を手から胸に移した。競り合ったウイングの石田吉平は言う。
「先に着地点に入られると、飛べない。自分が空中戦というところで、負けてしまった」
自陣10メートル付近左で球を与えた日本代表は、そのまま逆側のスペースにパスを通される。何とか勢いを止めようとするうち、接点で紙一重の反則を取られた。
ふたつ目のインプレッシブな動きは、ここから生まれた。
ペナルティーキックから自陣ゴール前に入られた日本代表は、フランス代表のラインアウト成功を許す。あえて、捕った後の攻めのバリエーションが限られる、前方でのキャッチングを選択された。ここからモールという塊ができた。中央方向ではなく、押し出されるリスクのあるタッチライン側へと進んだ。
いわばセオリーを逸脱した手順で、フランス代表が先取点を挙げた。日本代表で左プロップの大塚壮二郎は、舌を巻いた。
「(日本代表はラインアウトの)後ろにポッド(長身選手らの群れ)を置いて、前で(相手にボールを)捕らせるという形だったんですけど、そこで、(フランス代表は)もう1個前に(捕球位置を)ずらしてきて。(本来ならモールを)ポールの方向へ押すのを、タッチライン側へ押していた」
戦ったのはネーションズチャンピオンシップの第3戦。新設された国際大会の前半戦ラストゲームである。ぶつかったフランス代表は、世界ランクで11つ上回る4位の強豪だ。
日本代表は終始、立ち上がりに対応を誤ったふたつのプレーで苦しんだ。15―42。第2次政権3季目となるエディー・ジョーンズヘッドコーチは、潔かった。
「2つのエリアで完敗し、それが影響を及ぼした。ひとつはモール。空中でのコンテストも制された」
先制点を与えたモールは、奪われた6トライのうち5本の起点となった。そのうち2本が、塊のまま白線を通る形だ。
初手で肩透かしを決めた格好のフランス代表は、起点となるラインアウトの捕り方、塊の進行方向をその都度アレンジしてゆく。日本代表はラインアウトそのものへ圧をかけたり、塊の割れ目に頭を突き刺したりしながら、及ばなかった。
ジャパンの対策が奏功したのは、最終スコアが決まって久しかった後半29分の1本だ。ロックのワーナー・ディアンズ主将が、相手の群れの奥へ長い腕を伸ばしてストップできた。うまくいったこの1本を踏まえ、ディアンズは全体をこう総括した。
「相手は大きな身体を使っていいパンチ(初動)をして、いいモメンタム(勢い)でモールを組んだ。自分たちが最初のパンチで負けたという感じ。後半は(日本代表も)いいパンチができて、ちょっと修正できたと思います。もう少しパンチの質を上げないといけないです」
実質的なファーストプレーだったハイボールの競り合いでは、より後手に回った。
15―28からの立て直しを図った後半開始早々には、日本代表側、フランス代表側の高い弾道を2つ続けてフランス代表が確保し、混とん状態から攻め切り15―35と流れを傾けた。
フランス代表が、両ウイングのサイズや競り方のうまさを活かして高いキックを多用していたのは明らか。ファビアン・ガルティエヘッドコーチは言う。
「今回は戦術で勝てた」
悔やんだのは石田である。自身を重用するジョーンズに「勉強になったな」と言われた身長167センチ、体重75キロの26歳は、ボールを捕りに行って長身の相手に阻まれた現実と向き合っていた。
「修正が必要です。ここで『身長が低いので、もう終わり』となったらそれまで。自分でしっかり工夫しながら、空中戦に向き合っていきたいです」
フランス代表は、来年のワールドカップオーストラリア大会で予選同組だ。上位進出へ避けられぬ相手とのバトルで、伸びしろが明らかになったのは収穫か。
ディアンズ、フランカーのベン・ガンターらによる衝突局面など前向きな領域もあっただけに、フルバックの松永拓朗はこの調子だ。
「改善点は明確。そこをクリアできれば、ジャパンのアタック、ディフェンスのエフォートは通用した部分がたくさんある。自信を持っていい」
チームはここで一時解散。7月下旬に北海道へ再集結し、組織づくりに励む。件の課題を克服し、担当コーチの候補者を絞り込みながら連携攻撃を磨く。8月には対オーストラリア代表2連戦に挑む。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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