日本時間の7月25日の深夜(発走予定時刻;23時35分)、上半期の欧州中長距離路線におけるチャンピオン決定戦「キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス(G1、アスコット・芝11ハロン211ヤード≒芝2400m)」が開催される。今年は日本から、昨年の天皇賞(秋)(GⅠ)を制したマスカレードボール(牡4歳/美浦・手塚貴久厩舎)と、天皇賞(春)(GⅠ)を勝ったクロワデュノールをハナ差まで追い詰めたヴェルテンベルク(牡6歳/栗東・宮本博厩舎)の2頭が参戦。JRAが馬券を発売することも手伝って、ファンの注目も日に日に高まっている。
今年の本レースの焦点は、昨年11月のジャパンカップ(GⅠ)で激闘を展開したカランダガン(せん5歳/英/F.グラファール厩舎)とマスカレードボールによる、ホームとアウェイを入れ替えての再戦である。
まず、カランダガンの戦績を振り返ってみよう。2024年の春に2000~2400mの重賞を3連勝したのちG1戦線へ参戦、4戦連続で2着になる歯痒い時期を経験する(そのなかには、日本のダノンデサイルに敗れたドバイシーマクラシックも含まれている)。しかし昨年6月にフランスのサンクルー大賞(G1)でG1初勝利を挙げると、以後、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス(G1)、英チャンピオンステークス(G1)、ジャパンカップ(G1)とGⅠレースを4連勝。2025年度の欧州競馬における優秀馬を表彰するカルティエ賞で年度代表馬に選出され、JRA賞は30年ぶりに外国馬がジャパンカップを制したことを評価し、特別賞を授賞した。そしてロンジン・ワールド・ベスト・レースホース・ランキングにおいて最高レートの130ポンド(英チャンピオンステークス)を記録した本馬が1位を守り、名実ともに2005年度の中長距離において世界でトップの座に君臨した。
カランダガンは今年もタフな走りを続けており、初戦のドバイシーマクラシックは直線は独走態勢を築き、2着に0秒77の差を付けて圧勝。次走、英国のコロネーションカップ(GⅠ)は道悪に苦戦して4着に敗れたものの、続くサンクルー大賞では2着をクビ差退けて2連覇を達成した。力の衰えはまったく感じられないうえ、今回の舞台は昨年快勝したキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスであり、ホームの欧州で戦える彼の優位は明らかだろう。 対するマスカレードボール。昨年2月の共同通信杯(GⅢ)で重賞初制覇を達成すると、春のクラシックは皐月賞(GⅠ)がミュージアムマイルの3着、日本ダービー(GⅠ)がクロワデュノールの2着に善戦。秋は距離不適とみた菊花賞(GⅠ)ではなく、2000mの天皇賞(秋)で古馬に挑み、皐月賞で敗れたミュージアムマイルを2着に降して念願のGⅠ初制覇を成し遂げた。続くジャパンカップではカランダガンとの激しい叩き合いになったが、破れはしたもののタイム差なしのアタマ差2着に喰らい付いた。今年は4月に香港のクイーンエリザベスⅡ世カップ(GⅠ)に遠征し、当地の絶対的王者であるロマンチックウォリアーから1馬身差の2着に健闘し、順調な滑り出しを見せた。
マスカレードボールにとってのテーマは、やはりアップダウンが激しいコースとタフな馬場への適性だろう。この点に関して手塚貴久調教師は、「最初が下りでその後はずっと上り。かなり難しいと思う。雨が降ると想像を絶する馬場になると思うので、良馬場でやりたいですね。あとは斤量61㎏がどうか。57㎏までしか背負ったことがないので」とし、間違っても楽観視できるようなレースではないことを明かしている。
ひとつの指標として、過去本レースに出走した日本馬の成績を振り返ってみる。
<1969年>スピードシンボリ(野平祐二) 5着(9頭)
<1985年>シリウスシンボリ(岡部幸雄) 8着(12頭)
<2000年>エアシャカール(武豊) 5着(7頭)
<2006年>ハーツクライ(C.ルメール) ③着(6頭)
<2012年>ディープブリランテ(岩田康誠) 8着(10頭)
<2019年>シュヴァルグラン(O.マーフィー) 6着(11頭)
このうち2006年のハーツクライは、勝った前年の凱旋門賞馬ハリケーンランから1馬身差の3着に健闘しており、いったんは先頭に立つ場面を作っている(このとき手綱をとったのはクリストフ・ルメール騎手)。これが日本馬によるキングジョージでのベストパフォーマンスで、馬場状態などの条件や彼自身の適性の問題がクリアできれば、好勝負を繰り広げる可能性を無しとしない。マスカレードボールのことはもちろん、アスコット競馬場をよく知るクリストフ・ルメール騎手が手綱をとるのもプラス材料。20年越しのリベンジに期待したいところだ。
マスカレードボールの前に立ち塞がる欧州勢はカランダガンだけではない。愛ダービー(G1)の覇者で、クールモアが送り込んでくるベンヴェヌートチェッリーニ(牡3歳/愛/A.オブライエン厩舎)も強敵だ。
この幼駒の時代から大きな期待をかけられていたフランケル産駒は、2歳時にG3を勝ち、G1のフューチュリティトロフィーステークス(G1)で3着。3歳初戦のチェスターヴァーズ(GⅢ)を快勝して、英ダービー(G1)に1番人気で臨んだ。ところがここでは出遅れもあって10位で入線したが、レース後、枠内駐立中に手すりに左後肢を乗せた状態でゲートが開いたため、正常な発馬ではなかったと判断した裁決委員によって「競走除外」という異例の扱いとなった。そして次走、捲土重来を期して臨んだ愛ダービーでは2着に1馬身3/4差を付ける快勝で、幼い時期からの期待に応えた。斤量は4歳以上牡馬の約61㎏に対して、3歳牡馬は約56㎏と約5㎏もの差があり、これは大きなアドバンテージになる。欧州の主要ブックメーカーのオッズではマスカレードボールと同等の評価を受けている怖い存在だ。
その他にも有力馬は少なくない。昨年、英オークス(G1)、愛オークス(G1)、ヨークシャーオークス(G1)を3連勝し、続く凱旋門賞は勝ったダリズにアタマ差まで迫る2着となったミニーホーク(牝4歳/愛/A.オブライエン厩舎)は、前走のプリンスオブウェールズステークス(G1)に健闘している。2024年のジャパンカップに参戦して6着となったゴリアット(せん6歳/英/F.グラファール厩舎)は、同年の本レースの覇者。今年はG2を3走して、2着、1着、3着と堅実な走りを見せており、復活走があっても驚けない。
もう1頭、日本から参戦するヴェルテンベルクは、重賞に出走し始めてから1戦ごとに着順を上げ、そうした上昇気流に乗ったのが天皇賞(春)の2着だった。実績的に格下と見られるのは仕方ないが、ステイヤー寄りのキャラクターが示すように持ち前のタフさが活きる流れになり、晩成の馬特有の伸びしろがあれば善戦も期待できる。
当日はグリーンチャンネルが無料放送されるので、遠く英国でビッグタイトルに挑戦する馬たちに声援を送ってほしい。
文●三好達彦

