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「世代論」で読むプロ野球〈ハンカチ世代・続〉(1)世代の代名詞になった少年

「世代論」で読むプロ野球〈ハンカチ世代・続〉(1)世代の代名詞になった少年

 マウンド上で青いハンカチで汗を拭く。高校球児の泥臭いイメージを払拭した涼やかな少年は、「ハンカチ王子」の異名で同世代を代表するプロ選手となった。だが、高校時代のできすぎた活躍はプロ入り後、鳴りを潜める。過剰な期待という十字架を背負わされた男の幕切れを振り返る。

「ハンカチ世代」という呼び名には、どこか不思議な響きがある。田中将大、前田健太、坂本勇人、柳田悠岐、秋山翔吾、大野雄大‥‥のちに球界の中心へ駆け上がっていく1988年度生まれの選手たちを束ねる言葉が、豪速球でも、ホームランでも、怪物でもなく、「ハンカチ」だったのだから。

 だが、あの2006年夏を知る者なら、その理由を説明されるまでもない。早稲田実業の斎藤佑樹は、甲子園のマウンド上で青いハンカチを使って汗を拭った。その仕草は、涼しげで、上品で、どこか物語めいていた。高校野球の熱気と泥臭さの中に、突然、違う種類のスターが現れたように見えたのである。

 決定的だったのは、駒大苫小牧との決勝だった。斎藤と田中。延長15回引き分け、翌日の再試合。そして再試合の9回2死、早実が4対3とリードする場面で、マウンドに斎藤、打席に田中という、野球の神様が少し悪ノリしたような構図まで用意された。斎藤自身も後年、その場面が「できすぎた幕切れ」(ウェブスポルティーバ・22年11月18日)と語られる意味はわかっていたと振り返っている。

 ただ、その瞬間から斎藤は、ひとりの高校生投手ではいられなくなった。彼は「早実のエース」であると同時に、「ハンカチ王子」になった。さらに厄介なことに、彼の名前はひとつの世代の看板にもなった。普通なら高校野球の優勝投手という栄光で十分すぎる。

 ところが斎藤の場合、その栄光がそのまま人生の比較基準になってしまった。あの夏の斎藤より輝けるのか。田中に勝った投手として、プロでも勝てるのか。世間は勝手に物差しを作り、彼をその上に置いた。

 ここに、斎藤が背負った十字架がある。それは「甲子園で勝ったこと」そのものではない。勝ち方が美しすぎたことだ。ライバルが田中だったことだ。名前が時代の記号になってしまったことだ。多くのスターは、成長しながら注目を集める。だが斎藤は、完成された神話として世間に認められた。18歳の青年にとって、それは祝福であり、同時に逃げ場のない重荷でもあった。

ゴジキ:野球評論家・著作家。著書に「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)と「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)ほか。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo!ニュースエキスパート。

配信元: アサ芸プラス

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