
世界最大の魚類、ジンベエザメ。
彼らは、巨大な口を開けながら海面近くを泳ぎ、プランクトンを濾し取る姿で知られています。
しかし、私たちが目にしてきたのは、彼らの生活のほんの一部にすぎません。
ジンベエザメが深く潜ってしまえば、船上やシュノーケリングによる追跡はそこで終わってしまうため、海面下で何をしているのか、ほとんど分からないからです。
そこで豪マードック大学(Murdoch University)らは、ジンベエザメ自身に小型カメラを装着し、人間がついていけない海中世界を記録。
その結果、ジンベエザメが海面から海底まで移動しながら、主に6タイプの摂餌行動を使い分けていることが明らかになりました。
研究の詳細は2026年7月21日付で学術誌『Marine Biology』に掲載されています。
目次
- ジンベエザメ目線の映像を撮影
- 主に「6タイプの採餌方法」を使い分けていた
ジンベエザメ目線の映像を撮影
研究チームが調査を行ったのは、西オーストラリア州のニンガルーリーフです。
2017年と2018年に、研究者はジンベエザメの背びれ前方へ、小型カメラ、深度計、加速度センサーなどを組み合わせたタグを装着しました。
タグは約24~48時間後に自動で外れて海面に浮かぶため、回収後に映像と移動データを詳しく調べられます。
機器の不調などにより、最終的に解析できたのは全長4.5~7メートルの5頭で、映像は合計22時間27分に及びました。
実際の映像がこちら。
このカメラは眼の位置ではなく背びれに取り付けられているため、完全な「ジンベエザメ目線」とはいえません。
それでも、体の前半と進行方向を同時に映せるため、人間が追いかけられない深さでの行動を、ジンベエザメに近い視点から確認できます。
さらにチームは、過去の106本の科学文献と今回の映像を統合し、ジンベエザメの行動目録を作成。
その結果、36種類の行動が整理され、このうち12種類が摂餌に関わる行動と分類されました。
そして12種類のうち6種類は、今回の装着カメラによって新たに記載されたものです。
主に「6タイプの採餌方法」を使い分けていた
新たに記載され6タイプの採餌方法は、以下の通りです。
1:尾びれを動かして深く潜りながら濾過摂食を続ける「潜降摂餌」
2:尾びれをほとんど動かさず、自然に沈み込みながら餌を濾し取る「滑空低速摂餌」
3:深い場所から海面へ浮上する間に口を開いて接触する「上昇低速摂餌」
4:海面でも海底でもない中層をゆっくり泳ぎながら食べる「水柱低速摂餌」
5:海底に沿って水平に泳ぎながら、海底付近の餌を濾し取る「底生低速摂餌」
6:海面付近で体をゆっくり波打たせながら、鰓(えら)を開いて水を通す「表層波動低速摂餌」
ただし、タイプ6の動きについては、餌を食べるためなのか、波の力を移動や呼吸に利用しているのか、まだ正確な機能が確定していません。
記録された行動は水深1メートル付近から最大68.8メートルまで広がっており、ジンベエザメは海面だけでなく、潜水中や浮上中、海底付近でも摂餌していました。
意外だったのは、獲物を激しく追う高コストな行動より、ゆっくり泳ぎながら口へ水を通す低速摂餌の方が多かったことです。
これは、餌の少ない場所では移動のついでに少量ずつ食べ、密度の高い餌の群れに出会ったときだけ活発な摂餌へ切り替える戦略だと考えられます。
いわば、メインディッシュとなる大きな餌場を探しつつ、海中で絶えず「つまみ食い」をしているようなものです。

こうした柔軟さが、餌が少なく偏って分布する熱帯の海で、巨大な体を維持する助けになっている可能性があります。
ただし、映像では獲物そのものを識別できなかったため、研究者は鰓の開閉や粒子を吐き出す行動を摂餌の手がかりとして用いています。
そのため、今回直接示されたのは特定のオキアミを追う姿ではなく、これまで見えなかった海面下の多様な摂餌パターンです。
ジンベエザメは、豊富な餌場だけに頼る採餌者ではありませんでした。
海面から海底までの移動そのものを食事の機会に変え、状況に応じて低速摂餌と活発な摂餌を切り替える、きわめて柔軟な採餌者だったのです。
今後、世界各地の個体へ同様のカメラを装着できれば、世界最大の魚が送る秘密の生活は、さらに鮮明に見えてくるでしょう。
参考文献
We attached cameras to whale sharks and captured krill chases never witnessed before
https://theconversation.com/we-attached-cameras-to-whale-sharks-and-captured-krill-chases-never-witnessed-before-286034
元論文
An ethogram for the whale shark (Rhincodon typus) with insights into foraging plasticity
https://doi.org/10.1007/s00227-026-04900-y
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

