
本作は、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)の中野監督が10年ぶりに完全オリジナル脚本でメガホンをとった日仏共同製作のヒューマンサスペンス。“母を殺した男”と“被害者の娘”という、本来交わるはずのない2人の運命をサスペンス形式で映しだす。

上映前の会場を見渡した中野監督は「オリジナルは自由度がすごく高い。それだけに答えのないものを探して作っていくという、おもしろさがありました」と完全オリジナルに挑んだ充実感を口にし、「ここにいるメンバーと共に、頑張ってこの物語を作り上げました。自信作です。たくさんのものを受け止めてもらえるように、作りました。楽しんで観てもらえたらうれしいです」と完成作に胸を張った。

主演の坂口は、狂おしいまでに“家族”という幸せの形を追い求め、破滅へと向かっていく主人公・西山夕平を演じた。過酷な運命を辿るキャラクターを担ったが、初めて脚本を読んだ際には「愛情と、ある意味の生々しさを感じた。監督の正直な気持ちを一気に全部受け取った気がした」と感銘を受けたと回想。あるシーンを例にあげながら「決してハッピーなシーンではないですが、その瞬間の夕平の気持ちがどこか痛いほどわかるというか。監督と初めて喫茶店でお会いさせていただいた時に、『このシーンがとても好きなんです』と伝えた」と惚れ込んだと語り、「夕平のなかに、いろいろなものが渦巻いていくシーン。あのシーンを読んだ瞬間に、ぜひご一緒させていただきたいという気持ちになりました」と中野監督に信頼を寄せた。

中野監督にとっては「みんなに、あのシーンがわかってもらえるか不安で仕方なかった」という場面だったという。中野監督は「『このシーンがわからない』と言われたら、どうしようかと思っていた。わかってもらえてとてもうれしかった」と喜びをにじませながら、「“この人とやっていける”と思った」とスタート地点から最高のタッグになると確信したという。

彼が想いを寄せるシングルマザー、紗月(堀田)の娘で、後に運命を大きく動かすヒロインの朝子を演じたのが、早瀬。オーディションを経て、朝子役に抜てきされた。「抜粋されたシーンのお芝居を、監督に見ていただくオーディションだった。少ない情報のなかからどれだけ朝子の輪郭を捉えて、落とし込んで演じられるかが、鍵でした」と振り返りつつ、合格の報せが届いた時には「安心しました。監督とご一緒したいという気持ちと、朝子を演じたいという気持ちで、結果が来るまでうずうずしていた」と同時に、「朝子の人生を背負うことに対する責任感や、プレッシャーも感じていました」と心境を吐露した。

また幼少期の朝子を演じる倉田は、「初めて坂口さんと会った時には、一緒にお弁当を食べました。監督さんは、たくさん演技を教えてくれました」とキュートな笑顔で会場の視線を釘付けにした。

朝子を何不自由なく育てようと懸命に生きる母親・紗月役の堀田は、中野監督との仕事を待ち望んでいたと告白。「デビューして1年目くらいに『湯を沸かすほどの熱い愛』を観て、感銘を受けました。いつか中野組に参加したいという想いがずっとあった。昨日もう一度、観返したら、また違うところでグッと来るものがあった」と中野作品に心を掴まれている様子。

中野監督作品への出演は14年ぶり、3作目となった滝藤は、「あのころと変わらず、情熱的。作品に対する想いが深い。安心して臨みました」と絶大な安心感を語り、一方の中野監督も「滝藤さんは絶対に入れてほしいと、オファーをしました」と相思相愛の想いを打ち明けた。朝子の祖母を演じる原田は、中野監督が演出部スタッフとして携わった作品で、一緒に映画作りをした縁があるとのこと。原田は「静かに物事が進んでいく作品。登場人物の誰もが愛情が深いけれど、愛情表現が下手」と本作の魅力に触れていた。

13年前の事件の真相を探っていくストーリーにちなみ、キャスト陣が「最近知った真実、出来事」をフリップに書いて発表する場面もあった。「泣くお芝居」と書いた坂口は、「ドラマや映画のなかで、泣くことがすごく多い」と自己分析。早瀬は「坂口さんと好きな食べ物が同じだったこと」が判明したと目尻を下げながら、「せーので、言いませんか?」と坂口に提案。すると「卵」と見事に声を揃えて、会場を楽しそうな笑いに包んだ。早瀬は「坂口さんは、ゆで卵が好物だと知った。私も一番好きな食べ物がゆで卵なので、一緒だ!と思った」と坂口と笑顔を見せ合っていた。

最後には、改めて「毎日、一瞬一瞬をすごく丁寧に撮影していた」となつかしんだ坂口。「夕平が生きた証や、夕平を取り巻く人々の感情は、きっと皆さんに伝わると思う。観る方のいまの環境で、捉え方が変わってくる作品だと思います。心の1本にしてください。この作品が皆さんの、心のなかの1本になれたらうれしいです」と願いを込めて、拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝
