
オーストラリアで、パイプカットを受ける男性が急増しています。
18~44歳の年間施術件数は、2016年の1万8544件から2024年には2万9848件となり、8年間で60%以上増加しました。
同じ時期、同国の出生率は過去最低水準まで低下しています。
アデレード大学(Adelaide University)の研究チームは、住宅費や子育て費用の上昇などが、家族計画に影響している可能性に注目しています。
ただし、今回の研究は生活費とパイプカットの因果関係を直接調べたものではありません。
研究成果は2026年6月6日付で、査読前論文を公開するプレプリントサーバー『medRxiv』に掲載されました。
目次
- パイプカットと出生率を全国規模で比較
- 若い男性でも増加、ただし理由はまだ分からない
パイプカットと出生率を全国規模で比較
パイプカットとは、精子を運ぶ精管を切断またはふさぐ、男性向けの永久的な避妊法です。
再建手術は簡単ではなく、成功率も100%ではないため、将来子どもを望む可能性も含めて慎重な判断が必要です。
オーストラリアでは出生率の低下が長く議論されてきました。
しかし、男性の永久避妊が近年どのように変化したのかを、出生率と並べて調べた全国規模の研究はありませんでした。
そこで研究チームは、2015年7月から2024年12月までの精管切除と出生の推移を、州・準州と年齢層ごとに比較しました。
精管切除の件数には、オーストラリアの公的医療制度であるMedicare Benefits Scheduleの請求記録を使用しました。
対象は18~24歳、25~34歳、35~44歳の男性です。
さらにオーストラリア統計局の人口データを使い、男性10万人当たりの施術率を算出しました。
出生についても、同じ年齢区分の女性10万人当たりの出生数を求めています。
季節的な変動や一時的な増減をならすため、直近12カ月分を平均する「12カ月移動平均」も用いられました。
その結果、年間施術件数は8年間で60%以上増え、人口当たりの施術率も長期的に上昇していました。
増加はすべての州と準州で確認され、施術率が最も高かったのは35~44歳でした。
一方、同じ期間に出生率は低下していました。
どの年代で変化が目立ったのか、より詳しい結果を次項で見ていきます。
若い男性でも増加、ただし理由はまだ分からない
毎年6月時点の12カ月移動平均を見ると、男性10万人当たりの施術率は2016年の33件から2023年には53件まで上昇し、2024年には50件へわずかに低下しました。
長期的な増加は明らかですが、2024年まで一貫して上がり続けたわけではありません。
最も高かった35~44歳では、10万人当たりの施術率が2016年の71件から2024年には102件へ増加しました。
「希望する人数の子どもを持ち終えた人が増えている可能性」や「将来の家族計画を早い段階で決める傾向が強まっている可能性」が考えられます。
また、18~24歳でも、10万人当たりの施術率は2016年の0.33件から2023年には1.08件へ増え、2024年には0.89件となりました。
地域別ではクイーンズランド州が研究期間を通して高く、当初は低かった南オーストラリア州でも上昇が見られました。
一方、18~44歳女性の出生数を人口10万人当たりで示した12カ月移動平均は、2016年6月の4393件から2024年6月には3436件へ減少しました。
オーストラリア全体の合計特殊出生率も、2024年には女性1人当たり約1.48人となり、過去最低水準に達しています。
研究者は背景の候補として、住宅費や子育て費用、雇用の不安定さを挙げており、こうした経済的要因が「子どもを持つタイミングを早めに決める動き」や「永久避妊の選択を後押ししている」可能性があるとしています。
さらに、パイプカットへの理解や社会的な受容の広がりに加え、「避妊の責任を男性側も積極的に担う」という意識の変化が、選択肢としてのパイプカットを後押ししている可能性もあります。
しかし、今回のデータには、施術を受けた人の所得、住宅事情、家族構成、施術理由は含まれていません。
そのため、生活費の高騰がパイプカットの増加に影響している可能性や、家族計画の変化と出生率低下が同時に進んでいる可能性はあるものの、両者の因果関係はまだ明確ではありません。
今後は、こうした社会的背景と個人の選択の関係をより詳しく検証する研究が求められます。
参考文献
Snip happens: More Aussie men choosing vasectomies as cost-of-living pressures rise
https://adelaide.edu.au/about/news/2026/snip-happens--more-aussie-men-choosing-vasectomies-as-cost-of-li/
元論文
Snip Happens: A Retrospective Study of Vasectomy and Birth rates in Australia
https://doi.org/10.64898/2026.06.03.26354864
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

