「ムチャクチャ自信があります!」
7月20日の記者会見、榊原信行CEOの言葉とともに発表されたのが『超RIZIN.5 浪速の超復活祭り』(9月10日、京セラドーム大阪)の対戦カードだ。最大のサプライズは、ラジャブアリ・シェイドゥラエフvs AJ・マッキー。RIZINとPFLのフェザー級ダブルタイトルマッチとなる。
さらに朝倉未来の試合も発表。相手は青木真也に決まった。以前も噂になったことがあったが、実際に正式決定してみるとインパクトが強い。
昨年大晦日、シェイドゥラエフに敗れてからの再起戦となる未来。青木は2015年大晦日の桜庭和志戦以来、約11年ぶりのRIZIN参戦となる。今回も立場が変わったが“新旧対決”だ。
昨年まではアジア最大級の格闘技イベントONE Championshipに出場していた青木。昨年11月の試合を終え、今年になって契約が完全に終了。そこにオファーしたのがRIZINだった。
青木は43歳。直近10戦は6勝4敗、直近5戦でいえば2勝3敗と負けも目立つ。世界的に評価されてきた寝技師も現役最終盤、幕引きのための意味あるカードが求められていたが、ONEではそれが組まれなかった。
今回、RIZINが青木にオファーしたのは“朝倉未来の相手”としてだけではなかった。榊原信行CEOは言う。
「青木真也の死に場所はRIZINが作るということ。哀愁漂う試合になるのかもしれないし、世代闘争などいろんな意味が集約されたカードです。往年のファンからすると、もう一度RIZINを見る機会になるかもしれない。青木は死ぬに死にきれてないでしょう。ちゃんと(終わりを)描いてあげないと。暗黒時代を支えた選手がいるから今があるので。青木もまだギリギリ、トップコンテンダー。アスリートとして存在している。未来も(勝つのは)簡単じゃないはず。“昔の名前で出ています”じゃないですから」
朝倉未来という現在の日本MMAにおける中心人物を相手に、どデカい花火を打ち上げるのか、あるいは介錯されるのか。青木にとってこれ以上ない相手であり舞台なのは間違いない。
そんな青木に、ONEのチャトリ・シットヨートンCEOはこんなエールを送った。RIZIN会見の4日後、ONEのリモート取材会でのことだ。
「シンヤのことは大好きだし、すごい感謝してる。来年くらいに殿堂入りしてもらいたい。ONEのポリシーでは40歳がリミット。40歳以上の選手は3人しかいない。ベスト・オブ・ベスト同士の対戦で安全、健康を守らないといけないから。でも他の団体行っても応援してる。シンヤがまだやりたい気持ちがあるのは分かってる。大好きだから」
契約期間終了にあたって青木と没交渉だったというONE。ねぎらいの言葉もなかったと青木は振り返る。だが、この言葉で気持ちが収まるところがあったようだ。
ONEからすれば、今年は日本でのシリーズ『ONE SAMURAI』がスタートするとともに青木との契約が終わり、武尊も引退。新たなフェイズに入ることとなる。8月からは毎月、日本で大会を開催。新たなスター候補が出てくるか、どれだけ日本に定着するかという面でも注目されるだろう。
青木はDEEP、修斗からPRIDEでプロ格闘家専業となり、PRIDE買収後にはDREAMで日本の総合格闘技を支えた。だがそれ以降はONEへ。UFCに背を向け、RIZIN参戦も一度だけ。プロレスでも存在感を示している。ONEと契約してからは、あえて“みんな”と同じことをやらないキャリア。天邪鬼であり逆張りでもあるが、それを貫いていたら自分だけの“味”が出た。
そして今、若き日の自分を知るスタッフもいるRIZINへ。その“帰還”の物語だけでもドラマチックだ。青木自身も記者会見で、試合のオファーについて「ありがとう、それだけです」と感謝を述べている。
といって、感傷一色にならないのも青木らしさだ。会見での第一声は「残念だったな、俺だよ」。なぜかプロレスラー、ヨシ・タツの決め台詞を使ってみせた。会場にいたRIZINファンにどれだけ通じたか分からないが、それを気にする青木ではないということだ。
「恥ずかしながら、恥を忍んで帰ってきました」
そんな言葉も発した青木。いかに“終わる”かを見せるための参戦であることもはっきり語っている。
「ちゃんと最後、形にします」
「ONEで終わるつもりが終われずに、43歳でここに至ります。すべて出して、悔いなきようにやりきりたいと思います」
対する未来は「グラップリングでも負ける気がしない」と自信を見せている。「1ラウンドで終わらせます」とも。未来は打撃、青木は寝技と持ち味は正反対だが、昨年クレベル・コイケに競り勝つなど未来の組み技は成長著しい。
未来にとって青木は簡単な相手ではないし、青木にとっても単純に「寝かせれば勝てる」と言える相手ではないだろう。青木は1ラウンドでフィニッシュするか、1ラウンドの攻勢をしのがれて逆転負けという試合が目立つ。ファーストアタックで極めきることができるか、仮にしのがれたとして、そこからどんな粘りを見せるか。青木の闘い方も気になるところだ。
もうひとつ、筆者が気になっているのは青木のマインドだ。プロレスに真摯に取り組むことで、青木はファンを増やしたし、ファイターとして、人間として奥深さを増した。ただプロレスには“勝ち負けを超えた世界”という面もある。
青木が自分の立ち位置、役割をプロレスラーの感覚で客観的に捉えてしまうのではないか。そんな危惧もないわけではない。時代を作ってきたベテランが現代最高の人気選手を相手に美しく散る。それが自分の“仕事”だと考えたら、その分だけ勝負へのこだわりは薄くなる。そうして負けた時に、果たして“いいプロレスだった”と本当に胸を張れるのか。
青木もそれを分かっている。美しく散ることを考えてしまわないよう、自分と闘っている。YouTubeで、今回は「グッドルーザー(よき敗者)的な価値観、敗者の美学」に甘えてはいけないと語っているのだ。
「今回は“勝ち負け”をやったほうがいい。そのことでいい作品、いい物語になる」
作品という言い方を疑問視する者もいるかもしれない。だが青木の言う“作品”とは、綺麗にまとまった作り物という意味ではない。生き方を問う、生き様をさらけ出す。それが青木真也の作品だ。喜怒哀楽、青木の言葉で「思想信念主義主張」、そのすべてをさらけ出し、言いたいことを言って、だからリスペクトされるし嫌われもする。
カッコ悪くても、石に齧りついてでも勝ちにいく。そんな姿もまた作品になりうる。MMAファイターとして最後の大舞台、青木真也は“勝ち負け”で作品を生み出す。
取材・文●橋本宗洋
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