「人型ロボットをウクライナの戦場で試験した」
そんなニュースが飛び込んできたのは2026年春のことだ。黒い二足歩行型の機体、Phantom MK-1。開発したのは米スタートアップ企業のFoundationで、同社によれば2体が2月にウクライナへ送られ、物資の受け渡しを想定した非公開試験が行われたという。
映画「スター・ウォーズ」のバトル・ドロイドを連想した人がいるだろうが、これはSFではない。CEOのサンカエト・パタック氏は、兵士が撃たれる危険のある場所で機械が代わりに動く可能性を示した、と語る。
ロシアが2022年2月にウクライナへの全面侵攻を始めてから、約4年半が経つ。双方とも大規模な損失を出しながら前線がほとんど動かない長期戦となっている。
アメリカ戦略国際問題研究所(CSIS)が2026年7月に公表した推計では、ロシア軍の死者は最大45万人、ウクライナ軍の死者は12万5000人から15万人に上る可能性がある。いずれも確定値ではないが、負傷者や行方不明者を含む総損失は両軍合わせて200万人を超えると、CSISは試算する。
ウクライナでは志願入隊者が激減し、長期従軍者の疲弊が深刻化。兵員が不足しているからロボットを使う、という単純な話ではない。そもそも人間が担うには危険すぎる任務が増えているのだ。
車輪型やキャタピラ型の無人地上車両(UGV)はすでに実戦で広く使われており、弾薬・食料の輸送から負傷兵の搬送、地雷の除去、偵察、爆薬を積んだ陣地攻撃まで、役割は多岐にわたる。ウクライナ国防省によれば、任務回数は2026年6月だけで1万6676件で、年初来の累計は6万6300件を超えた。
ではなぜ、キャタピラ型では不足なのか。戦場の建物、扉、階段、軍用車両の座席、工具、銃器はすべて人間の体に合わせて設計されている。それをそのまま使えるのが、人型ロボットの最大の強みなのだ。
もう人間が制御できる戦争ではなくなる
だがPhantom MK-1は、その強みを発揮できる段階に届いていない。積載量は約20キログラムで防水機能はなく、転倒すれば自力では起き上がれない。敵の電波妨害で通信が切れるリスクもあり、1台約15万ドルという価格も量産の壁になる。
Foundation社は銃撃などの殺傷行為には通常、人間の承認を介在させるべきだと説明しているが、ドローン迎撃のように数秒以内の判断が求められる場面では、人間の判断を待てない場合もあると認めている。機械が自分で「撃つ」と判断する状況が生まれれば、それはもう人間が制御できる戦争ではない。
そしてもうひとつ、別の怖さがある。Foundation社は2027年末までに5万台の製造を目標に掲げる。それだけの数が戦場に並んだ時、自国兵士が死亡する危険が下がれば、武力行使に対する世論の抵抗が弱まる可能性が出てくる。政府にとっても、人的損失への批判を恐れず、軍事行動を選びやすくなる。
人型ロボットを戦場に送ることは、人命を守る技術である一方、戦争を始め、続ける際の政治的な負担を軽くする技術にもなりうるのだ。
(ケン高田)

