
映画やドラマを見る前に、ネタバレをくらうことを嫌う人はたくさんいます。
その一方で、「あのキャラって死ぬの?」「最後、バッドエンドだった?」と、むしろネタバレを積極的に欲する人もいます。
ネタバレを嫌う人からすれば、作品の楽しみを自ら捨てているように見えるでしょう。
しかし、ネタバレを求める人は、単に驚きが嫌いなわけではないようです。
新たな研究は、登場人物に強く感情移入した人が、自分自身の受ける精神的なダメージを心配し、その苦痛を回避するためにネタバレを選ぶ可能性を示しました。
つまり、ネタバレは物語を台無しにする情報ではなく、心を守るための「感情のシートベルト」として利用される場合があるのです。
研究の詳細は、米メーン大学(University of Maine)らにより、2026年の学術誌『Psychology of Popular Media』に掲載されています。
目次
- ネタバレを聞くのは、自分の心を守るため
- ネタバレを知ったら「作品の楽しみ」は減るのか?
ネタバレを聞くのは、自分の心を守るため
ネタバレについては、これまでにもさまざまな研究が行われてきました。
結末を先に知ると、物語の展開を理解するための負担が減り、かえって作品を楽しみやすくなるという報告がある一方で、驚きやサスペンスが失われ、楽しさが低下するという結果も示されています。
このように、ネタバレが作品を面白くするのか、台無しにするのかについては、単純な答えが出ていません。
そこで研究チームが注目したのが、「ネタバレを見せられたときに何が起きるか」ではなく、「なぜ人は自分からネタバレを選ぶのか」という問題でした。
今回の研究では、現実に近い形でネタバレを選ぶ行動を調べるため、「犬が死ぬ可能性のあるテレビドラマ」が用いられました。
チームは、参加者が作中の犬をどの程度心配したかに加え、その展開によって自分自身がどれほどつらい思いをしそうだと感じたかを調査。
そして、その感情がネタバレを選ぶ可能性や、その後の楽しさ、サスペンスの感じ方とどのように関係するかを検証しました。
ここでチームが区別したのが、「犬への心配」と「自分への心配」です。
犬への心配とは、「この犬に悪いことが起きてほしくない」と感じる、登場する対象に向けられた感情です。
これに対して自分への心配とは、「犬が死ぬ場面を見たら、自分がひどく悲しんでしまうのではないか」「見終わった後まで不安やつらさが残るのではないか」と、自分自身の感情的な反応を懸念することです。
登場人物への共感が強くなるほど、その人物に何が起きるかが自分の感情にも大きな影響を与えます。
そのため、犬の運命を心配する気持ちが、自分の受ける苦痛への心配に変わり、「先に結末を知って心の準備をしておきたい」という行動につながる可能性があるのです。
実際、研究の第1実験では、犬への心配が強い人ほど自分自身の感情を心配し、ネタバレを選びやすくなるという心理的なつながりが示唆されました。
第2実験でも、犬への心配、自分への心配、ネタバレを選ぶ可能性の関連性が改めて確認されました。
この結果が示しているのは、ネタバレを求める人が物語に興味を持っていないということではありません。
むしろ反対に、登場人物や動物に感情移入し、作品から強い感情的影響を受けるからこそ、先に結果を知りたくなる場合があるのです。
ネタバレを読むことで、悲しい出来事そのものが消えるわけではありません。
しかし「何が起きるか分からない」という不確実性は減らせます。
予想していなかった悲劇として受け止めるのではなく、あらかじめ心の準備をしたうえで物語に向き合えるようになるのです。
チームは、このようなネタバレの選択が、ネガティブな感情から自分を守る自己防衛の一種として機能している可能性があると考えています。
ネタバレを知ったら「作品の楽しみ」は減るのか?
ネタバレを嫌う人にとって、結末を先に知ることは、作品の楽しさを失う行為に思えます。
特にミステリーやサスペンスでは、「次に何が起きるのか分からないこと」自体が楽しさの中心です。
それでは、感情的な苦痛を避けるためにネタバレを選んだ人は、実際に作品を楽しめなくなってしまったのでしょうか。
今回の研究では、少なくとも用いられたテレビドラマの条件において、ネタバレを選んだことと、その後に感じた楽しさやサスペンスの強さとの間に、明確な関係は確認されませんでした。
結末を知った人が、必ずしも作品を楽しめなくなったわけではなかったのです。
これは、ネタバレが感情を完全に消してしまうものではないことを示唆しています。
たとえば、ジェットコースターの構造や落下する場所を知っていても、実際に乗ったときの速度や浮遊感まで消えるわけではありません。
同じように、犬の運命を先に知ったとしても、登場人物の演技、映像、音楽、物語がそこへ至る過程から生じる感情まで、すべて失われるとは限らないのです。
また、悲しい結末を知っておくことで、結末だけに気を取られず、その途中にある物語を落ち着いて見られる人もいるでしょう。
ただし、この結果を「ネタバレは作品を台無しにしない」と一般化することはできません。
今回の研究が扱ったのは、犬の死という、強い感情的反応を引き起こしやすい特定の状況です。
推理小説の犯人、恋愛作品の結末、物語の大きなどんでん返しなど、異なる種類のネタバレでも同じ結果になるとは限りません。
また、この研究から「ネタバレを知りたがる人は、もともと共感性が高い性格である」と断定することもできません。
研究で主に調べられたのは、参加者の固定的な人格ではなく、作品を見ているときに生じた犬への心配や、自分がつらくなることへの心配です。
したがって、今回明らかになった「心理」は、変わらない性格というより、その時々の作品や心の状態に応じて生じる心理的な反応パターンと考えるのが正確です。
普段はネタバレを強く嫌う人でも、精神的に疲れているときや、悲しい展開を受け止める余裕がないときには、先に結末を確認したくなるかもしれません。
反対に、普段はネタバレを知りたい人でも、安心して物語に没頭できるときには、先の分からない感覚を楽しめる可能性があります。
まとめ:人によってネタバレは「心の防波堤」になる
ネタバレを知りたがる人は、先の展開の驚きを理解できないわけでも、物語を真剣に見ていないわけでもありません。
作品から受ける感情的な衝撃を予測し、自分が耐えられる大きさに調整しようとしている可能性があります。
特に、動物の死や登場人物の喪失など、自分が強く反応すると分かっている展開では、結末を知ることが作品を避けずに楽しむための手段になる場合があります。
一方、ネタバレを避ける人は、不確実性や驚きを含めて、作り手が意図した順番どおりに感情を味わおうとしています。
どちらが優れているという話ではありません。
ネタバレを求めるか避けるかは、自分がどのような感情体験を望み、どの程度の不確実性を受け入れられるかによって変化します。
参考文献
What Your Spoiler Preference Says About You
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-squeaky-wheel/202607/what-your-spoiler-preference-says-about-you
元論文
Does the dog die? Empathic distress and spoilers as self-protection.
https://doi.org/10.1037/ppm0000675
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

