
60周年を迎えた『ウルトラマン』キービジュアル (C)円谷プロ
【画像】「えっ」「分かりやすい(笑)」 一方これが、演者2人が「前後」で組み合ったウルトラ怪獣です(3枚)
革命的な「二人羽織」怪獣だったのに…?
特撮ドラマ『ウルトラマン』が、1966年7月の放送開始から60周年を迎えました。作品には個性豊かな怪獣がたくさん登場しましたが、造形面で最も大胆な挑戦のひとつが、第12話の「ドドンゴ」と、第13話の「ペスター」です。どちらも着ぐるみにアクターがふたり入るという、前代未聞の怪獣でした。
これは、放送時がTV番組の改編期だったため、円谷一監督が番組のすごさを見せるために、今までにない怪獣を創ろうと試行錯誤して生まれたものだとされています。
とはいえ、両者の構造は大きく異なりました。ドドンゴは、前方のアクターが頭部と前脚、後方のアクターは前方アクターの腰を支えて前かがみになります。本編では、ウルトラマンは馬乗りになるなど、重量感のある格闘シーンが見応え抜群でした。
一方のペスターは、ふたりのアクターが左右に並んで立ち、中央の顔を手で操るという、さらに斬新な構造でした。ヘンテコなペスターとウルトラマンがどんな格闘を展開するのかと期待した視聴者も多かったでしょう。ところが、その期待は意外な形で裏切られます。
ペスターは東京湾の石油コンビナートを襲撃し、一帯を火の海に変えます。終盤、ビートル号のミサイルで弱ったところへウルトラマンが登場。ペスターは火炎を吐いて応戦しますが、ウルトラマンはそのままスペシウム光線を放ち、あっという間に勝負がついてしまいます。
ペスターとウルトラマンが組み合う格闘シーンは一度もなく、ウルトラマン登場から決着までは約27秒。その後ウルトラマンは1分以上にわたって「ウルトラ水流」で消火活動を行い、満足げに空へ飛び去りました。
なぜ、組み合って戦わなかったのでしょうか。ひとつには、ペスターがふたりで演じる特殊な着ぐるみだったため、激しい格闘には向いていなかったことが考えられます。しかし、それ以上に大きかったのは、最大の敵が「火」だったことではないでしょうか。

ペスターは、ふたりの演者が左右に組み合って演じた。画像はペスターをソフビ化した「ウルトラ怪獣シリーズ 294 ペスター」(バンダイ)
円谷特撮の真骨頂? 火薬とガソリンを使った過酷な撮影
映像でも分かるように、コンビナートでは何度も爆発が起こりました。巨大な火柱が立ち上り、炎は最後まで燃え続けています。
実際、この回の撮影はシリーズ屈指の危険な現場でした。火薬とガソリンを大量に使用するため、撮影前には関係者全員に安全面の注意が徹底されていました。
ウルトラマンを演じるアクターの古谷敏さんは、もしステージが火事になった場合に備えて避難経路を確認していました。また、炎のなかを動くペスターに異変を感じたらアクターを救助してほしいとスタッフから頼まれていました。
撮影が進み、ウルトラマンは身長ほどもある火柱のなかへ飛び込みます。炎の熱さはすさまじく、マスクの目の隙間から熱風が入り込むほどの過酷な状況で演技を続けました。
一方、ペスターを演じた荒川輝雄さんと清野幸弘さんも、海から上陸して炎のなかを進むシーンについて、「火と水が同時に襲いかかってきた。本当に怖かった」と振り返っています。古谷さんによれば、スーツアクターにとって最も恐ろしいのは「火」と「水」なのだそうです。
さらに、カメラマンの髪の毛や、照明スタッフのシャツが焦げたり、爆発で飛び散った破片でやけどを負うスタッフまで出たりするなど、撮影現場は壮絶を極めました。ただ、爆発シーンの火の回り方やタイミングなどは全て計算し尽くされたもので、業界では、「円谷特撮だからこそ成し得た撮影」だと言われているそうです。
こうした状況を考えると、ペスターとウルトラマンが炎のステージで長時間、投げ飛ばし合うような格闘戦を行うのは、現実的には極めて難しかったのでしょう。だからこそ、ペスターを早く倒し、その代わりに、炎を鎮火させる「ウルトラ水流」のシーンをクライマックスに据えたのではないでしょうか。
第13話「オイルSOS」は、ペスターを倒すこと以上に、巨大な石油火災という災害から人びとを救う物語でした。派手な格闘戦はありませんでしたが、その分、危険と隣り合わせの現場で撮影された炎の迫力と、ヒーローが災害に立ち向かう姿は、60年を経た今でも色あせない見どころとなっています。
※参考資料
『ウルトラマンになった男』(小学館)
『ウルトラマン研究読本』(洋泉社)
