2014年に「友達代行サービス」のことを知り、2018年に日本の友達代行サービスを取材したことが映画化の決め手だったと話すのはオーストリア出身のベルンハルト・ウェンガー監督。ヴェネチア国際映画祭で注目を集めた初の長編映画『PEACOCK/ピーコック』の主人公、マティアス(アルブレヒト・シュッフ)は完璧な息子や教養ある恋人、デート中にヒーローになりたい人のためのチンピラ役と、クライアントの要求に応えて、さまざまな人物になりきる友達代行会社のエース社員だ。しかし、恋人ソフィアに「本当のあなたを感じない」という理由で別れを告げられ、マティアスは徐々に壊れていく。SNSの普及により、異常なまでに高い承認欲求が蔓延る現代社会を皮肉るダークコメディ『PEACOCK/ピーコック』を作った狙いをベルンハルト・ウェンガー監督に訊いた。
©HannahSchwaiger
――2014年に「友達代行サービス」のことを知り、2018年に日本で友達代行サービスの会社に勤めている人に出会ったそうですが、どんなことを感じ、どんな風に映画の構想を膨らませていったのでしょう?
2014年に友達代行サービスのことを知った時は、これまで全く聞いたことがないサービスだったので驚いた記憶があります。当時、ヨーロッパにはそういったサービスは存在しませんでした。近未来的なサービスだと思ったので、詳しく知りたいと思いました。当時の私はウィーン映画アカデミーの学生だったので、具体的に動きだせなかったのと、短編映画ではなく長編映画向けのテーマだと思ったので、準備をしつつ、2018年に日本に訪れました。まず、日本の友達代行サービスの会社でたくさんの人が働いていることに驚きました。どんなお客さんがいるのか、どういった役割を演じるのか、どういった人が働いているのかを取材していきました。オープンにいろいろなことを話してくれる社員の方がいて、誰かの父親や息子を演じる際、家族役のクライアントの方と親密になり過ぎたり、自分の感情が持っていかれないようにすることがとても難しいと話していました。それが原因で、自分の実際の家族と接するプライベートの時間に一度閉ざした心をオープンにしなければいけないと。とても面白いと思いましたし、もっと深く掘り下げて映画にしたいなと思いました。
――本作を観てリューベン・オストルンドやヨルゴス・ランティモスの影響を感じた観客がいますが、何かヒントにした作品はありましたか?
アートハウス系の映画や映画監督の中でも、ユーモアのあるような作風の映画を参考にしました。若い頃はビッグタイトルの映画やブロックバスター系の映画、ドラマを観て、自分もそういった作品を作ることを目指していた時期があったんですが、ある時期からアキ・カウリスマキ作品に惹かれて、カウリスマキのような作風を目指したいと思うようになりました。カウリスマキをはじめ北欧映画やイギリスのブラックコメディを参考にしています。北欧映画やイギリスのブラックコメディにオーストリア映画特有のちょっとした悲劇的な要素を加えたいと思いました。ただ、私の作品は今挙げたような映画の作風と比べて、前向きで楽観的なトーンがあると思います。あまりネガティブになりすぎないよう、登場人物に温かみや共感を覚えられるようにすることを心がけています。
――『PEACOCK/ピーコック』のようなテーマですと、サスペンスやスリラーに振り切ることもできたと思うんですが、ブラックコメディの要素を強くしたのはどうしてだったんでしょう?
先ほど話したように、私はアートハウス系の映画の要素とユーモアのバランスを意識しています。私は人生をそのように見ているんですよね。確かに今作はスリラーの要素がありますが、悲劇と風刺のテイストが感じられる映画を作りたいと思っています。悲劇と風刺は社会的な要素を織り込みやすく、社会を映す鏡のような作品にすることができます。観客が笑いながら考えさせられたりするんですよね。今作を、社会がテクノロジーに依存しているということや誰しもが何かしらの役割を演じているという風刺を感じながら、自分自身に重ねて楽しんでもらいたいと思っています。
――友達代行サービスが求められることと繋がる話だと思いますが、SNSの浸透によって、他人への見られ方を意識したり、承認欲求を求める傾向は強まっているように思います。人の本質が隠されがちな時代をどう捉えていますか?
今作はまさにそのようなSNSの性質のメタファーになっています。どの社会に属していても、人は自分をよく見せようとするものだと思いますが、SNSがその意識を加速させていると思います。本作にも上流階級の人が出てきますが、昔から王族が宝石で自分を着飾ったり、承認欲求の表れですよね。現代はそれが加速していて、人々がありのままでい辛くなっています。私が象徴的だと思うのが、「How are you?」という挨拶に対して、大体が本当の自分の状態を答えるのではなくて、半ば強制的に「I’m fine」と答える。上辺だけの社会の象徴だなと思います。そういったことをSNSは使わずに描きたかったんです。また、友達代行会社をリサーチした時に感じたんですが、最初は内気な人がサービスを使うことによって、話し相手を見つけることができるという良さがあったようなのですが、やがて自己演出や嘘を隠したり人を騙すことに使う人が増えていった。それも人々の承認欲求が加速しているということを表していますよね。
――『PEACOCK/ピーコック』 にはSNSは出てきませんが、「高評価をお願いします」というセリフが何度も出てきます。それも現代の象徴のひとつですよね。
高評価を求めるということもSNSと同じでオンライン上での自己演出の一環だと思います。実際にどうだったかはわからなくとも、良いサービスという風に演出できるものとして登場させました。
――監督自身が時代の流れに巻き込まれないために意識していることはありますか?
人はいつでも同じ人格や性格である必要はないと思っていて、例えば仕事中の自分と家族と一緒にいる時の自分は違います。しかし、属しているコミュニティやグループで、自分をよく見せたいがためだけに違う顔をしてしまうと上辺だけの関係になってしまいます。常に自分の感情に対して正直でいることを心がけています。
――本作を観た観客の反応で意外だったものや驚いたものはありましたか?
まず、どの国でも受け入れてもらえたことがとても嬉しかったです。国によって反応が違ったのがおもしろかったですね。ヨーロッパでは大衆向けの映画で当たり前にヌードが出てきますが、アメリカではヌードのシーンでショックを受けている方がいました。アメリカ映画には暴力シーンは多く出てきますが、ヌードはショックなんだと驚きました。また、スウェーデンのストックホルムでプレミア上映を行った際、観客がずっと静かに映画を観ていて、「映画が気に入らないんだな」と思って悲しくて、雨の中、映画館を早く後にしたいと思ったんですが(笑)、中盤の犬が溺れるシーンで観客が爆笑していました。ブラックコメディ度が高いシーンほど反応が良かったんですよね。他の国では犬のシーンでショックを受けてる方も多かったんですが。あとで配給会社の方に、ストックホルムの観客は映画に入り込むのに時間がかかっていたから前半は静かだったということを聞いて安心しました。
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