【スージー鈴木の週刊歌謡実話第41回】
伊藤咲子『きみ可愛いね』
作詞:阿久悠
作曲:三木たかし
編曲:三木たかし
1976年3月5日発売
「熱唱」から「チャーミング」への舵切り
先週の石坂智子『ありがとう』(1980年)に続いて「東芝EMIのアイドル=EMアイドル」モノをもう一発。地味だけれど、不思議な魅力を持つその世界をまたまたご紹介します。それにしてもEMアイドル、一冊本が書けるかもな。
伊藤咲子といえば、まずはデビュー曲の『ひまわり娘』(’74年)、続いて熱唱系の『木枯しの二人』(同)、そして、めちゃくちゃにスケールの大きな『乙女のワルツ』(’75年)となります。
でも、ちょっとやり過ぎたかなと、スタッフも考えたのでしょう。「さすがにまだ10代のアイドルなので、もうちょっと可愛い曲のほうがいいじゃないか」と。
この憶測が合っているかどうかは分かりませんが、阿久悠によるタイトル『きみ可愛いね』には、熱唱やスケール感もいいけど、まずはチャーミングに可愛く可愛く……という意図が込められている気がします。
ジャケットは、青バックにニコッと笑うサッコ(伊藤咲子)のアップ。「きみ可愛いね」の字体も「可愛く可愛く……」という阿久悠の狙い、いや呪いがかかっている感じ。
と、こんな風に書くと、どこか無理をしたチグハグな作品と思われるかもしれませんが、実はこれが名曲でして。というのは、この時期、ゾーンに入っていた三木たかし作曲なのですよ。
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三木たかし絶頂期が生んだ快作
’76年は、この曲に加えて西城秀樹『ラストシーン』。そして翌’77年には、何といっても石川さゆり『津軽海峡・冬景色』に加えて、本連載でも紹介した岩崎宏美『思秋期』ですから、メロディメーカーとしての才能が存分に開花していた時期と言っていいでしょう。
メロディの発想の基は、おそらくフランス人シンガー、マージョリー・ノエルのヒット曲『そよ風にのって』(’65年)。ですが三木たかしは、もう少しロック風味を充填して、’76年という時代に合う、実に快調なサウンドに仕上げています。
歌に入る前、イントロからもう絶好調、いや絶快調。
♪ドドドド……というベースから「♪シャラララ……」という女性コーラス。そして『そよ風にのって』風のコーラス「♪フゥッフゥッ」。もうこの瞬間から「この曲、可愛いね」。
あ、そういえばZIGGY『GLORIA』(’88年)の歌い出しをジュディ・オング『魅せられて』(’79年)の歌い出しの歌詞に替え歌するというネタが(私の周囲で)ありましたが(つまりメロディが似ている)、アレ系の源流は、この曲の歌い出し「♪あなたの指が 肩にふれたら」なのですよ。
そして決めフレーズ「♪きみ可愛いね!」の歌い方が、実に可愛い!
などなど「可愛い」推しに美メロ、快調なサウンドも効いた結果、『木枯しの二人』以来のベストテン入り、21万枚のスマッシュヒットとなるのですが。
でも今となっては、ラジオでもかからない、カラオケで聴くことも少ない。いい曲なのにな……でも、このあたりがまたEMアイドルの「可愛げ」なんだよな。
「週刊実話」7月30日・8月6日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
