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「データに載らないところでいかに勝負するか」“反省のレベル”を上げながら新たな手応えをつかんだ今永昇太<SLUGGER>

「データに載らないところでいかに勝負するか」“反省のレベル”を上げながら新たな手応えをつかんだ今永昇太<SLUGGER>

7月19日の日曜日、午後1時を過ぎた頃、カブスの今永昇太は、リグリー・フィールドの三塁側ベンチから飛び出し、登場曲『Chelsea Dagger』の軽快なリズムに乗ってマウンドに向かった。

 いつもと変わらぬ風景ではあるが、直近の2試合では少し違った光景に遭遇している。それは捕手(この日はカーソン・ケリー)の構えるミットが、そのマスクの位置よりも高く掲げられていることだ。

「効果があったかどうかは分からないですけど、結果が出てるからそう見えてるだけっていうのはもちろん、あると思います」

 高めを意識した構えなんです、と今永は続ける。

「例えば左バッターのインコースとかに投げる時って、(左パッターが打席に立つことで生まれる)壁みたいなもの......目標物みたいなものがあるから、大体この辺だって分かりやすい。低めも地面まで近いから、大体、この辺とか分かりやすい。でも、高めに関しては、この辺ってのが分からなくなってきてた。だから、(ミットを高く掲げることで)それを示してもらうってのを、いつかやりたいなと思ってたんです」

 今永と言えば、高めに伸びる真っすぐと低めへ落ちる変化球=スプリットだ。その二者択一ゆえに、速球の質向上や配球の工夫が、いつも課題になってきたわけだが、実は本人が「高めに投げるのはずっと気持ち悪い」と言い続けていたことでもあった。「日本だったら、高めの釣り球を投げる時なんかは、キャッチャーが立つこともあるんです。でも、こっちはやっぱり、セカンドランナーとか三塁ベースコーチャーとか、相手からあからさまに見えるのはやっぱりダメだよなっていうのがある。正直、高めに投げるんだったら、立ってもらいたい気持ちはありますけど、こっちでは現実的に無理なんで、どうしようかなっていうところでいろいろ考えて」

 あとはですねぇ、と彼は、こちらの興味を惹くように言う。

「これはトラックマン(計測機器)とかに絶対に載らないことなんですけど......データに載らないところで、いかに勝負するかっていうのを考えてる。じゃあ、データに載らないことって何かって言ったら、同じ高めの真っすぐ、91マイルでも、どう見えてるかだと思うんです。それって僕のフォームの中のエネルギーの伝わり方なんですよね。一個(身体が)止まってないかとか、高めを目掛けて高めに投げるじゃなくて、高めでもスッと投げるみたいな」

 感覚を言語化するのは難しい。「最近、自分がネットで調べた情報の中で、打者が打つ時って、投げ方とかクセとか見るって言いますけど、そんなとこ見てないです。ピッチャーの方をグッと見るんじゃなくて、周辺視野で。たとえば、あそこにスローンって書いてあるんですけど」

 今永はある日、リグリー・フィールドの右中間フェンスを指差して、そう言った。リグリー名物の蔦が這うフェンスは煉瓦作りなのだが、彼の指先にあるブルペンの入口だけは、緑地に「SLOAN」の白抜き文字が描かれている。

「バッターって、スローンよりあそこ(場外)のマンションを捉えていて、例えば、あのマンションがグラグラ揺れてても分かるような周辺視野で見てて、あ、なんか違うで、それを多分、過去の打席とすり合わせる。なんか違う時は確かスライダーだったはずっていうので、スライダーの打ち方をしながら来た球で微調整してる」

 理解するのは難しくても、聞く価値のある話だ。

「僕は今まで、スプリットの動きがいいとか、スライダーの曲がり幅がどうとか、そういうことばっかり考えていましたけど、結局、まったく同じフォームで投げなきゃいけないってことに改めて気づいて、いかにその球種が来ない投球フォームで投げるかっていう。ボクシングに似てると思うんですけどね、そのフォームだとジャブが見えないとか、その態勢から左フック来るかとか、そこで勝負しないといけない」 今永自身、「そりゃ、僕がバッターだったとしても、真っすぐに張ると思う」と言うぐらいだ。5月に4試合連続5失点以上と苦しんでいた時期もあり、速球をドンピシャのタイミングで叩かれた本塁打については、何らかの対策を講じなければいけなかった。

 それは今永本人に言わせれば、「反省のレベルがちょっと上がった」ということになる。件のレッズ戦の5回、先頭のエリー・デラクルーズにその試合唯一の失点であるソロ本塁打を打たれた時のコメントだ。

「たぶん、真っすぐかスプリットかという二択の中で、二択を外して、甘かったから打たれたっていうとこはある。今までは二択も合ってて打たれたってところがあったんで、それに関してはちょっと成長だったってかもしれない。今までみたいにただ甘かったから打たれた、っていうだけの反省のレベルとは違います」 相手打者のバットの出し方やタイミングの取り方で、真っすぐに合ってるのか、それとも変化球に合ってるのかを見極めるのは、今までもやってきたこと。そこに前述の打者目線の自分像を重ね合わせて、強い打球を打たれないための投球フォームと球の質、さらには配球が加わった。今までなら失投=被本塁打の危険性を伴った高めのスプリット、高めの変化球でアウトが増えているのは、彼が今取り組んでいることが間違いでないという証だろう。

「スプリットがメチャクチャ良くなったかって言われたらそうじゃないけど、バッターが打ちづらくなるような投げ方がちょっと分かってきた。これは絶対、僕についてのデータベースに載らないことで、だからこそ、最近はチェイス(ボールに手を出してくる)率も上がっている。数値とかじゃないんで、なるべくこの感覚を忘れないように続けていきたいなと思う」

 彼の言うことを完全に理解したわけではないが、誰の目にも明らかなことがある。それは速球=4シーム・ファストボールとスプリット、大きく曲がるスウィーパー、スピードを殺したカーブに加え、シンカー≒2シーム・ファストボールや、80マイル台後半の速いスライダーも実戦投入していることだ。しかも、それらは以前のように、目先を変えるために「たまに投げる」程度ではなく、「ダブルプレーが欲しい時」や「ストライクが欲しい時」に投げている。「自分的にはまったく同じ投げ方で、数値的に違うスライダーを投げて、同じような球速帯で絞らせないようにって感じです。それもバッターからの意見で取り入れてるんで、完璧に習得するのには時間かかりますけど、習得できれば手詰まりになる回数も減ると思うんで、これからの野球人生に行けるじゃないかと思います」

 今永は後半戦初の登板となったツインズ戦で5月13日以来、今季3度目の7回を投げ、6月10日以来、今季4度目の無失点に抑えた。米国ではさほど評価されないとは言え、今季ようやく5勝目を挙げ、防御率も5月18日以来の3点台に下げた。

「FIP(野手の守備力や運を排除して、投手の能力に由来する奪三振・与四死球・被本塁打のみから算出される疑似防御率)の方が投手の真の実力を図れるので、正直、防御率もそこまで気にしてない。結局、良い投手は防御率よりFIPの方が低いんです。本当にすごいピッチャーは、FIPがメチャクチャ低く出るんで、そういうのでも圧倒できるようなピッチャーになりたいなと思う。だから、(防御率は)気にしないけど、お前が言うなって言われるぐらいには気にするみたいな感じの、そういう数字ですね」

 いろんなことが出てきますね、と言うと、「まだまだ、いろいろ出せますよ」とニヤリと笑うサウスポー。今季最後の10登板。最新型「Shota Imanaga」は、どんな完成形になるのだろうか――。


文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
配信元: THE DIGEST

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