
早く眠りたいのに、頭のなかに雑念が渦巻いて、なかなか寝つけない。
そんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。
眠ろうとして焦れば焦るほど、雑念が湧いてきて、ますます眠れなくなる悪循環。
そんなときに、役立つかもしれない寝落ち方法があります。
それが医学的にも注目されている「認知シャッフル(Cognitive shuffling)」という睡眠法です。
これは端的にいうと、互いに関連性のない単語や映像を頭のなかで次々と切り替えて、雑念から意識をそらすという入眠テクニック。
では、「認知シャッフルの実践方法」や「なぜ寝落ちに効果があるのか」について見てみましょう。
ちなみに、認知シャッフルを実践した人の中には、それまで入眠に1時間以上かかっていたところ、約15分ほどで眠りにつけるようになった人もいるとのこと。
目次
- 「認知シャッフル」のやり方
- なぜ「認知シャッフル」をすると眠たくなるのか?
「認知シャッフル」のやり方
「認知シャッフル」は元々、カナダ・サイモンフレーザー大学の認知科学者リュック・P・ボードワン氏が考案したもの。
特別な道具は必要なく、布団に横になったまま、頭の中で簡単な言葉遊びをするだけです。
では、具体的に何を考えればよいのでしょうか。
まず、感情を強く刺激しない、簡単な単語を1つ選びます。
たとえば「ふくろう」という単語を選んだとします。
単語を思いついたら、頭のなかで言葉だけを唱えるのではなく、その姿を映像化します。
そうしたら次に、最初の文字である「ふ」から始まる別の物を思い浮かべていきます。
「ふね」
「ふろ」
「ふうせん」
「ふじさん」
というように。
ここで注意すべきは、それぞれの単語のイメージをつないで、物語を作らないことです。
たとえば、フクロウが船に乗って、風呂に入り、風船につかまって、富士山の頂上まで飛んでいく、というような物語にしてはいけません。
認知シャッフルで重要なのは、前後につながりのない映像を短い間隔で次々と切り替えることです。
「ふ」から始まる物が思いつかなくなったら、また別の文字で同じことを繰り返します。

眠気が強くなれば、途中で何を考えていたのか分からなくなっても構いません。
むしろ、単語を考える作業が途切れ始めること自体が、眠りへ近づいているサインになります。
認知シャッフルは、正解数を競うゲームではないです。
思いつかない文字があれば、無理に答えを探さず、すぐに飛ばして構いません。
また「ん」や「を」のように単語を作りにくい文字で考える必要はありません。
難しい言葉を探そうとすると、それ自体が頭を働かせる課題になり、眠りから遠ざかってしまいます。
また、仕事、政治、試験、失敗、病気など、不安や強い感情を呼び起こす言葉は避けたほうがよいでしょう。
途中で嫌な言葉が浮かんでも、「考えてはいけない」と抑え込む必要はなく、別の映像へ静かに移ります。
「どうして浮かんだのだろう」と分析し始めないことも大切です。
認知シャッフルには、最初に基準となる一文字を決めず、「アリ」「時計」「ペンギン」「自転車」のように、無関係な物を自由に思い浮かべる方法もあります。
アルファベットや五十音の順番に沿って物を考える方法もあります。
どの方法でも共通するのは、感情的に中立な物を選び、それぞれを映像化し、互いにつなげないことです。
なぜ「認知シャッフル」をすると眠たくなるのか?
眠れない夜に頭に浮かぶのは、単なる雑念ではありません。
明日の予定を組み立てたり、過去の会話を反省したり、将来の問題への対策を考えたりと、一定の目的を持った思考であることが多いです。
こうした思考は、脳にとって「眠る前に、まだ処理すべき重要な問題が残っている状態」といえます。
認知シャッフルを考案したボードワン氏は、心配、計画、頭の中での予行演習などが続いていると、脳の入眠を調整する仕組みが覚醒状態を維持する可能性があると考えました。
言い換えるなら、脳が「今は眠っている場合ではない」と判断しているという考え方です。
そこで、認知シャッフルは、頭のなかへ脈絡のない映像を次々と送り込みます。
フクロウの次に船、船の次に風船、風船の次に富士山というように、互いに無関係なイメージを切り替えていくと、目的をもった思考を筋道立てて考え続けることが難しくなるのです。
さらに、バラバラの映像を思い浮かべることは、人が自然に眠りへ落ちるときの思考に似ている可能性があるといいます。
覚醒状態から睡眠へ移る境目では、まとまりのある思考が次第に崩れ、人物、場所、物、出来事などの断片的な映像が浮かぶことがあります。
ボードワン氏は、この一瞬だけ現れる夢のような映像を「マイクロドリーム」と表現しています。
つまり、バラバラな映像は、眠気によって起きる結果であるだけでなく、脳を入眠時に近い状態へ導く合図になるかもしれないのです。

この点で、認知シャッフルは羊を数える方法とも異なります。
単純に数字や羊を数えるだけでは、数えながら仕事や心配事を考えることができます。
一方、次々と違う物を探して映像化する作業には、ある程度の注意が必要です。
心配事を続けられない程度には頭を使いますが、難しい計算や物語ほど脳を刺激しないという、絶妙な位置を狙った方法なのです。
しかし、認知シャッフルを「誰でもすぐに眠れる方法」や「不眠症を治す方法」と断定することはできません。
効果には個人差があり、単語を考えることが負担になる人や、数字や羊を数えたりする方法のほうが落ち着く人もいます。
それでも、薬や特別な器具を使わず、布団の中ですぐ試せるという点は、この方法の大きな利点です。
眠れない夜には、「早く眠らなければ」と自分を追い詰めるほど、脳がますます覚醒してしまいます。
そんなときは、眠ろうと努力する代わりに、頭の中で意味のない映像をシャッフルしてみるのもよいかもしれません。
「ふね、ふくろう、ふうせん、ふろ」
次に何を考えるか分からなくなった頃には、すでに眠りの入り口へ足を踏み入れている可能性があります。
認知シャッフルの目的は、ゲームを最後まで続けることではありません。
途中でゲームそのものを忘れ、知らないうちに寝落ちすることこそが、この不思議な言葉遊びの唯一の勝利条件なのです。
参考文献
I cognitively shuffle myself to sleep
https://psyche.co/notes-to-self/i-couldnt-sleep-then-i-tried-cognitive-shuffling
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

