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世界トップとの差を突きつけられた北中米W杯。日本代表が先へ進むための課題設定。独自のハイブリッドな進化を【識者見解】

世界トップとの差を突きつけられた北中米W杯。日本代表が先へ進むための課題設定。独自のハイブリッドな進化を【識者見解】


 2026年の北中米ワールドカップは、日本代表にとって世界のトップオブトップとの距離、そしてさらなる高みへ進むために必要なものが何であるかを突きつける大会となった。

 高い完成度で相手を凌駕し続けたスペイン、激闘の末に決勝へと駒を進めたアルゼンチン、個のタレント力と組織の一体感をベースに、驚異的な躍進を見せたノルウェーやモロッコ、あるいはラウンド32で日本を阻んだブラジルの戦いぶりは、今後の日本サッカーが歩むべき道筋を示している。

 しかし、ここで重要なのは、特定の強豪国のスタイルをそのまま模倣することは不可能であり、またその必要もないという点である。日本には、世界に引けを取らない独自のアジリティ、規律、連動性がある。

 目ざすべきは、他国の強みを自国の文脈へと翻訳し、日本の強みを100%活かして、次のステージへ進むための引き出しを増やす、日本独自のハイブリッドな進化だろう。

 今大会の決勝まで見届けたうえで、日本の明確な課題と、日本流の強みを研ぎ澄ますための具体的なアプローチ、そして高い目標との向き合い方をまとめたい。

 今後の日本の方向性を見るなかで、今から優勝を目標にするべきか否かという議論は絶えない。結論から言えば、現場レベルにおいては継続して優勝を目標に掲げて良いし、その挑戦を止める必要はない。理由としては、目標の発端が森保一監督からのトップダウンではなく、選手目線で出ているモチベーションベースの指標であるからだ。

 もちろん、2005年の「JFA2005年宣言」に従い、2050年までに日本が世界一に立つことを目ざすにあたり、今から視線を向けて挑むことで、現在地や距離感が見えてくるという想定が森保監督にはあるはずで、1試合であれば優勝候補の列強にも太刀打ちできるという実感がベースにある。

 実際に、大手ブックメーカーの大会前の優勝オッズも、前回は250倍前後だったのが、100倍を切るところまで来ていた。

 しかし、何よりも指揮官がセレクトする選手が目線を上げることで、後から入ってくる選手たちも目を揃えやすい。そのうえで、監督自身は目標をどこに置こうとも、大会においては目の前の試合に一つひとつ、泥臭く向き合っていくスタンスに変わりはない。
 
 ただ、4年の成長サイクルを考えた時に、角度をさらに上げていく必要があることは、ベスト4に進んだ4か国の戦いぶりを見ても明らかだ。高いビジョンを持つことで、チームの基準と意識を引き上げ、逆算して今、何をすべきかを明確にする意味でも、決してマイナスにはならない。

 もっとも、こうした高い目標の発信はメディアやファン・サポーター、あるいは海外の受け止め方として「現実を見ていない」「大言壮語だ」といったバイアス、さらには結果に対する失望を生み出すリスクをはらんでいる。しかし、現場がそれを気にするよりも、実際に見えた結果に対して、そこからどう課題を汲み取り、次のサイクルに繋げていくかが進化の鍵になる。

 優勝した前回大会に続き、二大会連続で決勝に進んだアルゼンチンや、前回はベスト4で、今回も粘り強い戦いでベスト8に勝ち上がったモロッコにあって、日本に不足していたのは、試合を泥臭くクローズする、あるいはゲームのテンポを完全に支配する勝負強さである。

 しかし、アルゼンチンのようなコンタクトのマリーシア(狡猾さ)や審判へのアプローチを、日本がそのまま真似ることはできない。それでも、終盤にリードしている時、同点の時、負けている時に応じたゲームコントロールの引き出しは増やしたいし、チーム間の共有ももっとクリアにしたい。

 これまでの日本は、相手の勢いに飲まれた時間帯に真っ向勝負を挑んで体力を消耗したり、不必要な形で失点したりする傾向があった。今後は、ピッチ内の選手たちが状況を察知し、あえてパスを回すテンポを極端に落として相手のプレスを無力化する、あるいは全員の共通認識として、ファウルせずに相手の攻撃を遅らせるといった、静と動をコントロールする賢さが必要になる。

 強引なマリーシアではなく、戦術的なインテリジェンスにより、相手の嫌がる時間を演出する能力こそが、日本流のゲーム管理力の正体となるべきだ。
 
 スタイルはそれぞれだが、大会の上位に食い込むような国に共通するのは、戦い方のベースとして、何を継続し、必要に応じてどこを変えるかというビジョンが整理されていることだ。

 それはスペインのルイス・デ・ラ・フエンテ監督のような優れた指揮官の手腕かもしれないし、育成年代から積み上げた選手たちの戦術眼、それに応じたスキルであるかもしれない。日本も戦術的な柔軟性は向上しているが、まだ事前に準備されたプランの枠内に留まることが多く、想定外のスクランブルな局面での解決力には向上の余地がある。

 それを解決するために、たとえばスペインのような完璧なポゼッションを真似しても難しい。ただし、日本には持ち前のアジリティと運動量があり、補完は可能だ。試合の流れの中で、3バックと4バックをシームレスに行き来し、前線の選手が流動的にポジションを入れ替えながら、相手の守備ブロックにズレを生じさせる。ボールを奪われた直後の奪回力は戦術面のブラッシュアップと共に、もっと磨いていく必要がある。

 そうした仕組みのベースアップに加えて、もう1つ大きな課題としてあるのが、決定的な仕事ができるストライカー、局面を打開できるアタッカーの存在だ。

 上田綺世は、後半は押し込まれたブラジル戦のような試合の流れでも、1トップというポジションを任された選手が1つ決めてしまえば、結果が変わり得たことを認めた。

 その上田がオランダリーグで得点王に輝くなど、着実に成果は出ているが、上位進出国よりも不足していたことは否めない。上田は次のサイクルで、そこが着実に引き上がっていく必要性を指摘した。

 それが上田本人なのか、あるいは小川航基や後藤啓介、町野修斗など、今大会を経験した選手なのか。さらに若手の誰かなのか。そこの競争力が上がることは、躍進への条件の1つと言える。
 
 局面を打開するアタッカーに関しては、三笘薫の欠場が響いたことは間違いないが、組織が手詰まりになった瞬間、理不尽に状況をひっくり返せる個の力も、日本に不足しているのは事実だ。

 日本における「個の力」の定義は、アジリティとインテリジェンスが極まった状態を指すべきである。そうした「個の力」を引き上げながら、同時に彼らがそれを発揮しやすい局面を生み出すための戦術的なデザインが求められてくる。

 一方で守側も、1対1で守り切れる時間を増やしていくことで、それだけ前向きな攻撃に繋げやすくなる。ブラジル戦では“ヴィニシウス対策”が勝負のポイントの1つであり、敵将のカルロ・アンチェロッティ監督にはそこを逆手に取られたような形になった。

 ラウンド16でブラジルを破ったノルウェーがそうだったように、外側の守備は1対1でやり切るというプランを取れていたら、また変わっていた可能性がある。しかし、そこも監督の采配だけでなく、選手の個のベースが関わってくるのだ。

 ラウンド32に終わった北中米W杯は、成績だけ見れば停滞の大会と言われても仕方がないかもしれないが、内容面に目を向ければ、個にしても組織にしても、積み上げているものはある。

 しかし、ここから上に伸ばせるか、本当に停滞してしまうのか。ある種の岐路に立っていることも確かであり、単に時間を積み重ねれば先に行けるものではない。

 ここから日常をどう成長に繋げていくのか。それは北中米W杯を経験した選手だけでなく、いまだA代表に招集されていない“予備軍”の選手たちすべてにかかっている。

取材・文●河治良幸

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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