速さが売りのチームで強さを売りにする。ラグビー日本代表のベン・ガンターは、身長195センチ・体重120キロの28歳。衝突の多いフランカーの位置を主戦場とし、列強国の大男を次々となぎ倒す。
所属する埼玉パナソニックワイルドナイツ(当時はパナソニックワイルドナイツ)のテスト生となったのが2016年。出身国のオーストラリアでプロ選手になれず、軍隊入りも検討したなかでのチャレンジだった。
当初は群馬にあった練習場へ通いながら、コンビニに立ち寄ってはおにぎりをほおばる日々。ハングリーだった黎明期に自慢のパワーを磨き、来日10年目のいまは『超速ラグビー』を唱えて3シーズン目のジャパンで主軸を張る。
芝の外では若手をコーヒーに誘ったり、シニカルな顔つきで取材に応じるチームメイトに朗らかな合いの手を入れたりする。無骨な外見とお茶目な振る舞いとのギャップは、本人の意識するところでもある。仲間にもファンにも楽しんでほしい。
激しい定位置争いも受け入れ、いまの立場を掴む。冗談交じりに言う。
「誰かが怪我をしても次々いい選手が続いてくる。様々な経験豊富な選手が代表に集まり、いい競争をしている。何よりいいのが、誰もが自己犠牲を厭わないことです。選ばれた選手が、国のために身体を張る。それを周りの皆が支えるということを、私たちのグループはできています。…このままでは層が厚すぎるので、私はプロップ(スクラム最前列)に回る必要がありそうです!」
7月は新設ネーションズチャンピオンシップに挑んだ。欧州の上位国との連戦である。
戦前世界ランク12位の日本代表にとっては、スタイルが異なり質の高いライバルとゲームができてありがたい。ガンターはそう述べる。
「日本代表は本当に速くてエキサイティングなラグビーを展開しています。一方でヨーロッパのチームはセットピースにかなり重きを置いていて、本当に小さな綻びを逃さず、そこを突いてくる。そこに、学びがある」
結果は1勝2敗に終わった。特に18日は、東京・国立競技場でフランス代表に15―42で屈した。
世界ランクで7つ上回る4位で、来年のワールドカップオーストラリア大会では予選同組の強国は、フォワードが固まって押すモールにこだわってきた。6トライ中5本がその形から生まれた。
敗れたワーナー・ディアンズ主将は「最初のパンチを修正しなければ」。向こうが塊を作る前に、人と人との間に激しく頭を突き刺す「パンチ」の鋭さがより必要だと感じた。
そのディアンズと親交が深いガンターも、「まず、セットピースのエリアでかなり押し込まれた。改善が必要です」と頷く。
「フランス代表がモールで来るのはわかったうえで、しっかり準備もしたのですが、それを試合の中で遂行できなかった。どれだけ準備をしても実行できないと、トップチームには対抗できません。フランス代表が、称賛に値します。いま、北半球の中でもベストなチームです。とにかくここからマインドセットを変えて、切り替えていかないと」
個人的には出色の働きぶりだった。
4日の東京・秩父宮ラグビー場でのイタリア代表戦では、後半25分に途中交代もタックル成功数を両軍最多の19にした。一撃ずつのインパクトも圧巻。貴重なトライを奪ったのもあり、27―10で勝つとプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。
件のフランス代表戦でも、迫る走者を掴んでタッチラインの外へ押し出すなど持ち味を発揮。タックル成功数は、またも全選手で最も多い19を記録した。
スタンド下のミックスゾーン。チームのオフィシャルスポンサーを務める企業の『アサヒスーパードライ 350ml』を片手に明るい未来を語る。
「(ネーションズチャンピオンシップは)ずっと続いて欲しいと思えるいい大会です。日本代表が強くなる上で、ソフトなチームとやっていても成長には繋がらない。格上の相手と戦える機会こそ、価値のあるものです」
2019年のワールドカップ日本大会で8強入りする前も、国際リーグのスーパーラグビーへの日本チーム派遣、ニュージーランド代表をはじめとしたさまざまな上位国との実戦経験で彼我の差を体感してこられた。当時は代表資格を得られずプレーできなかったガンターだが、本物に触れることで初めて、本物を倒しうる事実を知る。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
【動画】第3戦・フランス戦ハイライト
【動画】日本代表vsイタリア代表戦ハイライト
【動画】第2戦アイルランド戦ハイライト

