
真夏日に道を歩いていると、よく虫の亡骸を目にします。
そんなときに、こう思ったことはないでしょうか。
「なんで死んだ虫は、あお向けにひっくり返っているんだろう?」
そう、セミでもカナブンでも、ほとんどの虫があお向けの状態で死んでいます。
その気になるギモンを科学的に解決してみましょう。
目次
- 死んだ虫がひっくり返る「2つの要因」
- あお向けになっただけで死ぬ危険も
死んだ虫がひっくり返る「2つの要因」
その1:虫は背中側が重い
死んだ虫がひっくり返る要因の1つは、虫の重みが上部に偏っていることです。
より正確にいえば、「背中側が重い」と表現してもいいでしょう。
昆虫の体のうち、通常上を向いている側は、科学的には「背側面」と呼ばれますが、この部分は下側よりも重い傾向があります。
昆虫の脚は、全然重くありません。
一方、内臓や翅(はね)、翅を覆う硬い部分などはかなりの重さがあり、体の背中側に集まっています。
そのため、昆虫が脚の筋肉を使って姿勢を保てなくなると、簡単にあお向けに倒れてしまうのです。
その2:死ぬと脚が内側に丸まる
さらなる要因として挙げられるのが、脚の筋肉の変化です。
生きている虫は、脚を伸ばして地面を押し、体を持ち上げることで姿勢を維持しています。
私たちから見ると、虫は何もせず立っているように見えますが、実際には脚の筋肉を使い続けています。
ところが、虫が弱ったり死に近づいたりすると、筋肉に力を入れ続けることが難しくなります。
すると、脚はまっすぐ伸びた状態を保てなくなり、自然な位置へ戻るように内側へ曲がるのです。
人間の手でも、似た変化を確認できます。
手のひらを上に向けてテーブルに置き、指の力を完全に抜くと、指はまっすぐ伸びたままではなく、わずかに内側へ丸まるでしょう。
指を完全に伸ばすためには、筋肉を使わなければならないからです。
虫の脚でも、これと似たことが起きています。
脚が内側へ折りたたまれると、地面に接して体を支えていた範囲が狭くなり、虫の姿勢は急激に不安定になります。
そこへ背中の重さが加わって、虫は横倒しになり、そのまま背中を下にして転がることがあるのです。
あお向けになっただけで死ぬ危険も
ここで重要なのは、虫が「死んだからあお向けになる」とは限らないことです。
反対に、「あお向けになって起き上がれないために死ぬ」という場合もあります。
健康な昆虫の多くは、誤って背中から落ちても、自力で元の姿勢へ戻れます。
脚を地面や壁に引っかけたり、翅を動かしたり、胴体を勢いよく揺らしたりして、体を反転させるのです。
しかし、すべての場所で簡単に起き上がれるとは限りません。
滑らかで平らな床では、脚を引っかける場所がありません。
また、体が弱っていたり、病気にかかっていたりすると、体をひねるだけの力も残っていない可能性があります。
その結果、虫は仰向けのまま身動きが取れなくなります。
その状態が長く続けば、水分や食べ物を得られなくなり、脱水や栄養不足によって死ぬことがあるのです。
また、殺虫剤の影響を受けた虫では、この問題がさらに顕著になります。
市販されている殺虫剤の多くは、昆虫の神経系に作用します。
神経と筋肉の連携が乱れると、脚が無秩序に動いたり、全身がけいれんしたりすることがあります。
その激しい動きによって虫が仰向けに転がる場合があります。
ところが、神経系が正常に働いていないため、ひっくり返ったあとに脚を協調させて起き上がることができません。
元気な虫なら簡単に脱出できる姿勢でも、殺虫剤で弱った虫にとっては致命的な罠になってしまうのです。

なので、ひっくり返っているだけで、虫が既に死んでいるとは限りません。
道ばたのセミでも、あお向けになってはいるが脚がひくひく動いていることがありませんか?
その場合は、姿勢を戻せれば、また元気に飛び立てる可能性もあります。
ですので、虫がどうしても無理でないなら、セミをうつ伏せにしてあげるといいかもしれません。
触るのを避けたいなら、小枝なんかで転がすのもいいでしょう。
参考文献
Why do bugs die on their backs?
https://guloinnature.com/why-do-bugs-die-on-their-backs/
Why Do Bugs Die On Their Backs?
https://www.thoughtco.com/why-do-bugs-die-on-their-backs-1968414
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

