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「日本必敗」の結論はなぜ無視されたのか――映画『開戦前夜』が暴く“開戦への空気”【やくみつるのシネマ 小言主義 第301回】

「日本必敗」の結論はなぜ無視されたのか――映画『開戦前夜』が暴く“開戦への空気”【やくみつるのシネマ 小言主義 第301回】

©2026 ポニーキャニオン/東京テアトル/NHKエンタープライズ/RIKIプロジェクト

【やくみつるのシネマ 小言主義 第301回】『開戦前夜』
1941(昭和16)年4月、真珠湾攻撃の8カ月前。宇治田洋一(池松壮亮)をはじめとする官僚や軍、民間から厳選されたメンバーによる内閣総理大臣・東条英機の直轄機関「総力戦研究所」が結成された。彼らに与えられた任務は、メンバーで模擬内閣を組織して日本とアメリカの開戦のシミュレーションし、行く末を報告すること。宇治田が模擬内閣で内閣総理大臣の役割を担い、国家機密レベルのデータを駆使した激烈な議論の末、「日本必敗」という衝撃的な結論にたどり着く。

知られざる「総力戦研究所」の実像

1941年、真珠湾攻撃が行われる8カ月前に、軍関係・政府機関・民間企業から集められた若手エリートによる「総力戦研究所」が設置された。そこでは、最高機密データの分析を元に「アメリカと開戦すべきか」、「勝ち目はあるのか」をシミュレーションしていたという歴史的事実を映画化したのが本作です。

原作は、1983年にノンフィクション作家の猪瀬直樹氏が、かつての所員たちにインタビューしてまとめた『昭和16年夏の敗戦』。

自分は、太平洋戦争については関心の高い方だと自認しています。関連書籍は積極的に読みますし、都内はもちろん、地方に出掛けた先に戦争資料館などがあれば、できる限り見学していますが、「総力戦研究所」なる存在を知りませんでした。なので、開戦直前にこんな検証が行われていたのかと驚きを持って見ました。

「総力戦研究所」では、日米間の圧倒的な国力の差を明らかにして「開戦すれば長期戦では必敗」という結論を導き出し、それを当時の近衛内閣に進言していた。なのに、なぜ開戦へと突き進んでいったのか。それを描くために、映画では登場人物像がややデフォルメされているように感じました。映画の進行としては致し方ないかとも思いますが。

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今こそ若者に見てほしい理由

ただ、東條英機ですら開戦派でなかったとしたら、いったい誰が開戦へと舵を切ったのか。必ず決断した個人がいるはずなのに、そこを曖昧にしているのは映画の描き方として腰が引けているのではと感じました。

それまでの連勝からイケイケドンドンになっていた軍部や、NOと言えない大衆の同調圧力、つまり〝空気〟のせいだと言いたいのか。だとしたら、「今」はどうなのかと再認識してもらい、「こうやって、知らない間に開戦になってしまうんだ」と一人一人が危機感を抱くために見ておきたい映画だと思いました。

面白かったのは、30代前半の若者らが研究所内で「模擬内閣」を結成していたこと。最初は「ごっこ遊び」のようだったのが、役割を与えられたことで次第に本気になっていきます。

内閣総理大臣役に抜擢された民間人には池松壮亮、狂言回し的な言動を取る政治部記者には仲野太賀と、NHK大河ドラマの『豊臣兄弟!』コンビが活躍するのも、見どころの一つです。

今や、若者の投票率の低迷が常態化しています。「自分の一票では何も変わらない」と感じている若者こそ本作を見てほしい。自分らの年代は、次の「開戦前夜」には、何の力も発揮できないと思いますからね。

『開戦前夜』
監督・脚本・編集:⽯井裕也 原案:猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」中央公論新社 出演:池松壮亮、仲野太賀、岩⽥剛典、中村蒼、三浦貴⼤、⼆階堂ふみ、杉⽥雷麟、北村有起哉、嶋⽥久作、中野英雄、渡辺いっけい、別所哲也、松⽥⿓平、奥⽥瑛⼆、國村隼、佐藤隆太、江⼝洋介、佐藤浩市 配給:東京テアトル 7⽉31⽇(⾦)全国公開

「週刊実話」7月30日・8月6日号より

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
配信元: 週刊実話WEB

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