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二大女優の狂演で『隣人たち』が魅せる“静かな恐怖”「物理的に一番近い人が一番怖い…」

二大女優の狂演で『隣人たち』が魅せる“静かな恐怖”「物理的に一番近い人が一番怖い…」

二大アカデミー賞俳優のアン・ハサウェイとジェシカ・チャステインが3度目の共演を果たし、美しくも激しい火花を散らす『隣人たち』(公開中)。ベルギーのアカデミー賞“セザール賞”で史上最多の9部門に輝いた『母親たち』(18)をハリウッド・リメイクした本作は、2人の主婦の関係が、ある悲しい事故をきっかけに大きく狂うさまを冷徹に見つめていく衝撃のサイコ・スリラー。

次々に起こる忌まわしい出来事、散りばめられた罠と謎を解く鍵…アルフレッド・ヒッチコックの映画を彷彿とさせる、研ぎ澄まされた緊張感がハンパない世界観の本作のおもしろさとスリリングな魅力に迫るべく、サスペンスやミステリーが大好きなお笑い芸人のジャガモンド斉藤と、同じくホラーもサスペンスもスリラーも大好物だという声優・俳優の野水伊織、ミステリー研究家の小山正を直撃!愛と情念が渦巻く2人の女性の戦慄バトルの真相や深層を、それぞれの視点でたっぷり語り合ってもらった。

(左から)ジャガモンド斉藤、野水伊織、小山正
(左から)ジャガモンド斉藤、野水伊織、小山正

1960年代アメリカ、大都市郊外の隣同士の家に住む親友の主婦セリーヌ(ハサウェイ)、アリス(チャステイン)。同い年の一人息子を持ち、完璧で幸せな生活を送っていた2人だが、セリーヌの息子・マックスが不幸な事故に遭ったことで関係は一変。喪失感や罪悪感に苦しむなか、互いの行動に疑問を持ち始める…。

※本記事は、後半よりストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「いい意味で裏切りの連続の展開だった」(斉藤)

物語は、アリスが企画したセリーヌの誕生日会から始まる
物語は、アリスが企画したセリーヌの誕生日会から始まる / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――まずは、作品全体の感想をお1人ずつお聞かせください。

野水「W主演のハサウェイさんとチャステインさんのお芝居のバトルがどれぐらいバチバチになるのか楽しみだったんですけど、拝見するとそうではなくて。外観の品性や美しさを保ったまま、視線の動きや繊細なお芝居で不安を掻き立てるような構造になっていたので、どんどん引き込まれていきました。ジャンル的にはサスペンスとかサイコスリラーに分類されるのかもしれないけれど、怖さよりも登場人物に感情移入していくようなのめり込み方をして、すごくおもしろかったですね」

斉藤「僕、子どもが去年産まれたばかりで、小さい甥っ子もいるので、ちょっと他人事ではなかったですね。あの年ごろの男の子は結構謎の行動をして危なっかしいから、マックスがバルコニーの手すりの上に立っちゃうところでは、やっぱりヒヤッとして。子どもを失った家庭がどんどん狂っていく感じも真に迫っていたので、自分のことのように観ることができたし、いい意味で裏切りの連続の展開だったのでかなり楽しめました」

小山「僕も非常におもしろく観ました。サスペンスが実によく効いていたし、野水さんが言われたように、2人の女優の激突がすごく印象的で。お話自体は疑心暗鬼が悲劇を生んだり、思いが募ってカタストロフィーを迎える意外とオーソドックスなものなんだけど、2人の芝居が楽しいから、“あっ、こう来るんだ?”と思ったりしながら堪能しました。それこそ、ハサウェイのこういったスタイルの芝居は初めて観ましたね」

斉藤「確かに、意外と観たことがないかもしれない」

小山「もともと芝居が上手い俳優さんだけど、『インターステラー』の時よりも少し突き抜けた感じがしたんですよ。それから、ヒッチコックの話題に間違いなくなると思うから先に言っておくけれど、ヒッチコック界隈がひとつ新しい段階に来たと思いました。ひと昔前だったら『真似じゃないか!』って言われていたようなことも、ヒッチコックがヴィンテージになってきたから“こういう読み替えができるんだな”という受け入れ方をしてもらえる。そのあたりを、本作の作り手たちは楽しみながら作ったような気がします。とても悲惨な話ではあるんだけど、それを楽しく見せるのがミステリーの醍醐味。それを満喫できました(笑)」

■「オープニングからヒッチコックだらけ!」(小山)

“アボカドグリーン”色のドレスを纏ったアリス
“アボカドグリーン”色のドレスを纏ったアリス / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――小山さんは本作のどのあたりにヒッチコックらしさを感じられました?

小山「オープニングからヒッチコックだらけですよ(笑)!なかでも一番驚いたのが、チャステインの今回の衣装の色。僕はアボカドグリーンって呼んでいるんだけど、あれはヒッチコックの『鳥』で主演のティッピ・へドレンが着ていた服の色と一緒だし、彼女が演じたブロンドの髪のアリスは『めまい』のキム・ノヴァクに象徴されるヒッチコック作品のミューズそのまま」

アルフレッド・ヒッチコック監督『鳥』より
アルフレッド・ヒッチコック監督『鳥』より / [c]Everett Collection/AFLO

小山「それこそ、最初から登場する“覗き”のシチュエーションや、マックスくんがバルコニーから落ちて死んじゃう“高所の恐怖”はヒッチコックの十八番です。挙げたらキリがないんだけど、クライマックスではヒッチコックの“爆弾理論”(観客に強いサスペンスを感じさせるための演出理論)もちゃんと踏襲されていたから驚きました」

野水「私も冒頭からミスリードも含めてヒッチコックの雰囲気をオーソドックスにやっているなと思ったし、階段のシーンでもヒッチコックらしさを感じました」

小山「それはすごく鋭い指摘です。『ヒッチコックと階段』という論文が書けるぐらいヒッチコックの映画には階段がよく出てくるんだけど、今回も階段の撮り方が抜群に上手いから怖かったよね」

――“セリーヌが子どもをもう産めない身体になっている” “アリスが過去の悲しい出来事が原因で極度の不安症である”という裏設定も効いていて、どちらが真の狂気に陥っているのか、最後まで悩ませますね。

小山「2人のキャラクターの違いがそこに出ていて、それが女性同士の生き方のぶつかり合いを描く本作の軸になっている。アリスは新聞記者の仕事に戻りたいのに、無関心な旦那に抑えつけられていて、その鬱憤を息子のテオにぶつけたりしている。それに対して、セリーヌのほうはある意味もっと行動的で。幸せをつかむためにはどうしたらいいか?という内なる心を持っているような気がしました」

野水「確かに!」

小山「その二重三重のぶつかり合いがこの映画の新しさですよ。2人とも狂っていくけれど、狂い方がそれぞれ違うし、お互いに影響し合い、引っ張り合うような関係性になっているところがおもしろかったですね」

斉藤「そうですね。それぞれのトラウマやバックボーンがあるから、狂っちゃうところや心の揺れにも説得力がありました」

■「目の色まで変わっていくハサウェイさんの細やかな芝居がすごく恐ろしくて、重い」(野水)

アリスはセリーヌを疑い始め、現実と妄想の境界線が徐々にわからなくなっていく
アリスはセリーヌを疑い始め、現実と妄想の境界線が徐々にわからなくなっていく / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――アリスを演じたチャステインのお芝居はいかがでした?

斉藤「彼女はわりと強気な役柄を演じることが多いじゃないですか?それに結構猪突猛進型で、今回のアリスもそうですけど、一度信じ込んでしまったら一心不乱に突き進んでいくキャラクターがよく似合う。それこそ関節技に持っていくハサウェイとは違ってガンガン攻め込むからタイプだから、罠にもハマりやすいのかもしれない。でも、冒頭からアリスの視点で展開していくし、テオを失い、夜中に発狂してみんなに押さえつけられているセリーヌもアリスの主観でしか見せないから、観客はどうしても…」

野水「アリスの視点で観ちゃいますよね」

斉藤「それぐらいわかりやすい芝居でしたけど、突然義母が亡くなったあと、旦那を病院の誰もいない廊下に連れて行って『お義母さんは絶対セリーヌに殺されたのよ!』って訴えるシーンでは、その言動があまりにも常軌を逸しているから、アリスの妄想かもしれないと思えてくる」

小山「役名もアリスだから『不思議の国のアリス』じゃないけれど、迷い込んでいるようなニュアンスを感じましたね。翻弄させられているというか」

斉藤「巻き込まれる側ということですね」

最愛の息子・マックスを亡くし、悲しみに暮れるセリーヌ
最愛の息子・マックスを亡くし、悲しみに暮れるセリーヌ / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

野水「アリスが旦那さんから浴びせられる『お前が病院に行ったほうがいい!』という言葉も(子どもを失った直後精神に支障をきたした)セリーヌに向けられそうな気がするんですけど、彼女はフワフワしていてどこか暖簾に腕押し状態で。全力で『信じてよ!』って言い続けるアリスのほうが精神状態を危ぶまれて、どんどん孤立していってしまう。だからアリスを疑ったほうがいいのかな?とも思わせる。それぐらい真っ直ぐなお芝居でした」

――すでに話されているかもしれないですが、みなさんが一番ゾクッとしたり、怖いと思ったシーンはどこですか?

野水「私は2人がタバコを吸いながら話をする夜のシーンです。アリスは両親が死んだ時のトラウマでしばらく子どもを抱けなかったことを告白するわけですけど、それを聞いていたセリーヌの顔色が瞳の強さと共にどんどん変わっていくんですよ。アリスが子どもを失ったセリーヌに対して、『自分にもトラウマがあるけれど、こうやって少しずつ立ち直ってきたから』という慰めのつもりで話したことが、また違うトラウマを生んでしまうあの瞬間はゾクッとしました」

斉藤「あそこ、怖かったですね」

野水「“あんたのはサバイバーズ・ギルト(自分だけ助かってしまった罪悪感)でしょ!私と一緒にすんなよ!”という責めるような顔色にみるみる変わっていったから、寄り添いがマウントにとられてしまう怖さを感じて。喪失と向き合っている人に寄り添うのって本当に難しいなと思いましたし、目の色まで変わっていくハサウェイさんの細やかな芝居がすごく恐ろしくて、重い!って思いながら観ていました」

【写真を見る】舞台は1960年代、アン・ハサウェイ&ジェシカ・チャステインがレトロワンピースに身を包む
【写真を見る】舞台は1960年代、アン・ハサウェイ&ジェシカ・チャステインがレトロワンピースに身を包む / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

斉藤「しかもあそこ、アリスは『あなたの気持ちは完全にはわからないけれど』って一応前置きをしてから話しているんですよね」

野水「そうなんですよ!彼女の優しさだったのに、それが棘みたいになって…」

斉藤「違う地雷を踏んじゃうんですよね」

――そんな斉藤さんがゾクゾクしたのは?

斉藤「僕は、アリスの息子のテオが、生垣をはさんで隣合うセリーヌの家のバルコニーで、シャボン玉を飛ばしているところ。あそこは結構決定的なシーンで、自分の家にいたアリスは、子どもがやっと通れるようなサイズの生垣のトンネルをくぐり抜けてテオの元に向かいますよね。そんなアリスをセリーヌが“え?”っていう顔でバルコニーから見ていたりして、いろいろな情報が重なりまくっている」

――セリーヌの息子のマックスがバルコニーに立っているのを見つけた時、アリスはそのトンネルをくぐって助けには行かなかったわけですからね。そうしていたら、落ちる前に間に合って、助けられたかもしれないのに。

斉藤「それでますますわからなくなって。“あっ、セリーヌがアリスを試すためにハメたな”という気持ちに一瞬なるけれど、でも、シャボン玉を飛ばしていただけだしなと思ったり…」

野水「バルコニーに出ていただけだし(笑)」

斉藤「そこまではわりとフラットに観ていたんですけど、あそこで結構自分の予想がグチャっとなったというか、この映画が読めなくなりました。アリスは旦那に『あれは(テオをバルコニーに立たせたのは)わざとだから』って言っているし、“セリーヌは私がマックスを救えたのに救わなかったと思っている”という彼女の疑心暗鬼があそこでスタートした感じになりましたからね。試合開始のゴングが鳴った気がしたから、これはキツいぞって思いました(笑)」

小山「『子どもを失った親の悲しみ』というのを言葉にするのは簡単だけど、それを演技で表現するのはすごく大変なことだと思うんですよ。それだけに、今回のハサウェイの顔のお芝居が衝撃的で。“切羽詰まった状態で悲しみを湛えるとこうなるんだ!”という演技をしていて、チャステインのお芝居とはまた違う。先ほど話に出た夜の会話シーンではその違いが如実に出ていたので、あのシーンはすごいと思いました」

――斉藤さんは先ほど「いい意味で裏切りの連続だった」とおっしゃいましたが、ラストで待つ衝撃の結末を予測できましたか?

斉藤「『ヒッチコック作品を彷彿とさせる』って事前に聞いていたし、ヒッチコックの映画は傷ついた主人公が疑心暗鬼にかかるものが多いから、観る前は息子を失ったセリーヌが悪夢に巻き込まれていくんだろうなという先入観がありました。でも、先に一線を越えたのがアリスのほうだったので、そこから先が読めなくなって。しかも、ハサウェイの演技が上手すぎるから、それが悲しみで本当に発狂しているものなのか、アリスを騙すための芝居なのか、どんどんわからなくなっていったんです」

■「やっぱり、物理的に一番近い人が一番怖いですよね」(野水)

悲しみに包まれるマックスの葬式
悲しみに包まれるマックスの葬式 / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――ちなみに、ミステリーやスリラー、ホラーが大好きなみなさんは、本作のような身近な恐怖を描いた作品と怪物や凶悪犯が襲ってくる作品のどちらが怖いですか?

小山「全部怖いです!」

斉藤「そりゃ、全部怖いですよね(笑)。でも、僕はモンスターも幽霊も悪魔も『リング』の貞子も『呪怨』の伽椰子も怖いですけど、今回のような作品を観ると“幽霊的な怖さ” のほうがまだいいってめっちゃ思います。やっぱり、人間のほうが怖いですから」

――いわゆる“ヒトコワ系”ですね。

斉藤「そう、“ヒトコワ系”。しかも、隣の家の人となにかが起きちゃうみたいなことになるとリアリティがガッと上がって、めっちゃ怖い。貞子だったら『こんなのいないよ!』って言い切れちゃうけれど、黒沢清監督の『CURE』にしても、ヒッチコックの『裏窓』にしても、社交性もある見た目は普通の人が実はそうじゃなかった!みたいな、ある意味恐怖の真髄をやっているから逃れられない。それに実際に起きた事件を見ても、犯罪者は思い立つのではなく、普通に生きている流れのなかで人を殺しちゃうんだろうなとも思ったりしていて。自分もちょっとしたボタンのかけ違いで親友を疑っちゃったり、なにかの弾みで一線を越えちゃうんじゃないか?みたいなことを想像させる作品はやっぱり怖いです」

野水「私は殺人鬼も心霊モノも大好きで。オカルト現象も日常的に起きてほしいと思うし、スラッシャーも好きだから、ホームセンターでゾンビが襲ってきたらなにを使って戦おうって常に考えているんですよ(笑)。でも、斉藤さんがいま言われたように、“隣人”は怖い。特に現代はマンションの隣の部屋の人なんて引っ越しの時に挨拶するぐらいで、いつの間にか変わっていたりする。ピンポ~ンって鳴って『隣の◯◯です』って言われたらドアを開けざるを得ないし、そこでナイフを持っていたらもう防ぎようがない。だからやっぱり、普段交流のない、物理的に一番近い人が一番怖いですよね」

マックスの死をきっかけに、アリスの息子・テオとセリーヌの距離が近づいていく
マックスの死をきっかけに、アリスの息子・テオとセリーヌの距離が近づいていく / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

斉藤「野水さんのいまの話を聞いていて思いましたけど、『隣人たち』のベースにある、お互い母親で一方はもう子どもが産めなくなっているという設定は、いまの時代のほうがセンシティブな問題として受け取られるかもしれませんね。高齢出産も増えていて、不妊治療をしたり、子どもを産まない選択をしている人もいる。いろいろなレイヤーがある現代のほうが多方面から考えさせられると思うし、気まずさをリアルに感じるような気がします」

小山「“怖さ”のタイプはいっぱいあると思うんですよ。例えば怪物や怪獣、妖怪などが襲ってくる外から来る恐怖。それとはまた別の、通り魔のような匿名性のなにかに襲われる外から来る恐怖もあると思うんですけど、『隣人たち』が描く恐怖はそれらとは質が違う。隣りに住んでいて、名前も私生活も知っているし、ご飯を一緒に食べることもある人が“実は恐ろしい人物でした!”ってわかった瞬間、違う恐怖になると思うんです」

斉藤「内から沸き上がる恐怖ですね」

小山「そう。斉藤さんがさっき仰っていたように、その内なる恐怖が自分に跳ね返ってくることもあるし、シャワーを浴びてもそれは消えない。どれが一番怖いのかは好みの問題になってくるとは思うけれど、僕が一番怖いのはやっぱり内なる恐怖。だって、どうしようもないんだもの。心のなかに勝手に沸き上がる負の感情は、自分を変えない限りなくなりませんからね」

※ここから先は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

■「あんな勝ち方をしたからゾッとした」(斉藤)

――そんなみなさんに最後の質問です。本作のオチをどう思いました?

チャステインとハサウェイの豪華な演技合戦は必見
チャステインとハサウェイの豪華な演技合戦は必見 / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

斉藤「僕はもう少し大人しく終わると思っていたので、あのゾッとする終わり方を観て、“こういうハッピーエンドか!”って思いました」

――ラストシーンのアン・ハサウェイの顔も怖かったですものね。

野水「怖かったですね」

斉藤「あんな勝ち方をしたからゾッとしました。でも、一応、勝者ですものね」

小山「この映画がいいのは余計なことを言わないところだけど、私がそれで邪推したのは…いや、一番想像力を掻き立てられたのはあのラストシーンなんです。みなさんはどう思うかわかりませんが、私はセリーヌとテオは組んでいたと考えているんです」

野水「あ~!」

斉藤「共犯関係ということですか?」

同い年の息子を持つ親友同士であるセリーヌとアリスは、家族ぐるみで親密な関係を築いていたが…
同い年の息子を持つ親友同士であるセリーヌとアリスは、家族ぐるみで親密な関係を築いていたが… / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

小山「セリーヌとテオは実の親子ではないけれど、擬似親子として手を結んだのではないか?映画では描かれていないから、これは私の勝手な解釈ですけどね」

斉藤「なるほどな~。テオがバルコニーに立っていたのもワザとで、あれも2人の作戦のうちというわけですね。めちゃくちゃおもしろい。そう考えると、アリスが旦那に訴えていた『あれはワザとだから!』という言葉が妙に真実味を帯びてくるし、飛び降りようとしていたテオの動きがちょっと不自然だったような気もする」

小山「テオはたぶんすべて理解しているんですよ」

野水「そうかもしれない」

小山「エンディングの彼もすごく落ち着いてますからね」

斉藤「やけに落ち着いた子でした」

野水「お母さんが亡くなったのに、『ウワ~』って泣き叫ぶシーンもなかったですものね」

――小山さんのおっしゃる通りだとしたら、テオはなぜセリーヌと組んだのでしょう?

小山「テオは年齢的にはまだ子どもだけど、精神的には結構な大人だと思うんですよね。これは母親論になりますが、母性といっても一括りにはできないし、毒の母性だってある。テオにとって、母親のアリスは実はものすごく性に合わない存在だったという可能性も否定できないと思います」

斉藤「毒親ってことですね」

小山「そう。で、隣の家には理想の母親がいるんですよ。でも、自ら手を下すことはできないから、アリスが死に向かう流れに持っていったような気がしていて。テオを無邪気で可愛い子どもとして捉えるとそんな発想にはならないんだけど、いや、子どもって怖いんですよ!」

斉藤「残酷になれますからね、子どもは!」

小山「そういう映画もたくさん観てきたけれど、テオがそういう行動に出てもおかしくはない!」

野水「セリーヌのほうが優しいし、みたいな感じもありますもんね(笑)」

斉藤「あっちのママのほうがいいな、みたいなね」

野水「そんな単純な思いだけで行動に出る場合ももしかしたらあるかもしれない」

小山「そこはすごくシンプルだと思います」

――そう考えると、ここでもアン・ハサウェイのビジュアルの印象が効いていますね。

野水「美人だし、優しそうな女性に見えますものね」

――対するチャステインはちょっとキツい感じがするし。

野水「怒られてるシーンもいっぱいありました」

家庭に無関心なアリスの夫
家庭に無関心なアリスの夫 / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

斉藤「テオのお父さんも怖かったですよ」

小山「そうですね」

斉藤「マックスの葬式の時も、テオに向かって『親友の葬式だぞ!』って結構強いキレ方をしていましたからね。テオが両親に対して悪意を持っていたとしてもおかしくないし、そう考えるとちょっと怖いです」

小山「いやいや、これはあくまでも僕の見方にすぎないですから(笑)」

野水「その視点がおもしろかったです」

アルフレッド・ヒッチコック監督『疑惑の影』より
アルフレッド・ヒッチコック監督『疑惑の影』より / [c]Everett Collection/AFLO

小山「では、最後にもうひとつ言っておこうかな。『隣人たち』を観た方々には、ヒッチコックの『疑惑の影』(42)をぜひ観てもらいたい。アメリカの田舎町で暮らすニュートン一家のもとにある日突然チャーリー叔父さん(ジョセフ・コットン)がやってくるんだけど、長女のチャーリー(テレサ・ライト)は自分と同じ名前の一見普通の叔父さんに不信感を募らせていくんです」

――「身近な人が怪しい」という、『隣人たち』とも重なる構造ですね。

小山「郊外型の殺人犯を描いたミステリーがそれまで映画ではなかったからヒッチコックはそこに目をつけたんだけど、今回の映画の原型はこの作品だと思うし、逆の言い方をするなら『疑惑の影』を新しい視点で作り直したような感じもしていて。一緒に観ると、『隣人たち』のおもしろさがたぶん増幅されると思います」
映画『隣人たち』は公開中
映画『隣人たち』は公開中 / [c]2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.


取材/文 イソガイマサト
配信元: MOVIE WALKER PRESS

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