一時期の不調を経て、再び一軍のマウンドへと帰ってきた伊勢大夢。かつての自分を追い求めるのではなく、未来の自分を創造するため己を見つめ直し、ブルペンを支えるリーダーとしてさらなる進化を遂げたタフネス右腕の矜持を追う。
☆「過去に戻る」のではなく「先へ進む」意識
シーズン中盤、不振からファーム再調整を命じられた伊勢大夢。「途中で修正できると思って我慢してくれた監督・コーチ陣に対して、本当に申し訳なかった」と、本人はその悔しさを包み隠さず口にする。前年は一度も登録抹消されることなくブルペンを支え続けただけに、離脱は痛恨だった。
しかし切り替えは早かった。「自分のために使える時間をもらえたと捉えました。勝手に自分のために迷える。一軍にいると毎日試合があるのでどうしても視野が狭くなるので」。
現状の自分だけにフォーカスし、ひねりを加えるフォームの改良などに取り組んだ。
「過去の良かった状態に戻ろうという感覚は全くない。周りの打者も絶えず成長している中で、昔の自分に戻ったところで通用する世界ではない」。リフレッシュとともに進化を求め、ファームでの時間を有効に過ごした。
そこから導き出した答えのひとつは「打者から見たボールの強さ・見え方」の再構築だった。
「スピードだけにフォーカスするならそんなに難しくはないんです。そこにキレや強さを付けていくことはすごく難しい。数字をみても自分の感覚でも、150キロ弱くらいのほうが強さはあるんです。2年目に155キロくらい出ていたんですけど、今のほうがボールが強い自信はあります」
すべては打者との勝負に勝つため。「勢いで抑えていたあの頃より、コントロールを付けたり、勝ちパターンで投げるためにはいろいろ身に着けなくてはいけないんです。リリーフって本当に難しいです」。プロの世界で揉まれた経験をもとに、自力で思考を重ねて導き出したアプローチ。そこにはリリーバーとしてのプライドがある。
☆コーチが太鼓判を押すフォーシームのキレ
帰ってきた頼れる右腕に、小杉陽太投手コーチもホッとした表情を見せる。「やっぱり彼の第一の武器はフォーシームだと思うんです。フォーシームが良くない時、逆にフォークの精度を追い求めていかないと投球としては苦しくなってくる」
コーチが「40・40(フォーティー・フォーティー=縦横ともに40cmクラスの変化・伸び幅)」と評する、伊勢独特のリリースポイントから投じられる力強いライズ系のストレート。これこそが彼のバロメーターであり、すべての球種の軸となると説く。
「今はフォーシームがかなり良い質のボールとして投げられている。だからこそ、フォークもスライダーも他の球種もバッターが意識しなきゃいけなくなってくる」
ボールの見え方やフォームを徹底的に見つめ直した結果、最大の強みであるストレートの球威と質が戻った。直球で押し切れるからこそ変化球が活き、変化球を意識させることで直球がさらに際立つ。この相乗効果がある限り、大事なところを任せられると頷いた。
☆長期的視点と身体への向き合い方
プロ通算300試合登板を超え、セ・リーグの熾烈な戦いを続けて7年目。伊勢の野球観は現実的で戦略的なものとなった。「2年目に怪我をしかけてしまって、手術寸前のレベルまでいったことがありました」。その苦い経験が、投手としての価値観を変えた。
「僕らは10年、それ以上と、この世界で生き残っていかなければならないんです。同時にシーズン最後、9月やポストシーズンの勝負所で100のパフォーマンスを出すために投げ続けなくてはいけないですから」
日常からいかに身体を管理し、無駄のない強さを発揮する。そのために普段からトレーニングやメンテナンスにも力を入れる。そこには自身を客観視しているからこその思考がある。
「周りの選手と違って元々のパフォーマンス能力はそんなに高くない。それは入ってきたときからネガティブな要素としてわかっていることなんです。でもその見栄えのいい選手に勝っていかなくてはいけないんで」
チームの重要なピースとなるため。謙虚さと視野の広さを両立させ、最善の策を常に追い求める姿がある。
☆「0で帰ってくる」矜持と若手へのアドバイス
伊勢の投球で特に印象的なのが、大崩れしない粘り強さ。四球を出して満塁にしても、冷静さは失わない強さがある。「ここは歩かせてもいい場面とか、後悔のない選択をするだけ。ゲームは生き物ですから、状況によって評価される抑え方は変わる」。
ゲーム展開を正確に読み取り、「1人も出さない方がいい場面」と「打撃の流れを切るためにリスクを冒す場面」を瞬時に判断する。
それはブルペンのリーダー格である山﨑康晃が不在のなか、ブルペン最年長として伝えていく役目も担う。宮城滝太は「モニターを見ながら、ここは勝負を急がないほうがいい、この状況は勝負球から行ったほうがいいとかを教えてくれます。言葉に説得力があるし、勉強させてもらってます」と感謝する。
「僕も三嶋(一輝)さんとかにやってもらっていましたからね」とベイスターズ伝統の強みでもあるブルペン陣をまとめ、互いを最大限に尊重し合う雰囲気を作ることにも一役買っている。「投げているヤツが一番えらい。各自が最もパフォーマンスを出せる環境を作るのが自分たちの仕事」と語るように、登板前の若い投手への声掛けや距離感まで配慮を欠かない。
「優勝するチームは勝ちパターンの3枚だけってことはないんです」
リリーフ陣全体の底上げがチームの勝ち星に直結する。だからこそ、伊勢は見えない部分でも力を費やす。
マウンドで見せる凄みと、ブルペンで見せる温かなリーダーシップ。背番号13はいかなる時も一歩前へと、歩みを止めない。
取材・文●萩原孝弘
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